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日常のはざまで――掌編集――  作者: 猫野沙子


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中古車

 休日明け、会社に行くと同僚の車が変わっていた。「そろそろ買い替えないと」なんて聞いていたけれど、新しい車は古そうな中古車だ。


「車変えたのか?」

「いやぁ、休み中に急に壊れてさ。修理するくらいなら買った方がいいって言われて。とりあえず、一番安い中古車にしたんだよ」


 そう言って、同僚は苦笑した。次の車検までは乗るつもりだと言って、ポンと車を叩いた。


 次の日、珍しく同僚が遅く出勤した。渋滞が嫌だと言って、いつも始業1時間前には来ているのだが。


「珍しいな。寝坊したのか?」

「……なんか、道に迷って」

「はあ?」

「オレもびっくりしたよ。いつの間にか、違う道走ってた」


 それから同僚は毎日道に迷ったと言って、普段より遅く来た。


「ナビついてんなら、会社まで設定してみたらいいんじゃないか?」

「もうやった。ナビも調子悪くてさ。目的地設定しても、別な場所になるんだよ」

「なら、スマホのナビ使ってみれば?最近、遠出するとき使ってるんだよ。車のナビの地図、更新してないからさ」


 同僚はやってみると言って、次の日からまた始業1時間前に来るようになって、俺に礼を言ってきた。礼を言われるほどのものではないが。


 数ヶ月後、長期休暇あけに会社に行くと、同僚の車がまた変わっていた。今度はスポーティな中古車だった。


「いいのがあったのか?」


 同僚は何とも言えない顔をした。


 長期休暇を利用して、実家に帰ったと言う。母親を車に乗せて買い物に行ったとき、習慣となっているスマホのナビをみた母親に理由を聞かれて、話したらしい。


「即、寺に連れて行かれたよ」


 同僚の母親は信心深い人だ。新年のご祈祷は毎年受けているし、何かとお参りしていると聞いている。


「オレもさ、毎年新年の祈祷に連れて行かれるんだよ。で、お札もらうんだけど、そういや、スマホカバーに入れてたわ」

そう言って、同僚は笑った。



読んでくださり、ありがとうございます。

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