第8話:『セコすぎる過去、巨悪の包囲 ―さらば、プリン総理―』
1. 暴かれた「小市民」な不祥事
「……神田。今度は、何だ。隠し口座か? それとも、異国との密約か?」
平八郎は、神田が持ってきた週刊誌を手に取った。
しかし、神田の顔は怒りというより「恥ずかしさ」で真っ赤だった。
「いえ、総理……。もっと、こう……救いようのない内容です」
見出しには、こう書かれていた。
『独占スクープ! 石悪総理、秘書の高級プリンを盗み食いした動かぬ証拠』
『さらに発覚! 家族で行ったファミレスの領収書を「外交機密費」で落としていた!』
『官邸のトイレットペーパーを、こっそり自宅に持ち帰る総理のセコすぎる背中』
「…………」
平八郎は、沈黙した。
かつて大坂で戦った敵は、強欲ではあったが、少なくとも「巨悪」だった。
だが、この石悪という男は――。
「……プリンを盗んだだと? 民が飢えている時に、秘書の甘味を盗み、あまつさえ『領収書』という公文書を、鳥の唐揚げ(ファミレス)ごときで汚したというのか……?」
平八郎の全身から、かつてないほどの、情けなさに満ちた殺気が溢れ出した。
「おのれ、石悪……! 拙者を、これほどまでに小さき器の中に閉じ込めたか! この恥、万死に値するッ!!」
平八郎は、官邸の壁に頭を打ち付け、あまりの情けなさに号泣した。
2. 経済の「兵糧攻め」
そんな「プリン総理」への冷笑が日本中に広がる中、政界の長老・森川はほくそ笑んでいた。
「フフフ、これぞ石悪の真骨頂。奴を徹底的に『小者』として印象づけ、その隙に息の根を止める……」
森川は、経済界の重鎮たちに合図を送った。
「やれ。日本の市場から一斉に資金を引き揚げろ。円を暴落させ、物価を吊り上げろ。民が『プリンどころじゃない』と叫ぶ地獄を創るのだ」
翌朝。
日本列島に衝撃が走った。
急激な円安。株価の大暴落。スーパーからは食料品が消え、ガソリン価格は跳ね上がった。
「経済の兵糧攻め」――森川による、現代版の「焦土作戦」だった。
3. 「銭の守り人」たちとの対峙
「総理! 経済界のトップたちが、あなたの退陣を条件に市場を安定させると言ってきています!」
神田の報告を聞き、平八郎は涙を拭いて立ち上がった。
「……銭で民を脅すか。大坂の、悪徳両替商と同じ手口よ」
平八郎は、経団連のビルへと乗り込んだ。
そこには、日本の富を牛耳る経済界の重鎮たちが、冷ややかな目で彼を待ち構えていた。
「石悪さん、プリンの件は笑いましたよ。あなたが辞めれば、市場は落ち着く。それが『ビジネス』です」
平八郎は、彼らの前に仁王立ちになり、静かに口を開いた。
「……お主ら。この国を、何だと思っている」
「……何って、巨大なマーケット(市場)ですよ」
「マーケットだと? 違う。ここは、人が生きる場所だ。民が笑い、泣き、汗を流して働く『魂の庭』だ!」
平八郎は、テーブルを木刀(樫の木)で一喝した。
「銭を動かして数字を競うのが、お主らの誇りか? 違うはずだ! かつての商人は、民を富ませるために商いをした! お主らは、ただの『銭の亡者』に成り下がったのか!」
4. 侍の経済学
「……フン、理想論だ。金がなければ国は動かない」
「ならば、動かしてみせよう。私はかつて、自らの命である蔵書をすべて売り、民を救った! お主ら、畳の上で安らかに死にたいか? それとも、未来の子供たちに『あの時、自分たちが日本を救った』と語り継がれたいか!」
平八郎の眼光が、重鎮たちの心の奥底に眠る「良心」を貫いた。
「私は、石悪という小者の体を使っている。だが、私の魂は、民を救うためなら何度でも火の中に飛び込む大塩平八郎だ! お主らが民を裏切るなら、私は今この場で、お主らと共に地獄へ堕ちる覚悟がある!」
平八郎は、懐から「石悪の私財(裏金を含む全資産)」の通帳を叩きつけた。
「……これは石悪が貯め込んだ、汚れた金だ! これをすべて、今この瞬間に放出し、市場の買い支えに当てる! 足りぬ分は、お主らの『意地』で見せてみろ!」
その気迫。
プリンを盗んだ男とは、到底思えない、神がかった威厳。
重鎮たちの一人が、思わず漏らした。
「……面白い。数字ばかり追う生活には、飽き飽きしていたところだ」
5. 市場の逆転劇
その日。
「謎の巨額買い」が入り、日本の市場は劇的な反発を見せた。
経済界の重鎮たちが、森川長老を裏切り、平八郎の「義」に賭けたのだ。
テレビ画面では、神田秘書官が会見を行っていた。
「石悪総理は、プリンの代金として給与の全額を返納し、さらに自身の全資産を経済対策に充てることを決定しました。……これぞ、『知行合一』の真髄です!」
ネットでは、爆笑と感動が入り混じった声が上がった。
『プリン総理、中身がカッコよすぎて草』
『セコい過去を資産放出で上書きするとか、パワープレイすぎ』
『逆に、プリンを盗むほど追い詰められてたのか……?』
支持率、ついに40%へ。
だが、平八郎は独り、夜の官邸で神田に頭を下げていた。
「……神田殿。プリンの件、本当にかたじけない。石悪に代わり、私が詫びる」
「……もういいですよ、総理。それより、あのアメリカの大統領から、SNSでメッセージが届いてますよ。『プリンなら俺がいくらでも送ってやる、頑張れ侍』だそうです」
平八郎は苦笑し、夜空を見上げた。
「……大坂の民よ。見ておるか。……来世の戦は、なかなか、食えないな」
森川長老、ついに最後の手段へ。
「石悪……いや、平八郎。お前を、物理的に『消す』しかなくなったようだな……」




