11 どうやら原作以上に溺愛されています
目を開けると、琥珀色の瞳が私を見下ろしていた。
「私…イベントなんて起きないと思って油断して…それでゾフィーさんや護衛さんまで巻き込んで…」
「ごめんなさい」という前に、私は言葉を切った。
だって、ヴィルフリート様の目に浮かんでいたのは、迷惑をかけられたという怒りや叱責の色ではなかったから。
「だ、旦那様…?」
今にも泣き出しそうな顔。
「どうして旦那様が、泣きそうなんですか…?」
ヴィルフリート様がぎゅっと私を抱きしめる。
「君を…エマを失うかと思って怖くて、今抱きしめていられて安心して…」
「嘘…」
反射的にそう言ってしまうけど、彼の心臓は早鐘のように私の耳元で鳴っていて、「嘘じゃない」と告げていた。
「こんな気持ちは初めてでよくわからないが、君を失うかもと思ったら全身の血が抜けるような感じがして、それから頭が沸騰するような感じもして…」
それはもう、無自覚な溺愛の告白なのよ。心臓が止まりそう。
「君を愛してるんだと、思う」
止まりそうって言うか、止まる。
でも思考とは逆に、心臓はバクバク元気に動き始める。顔が熱い。
「わ、私は…失敗ばっかりだったのに…」
ハンカチも、ハーブも、夜会まで。
なのにどうして。
「ノートを…」
ヴィルフリート様はちょっと気まずそうに目を逸らした。
「エマのノートを見たんだ」
「え…っ」
「行き先の手がかりがわかればと思って必死で…!勝手に見てすまなかった!だがあのノートを見て君が何を思い、どれほどの献身で私を愛してくれていたかがわかった。何より…君を暗殺者だと疑っていた自分が、どれだけ愚かだったのかも」
「暗殺者」なんて物騒な言葉が気になって仕方ないけど、まずはノートを見られたことが重要。
ヴィルフリート様への愛を綴りまくった、あのノートを見られた。
「原作」とか「転生」とか「元々のエマ」とか、転生者臭がぷんぷんする、あのノートを。
「旦那様、あの…ノートに書いてあったことは…私、本当のエマではなくて…ないけど、でも…」
「でも…?」
「旦那様を好きなのは、本当です」
ヴィルフリート様は「うっ」と胸を抑える。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ああ。新婚の部下が『幸せすぎて死にそう』と言っていたのは、こういう気持ちなのか。ようやくわかった」
それはよかった。けど、いいのだろうか。
「ノートに書いてた通り、私、異世界から来たエマの偽物ですけど…大丈夫そうですか?」
「いいんだ。私は今のエマが好きなのだから」
ストレートで簡単すぎる。
「転生者だってバレたらどうしよう」とかドキドキしてる転生者のみなさん、好きだから大丈夫だそうです。
「ただ…」
「…?」
「ノートに書いてあったように、名前で呼んでくれたら、もっと好きになれそうだ。『旦那様』ではなく」
「…っ!」
琥珀色の瞳が「呼んでくれ」と、甘く熱く懇願している。
「ヴィル…ヴィルフリート様」
「ああ、エマ」
彼は私の頬を両手で挟む。
「いいか?」
「あ、でも人前…」
「関係ない。私のキスとハグが欲しかったんだろう?」
「そ、そうですけど…んっ」
深くて、甘くて、長い。
「帰ろう、エマ。愛しいエマ」
「…はい」
ヴィルフリート様は自分の馬に私を乗せて、後ろから私を抱え込む。そして私の髪や首筋にキスを落とす。
周りにはヴィルフリート様の部下の皆さんがいるっていうのに。
さっきのキスもだけど…
原作のヴィルフリート様は溺愛はするけど冷徹公爵ではあるから、人前ではあんまりいちゃいちゃしなかったのに…
どうなっちゃってるの?
「ヴィルフリート様って、こんなキャラ…性格でしたっけ?人前でこんな堂々と…」
「どうだろうな。以前ならこんなことはしなかったろう。しかしエマが、私の心の奥深くの扉を開けたんだ」
エマが…っていうか私が、彼を原作以上の溺愛モンスターに変貌させちゃったってこと?
「もう扉は閉められないぞ」
ヴィルフリート様は私に後ろを向かせて、私を片手で抱きしめながら、深いキスをする。
「私のキスとハグが欲しかったのだろう?私ももっと、エマのキスが欲しい」
「はわ…」
「可愛い。赤くなっているところも、頑張っているのに不器用なところも、全部可愛い。好きだ、エマ」
これ以上キスしてたら唇が腫れちゃいそうなんだけど、彼に見つめられたら拒否できない。
原作をなぞるのに失敗しすぎて、溺愛がスタートしないと思っていたのに…
いつの間にか、原作以上に溺愛されているみたいです。




