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日常のはざまで――掌編集――  作者: 猫野沙子


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待ち合わせ

 あこがれの人からデートに誘われた。浮かれて、精一杯おしゃれして、待ち合わせ場所に向かった。


 待ち合わせ場所には、まだあこがれの人は来ていなかった。そわそわしながら待っていると、横から急に若い男から声を掛けられた。


「マチ?」

「は?」


声を掛けられるまで気が付かなくて少し驚いたけれど、マチなんて名前じゃないから冷たい声を出した。


「……マチに似てるけど、違う」


 ぼそりと呟いていたけど、私は無視した。それよりも、あこがれの人が目に入って笑顔で手を振った。私に気が付いたあこがれの人はこちらに向かって走ってきた。そんなに急がなくてもいいのに。


「おじさん!やっと見つけた!」

「え?」


 私じゃなくて、私に声を掛けてきた若い男に、あこがれの人は満面の笑みを向けて、その肩に手を置いていた。


「とりあえず、家に帰りましょう」

「お前、誰?」

「ミスズの息子です。あなたの甥にあたります」

「何言ってんだ?俺はまだ17だし、姉貴だって結婚してねぇぞ」


 困惑している若い男に憧れの人が同情の目を向けた。

「覚えてますか?賭けをしたことを」

「――――ああ」

若い男はつばを飲み込んで、絞り出すように答えた。

「あなたは賭けに負けたんです。でも、ようやく取り戻せた。よかった」

「だから、お前は――――」

「あなたの甥です。あれから、25年過ぎています」


 若い男は信じられないという風にあこがれの人を見た。あこがれの人は私に冷たい視線を向けた。


「こいつの母親がマチです。来なかったんですよ」

「そう、か」

「帰りましょう。母はずっとあなたを待っています」


 あこがれの人は私に声を掛けることなく、若い男を連れて去っていった。

 




 


読んでくださり、ありがとうございます。

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