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日常のはざまで――掌編集――  作者: 猫野沙子


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 祖父が亡くなって、近くに住んでいた私が祖父の家をもらった。


 祖父は一人暮らしだった。祖母は私が生まれる前に亡くなっており、会ったことはない。祖父の家はお父さんたち兄弟が独立してから小さく建て替えていて、祖父の趣味である苔庭があった。


 祖父は入院する前、私に苔を頼んだ。「毎日水をやってくれ」そう言って入院したけれど、この家に帰ることなくお墓に入ってしまった。


 祖父の入院中、いくら近いとはいえ毎日水をあげるのはさすがに無理だったから、自動散水機を設置した。出来るだけ祖父の家に来て、苔の状態を確かめていた。


 自分の家になってすぐに、祖父が残した庭の前に立って、

「今日から私がこの家の主になったの。あなたたちをお世話していた祖父は亡くなったわ。今後は私が出来る限りお世話するから、よろしくね」

と挨拶した。祖父が「動物でも植物でも、話しかけて愛情をもって育てれば、なんでもちゃんとこたえてくれる」と常々言っていたからだ。


 私が住むようになってから、苔泥棒が出るようになってしまった。女の一人暮らしなうえ、仕事で居ない事が分かっているらしく、いつの間にか苔がむしり取られているのだ。警察にも相談したし、防犯カメラも設置した。それでも、被害はなくならなかった。


 まばらになった苔を悲しい気持ちで眺めた。祖父が大事に大事に育ててきたのに、と涙がこぼれた。


 庭で思わず泣いてしまった次の日の朝、庭を見ると、驚くことにまた庭一面に苔が生えていた。私は喜んで庭に出て、苔たちに感謝した。きっと、泣いた私を気遣って頑張ってくれたに違いない。


 時々、苔ががんばりすぎるのか、庭石じゃないところも膨らんでいたりするけれど、それはそれで味わいがあって良い。私は苔たちにいつも「ありがとう」と言っている。




 


読んでくださり、ありがとうございます。

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