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「君を愛するつもりはない」からの溺愛が始まらない!と思ったら、なぜか原作以上に溺愛されています  作者: こじまき


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6/7

6 フラグは折れているか

「公爵夫人」


ルーカス様もずっと上の空の私に呆れたのかようやくどこかへ行き、会場でぽつんと葡萄ジュースを飲んでいると、声をかけられた。


はっと顔をあげると、待ち人来たり。


侯爵令嬢アデリナ様。ヴィルフリート様を狙っていたご令嬢のひとりで、私が待ち焦がれていた悪役令嬢。


「主役たる公爵夫人がそんなに地味では困りますわ!ご自分がヴィルフリート様の品格を下げているという自覚がおあり?」

「あ、え…」

「いやだわ、まともに話せもしないの!?オーホッホッホ!」


(…き、聞けたぁああ!!本物のアデリナ様の「オーホッホッホ」!罵倒する言葉のテンプレっぷりも、高慢に顎を上げる角度も完璧!まさに悪役令嬢の鑑でいらっしゃる!)


私は感動のあまり、熱い視線をアデリナ様に送ってしまう。


言葉はとってもキツいのだが、見た目は最高に可愛い。しかもヴィルフリート様を想う気持ちは本物で、メイクやドレスなど頑張る方向が間違っているとはいえ、とっても努力家のお嬢様。空回りぶりが可愛くて、この作品での私の「二推し」である。


「な、何よその目は!?悔しくないの!?」


正直全然悔しくはない。だって今のセリフは全部織り込み済みだもの。けれどイベントを原作通りに遂行するためには、それを悟られてはいけない。


だから私はぱっと悔しそうで悲しそうな表情をつくって、唇を噛む。そうしておいて、原作のエマに倣ってこう言うのだ。


「悔しいだなんて…アデリナ様のおっしゃる通りですから…」


このセリフの後に、ヴィルフリート様は私がいじめられていることに気付いて、助けに来てくれるはず…


なのに。


彼は来てくれない。


ただ、私を見ている。なぜか、戦慄の表情で。


彼が「罵倒を飄々と受け流したうえ、即座にしおらしい表情を作って受け流すだと…!?攻撃力があるだけではなく、攻撃への耐性ももつ猛者…!!」と考えていることなど、私にわかるはずもない。


「なんでヴィルフリート様を見つめ合ってるのよ!彼は女性と目を合わせないことで有名なのに!私だって一瞥しかいただいていないのに…っ!」

「そんなことは…」


バシャッ。


アデリナ様が、私のグラスをひっくり返し、清楚なクリームイエローのドレスが葡萄ジュースで染まっていく。


「えっ…?」


待って。


原作では言葉での攻撃しかされていなかった。ワインを直接かけるなんてわかりやすいいじめはなかったはずなのに。


「なんで…」


アデリナ様のイベントは起きたのに、原作の内容と違ってしまっている。


ハンカチの刺繍が下手だったから?魔界の植物ではハーブティーを作れなかったから?セクシードレスなんて着ちゃったから?


「原作とズレたら…ハッピーエンドが…」


口を押さえてガタガタと震え出した私に、ヴィルフリート様が駆け寄って、マントで包み込んだ。


「大丈夫か」


大丈夫じゃない。大丈夫じゃないの。原作ではこんなこと起こらなかったんだから。


このシーンでのヴィルフリート様は、私の手を引いてテラスに連れて行ってくれるだけなの。マントで包んだりしない。


「アデリナ嬢、後日正式に抗議させていただく」


そうしてヴィルフリート様は私を会場から連れ出して、部屋に連れて行ってくれた。


エマが夜会を途中退出するシーンも、なかった。


テラスでちょっと休んでまた会場に戻って、華麗にヴィルフリート様と踊って、「地味だと思ったけどなかなか…」って会場中の人たちに思われるはずだったのに。


「奥様…!どうなさなったのですか…!?こんなに震えて…それにドレスがこんな…誰がこんなことを…」


ゾフィーさんの声が、ぼんやりとしか聞こえない。


ハッピーエンドのフラグは折れかかっている。いや、もう折れてしまったのかもしれない。


どうなるの…?


「今日はもう休みなさい」


ヴィルフリート様に声をかけてもらっても、「はい」という言葉すら出てこない。私はゾフィーさんに背中を抱かれ、震えながら頷くしかなった。



震えていた。


妻のあんな姿を見たのは初めてだった。


アデリナ嬢に話しかけられ、罵倒されているのは聞こえていた。それでも妻は気にしていないようだった。うっとりとした表情すら浮かべていたのだから。


(さすが一流の暗殺者)


けれどドレスを汚された瞬間に、顔色が変わった。今までのことが嘘のように、口を押さえて、ぶるぶる震えて…


「もしかして、あれが本当の彼女なのか…?」


今までの態度はすべて、緊張や弱さを取り繕うための演技だったのだろうか。


私は彼女を見誤っていた…?


仮に彼女は本当に暗殺者だったとしても、誰かに無理強いされていて、彼女自身の意思ではない可能性だってあったのに。


そうであるならば、私は彼女を諭し、守ってやるべきではなかったか。


それをせず、彼女を誤解し、疑い、危険視して遠ざけていたから、こんなことになった。


小動物のような彼女を、わざと一人にして、結果怖がらせてしまった。


「そばにいれば…こんなことにはならなかったのに…」

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