第7話:『檄文は光速を超えて ―総理、バズる―』
1. 卑劣な「影」の仕掛け
「……これは、酷すぎます!」
秘書官の神田が、震える手でスマホを平八郎に突き出した。
画面には、衝撃的な見出しが踊っている。
『石悪総理、海外に隠し口座! 復興予算を私物化か!?』
『独占スクープ! 総理、深夜のラウンジで美女3人と密会不倫!』
添えられた写真や動画には、たしかに石悪(平八郎)がニヤケ顔で札束を受け取り、女性の肩を抱く姿が映っていた。
「……神田。これは、何という術だ? 私はこの数日間、修行と握り飯の事しか考えておらぬ。このような女子たちなど、一人も知らぬぞ」
「わかってます! これは『ディープフェイク』です。AIを使って、偽物の動画を本物そっくりに作る悪質な捏造ですよ。権田長老たちの仕業に違いありません!」
世論は一気に反転した。
せっかく20%まで上がった支持率は、数時間で1%へと急落。官邸前には「嘘つき総理は辞めろ!」と叫ぶ人々が集まり始めた。
2. 「掲示板」という名の戦場
「……言葉を盗み、姿を偽り、民を欺くか。大坂の悪徳商人と、やっておることは変わらぬな」
平八郎の瞳に、冷たい怒りが宿る。
神田は必死に説明した。
「総理、今の時代、一度ネットで拡散された情報は消せません。記者会見を開いても、どうせ揚げ足を取られるだけです」
「……ならば、直接語ればよい。この『えすえぬえす』というものは、民一人一人の耳に、直接声を届けるための『狼煙』であろう?」
「……え、まあ、そうですけど。……まさか、生配信をやるつもりですか?」
平八郎は力強く頷いた。
「知行合一だ! 疑いがあるなら、隠さず、偽らず、ありのままをさらけ出すのみ。神田、その『魔法の箱』を準備せよ!」
3. 伝説の生配信、開幕
その夜。
総理公式YouTubeチャンネルにて、緊急生配信が始まった。
同時視聴者数は瞬く間に100万人を突破。コメント欄には、誹謗中傷の嵐が吹き荒れる。
『死ね』
『デブ詐欺師』
『腹切れ』
画面に映し出したのは、豪華な書斎ではなく、質素な和室。
そこに、上半身裸で座禅を組む石悪(平八郎)が現れた。
「……民よ。騒がせておるようで、済まぬ」
低く、響く声。
コメント欄が一瞬、止まった。
引き締まった肉体、そして一切の迷いがない眼光。
動画の「ニヤケ顔の石悪」とは、あまりにも別人だったからだ。
「……あそこに映っておる男は、私ではない。あれは影だ。魂なき、泥の姿だ」
平八郎は、一振りの木刀をカメラに向けた。
「……信じぬ者は、それでよい。だが、私は誓おう。私は、己の私欲のために一銭の金も受け取っておらぬ。もし、一分の嘘でもあれば、私は今この場で、自らの腹をかっ捌いて見せよう!」
4. アンチを「喝」で粉砕
コメント欄に、工作員たちが一斉に書き込む。
『証拠を出せ!』
『どうせパフォーマンスだろ!』
平八郎は、画面の向こう側にいる数百万人に語りかけた。
「……証拠? 証拠など、この肉体と、私の行い以外に何がある! お主ら、いつからそんなに、画面の中の文字ばかりを信じるようになったのだ!」
彼は、カメラに顔を近づけた。
「……自分の目で、見よ。自分の耳で、聞け! 私の言葉が嘘か、それとも真実か、お主らの『魂』に問いかけてみろ! 知っているのに、騙されたふりをして嘲笑う。……お主らは、そんなに卑怯な民であったか!?」
「喝ッ!!!!!」
平八郎が画面に向かって一喝した。
その瞬間、配信の音声レベルが振り切れ、視聴者たちのスマホが物理的に震えた。
誰もが、その気迫に圧倒され、キーボードを打つ手を止めた。
5. 逆転のバズ
配信から数分後。
ネット上の空気は、劇的に変わり始めた。
『……この気迫、フェイクじゃ作れねえ』
『初めて政治家の言葉で、鳥肌が立った』
『AIの動画より、このおっさんの目の方が信じられる』
さらに、平八郎の「一喝」のシーンが切り抜かれ、TikTokやInstagramで爆発的に拡散された。
若者たちは、その圧倒的な「ガチ感」に魅了されたのだ。
「……神田。あの流れていく文字は、止まったか?」
「……止まるどころか、凄まじいことになってます。『総理、推せる』『一生ついていく』って……。
支持率、V字回復して、ついに30%です!」
平八郎は、ふぅと息を吐き、神田に聞いた。
「……ところで、この『スパチャ』という金色の絵は何だ? 画面に銭が降っておるが……」
「……あ、それは視聴者からの投げ銭です……。えっ、待って、一晩で数千万円……!? これ、全部被災地に寄付すれば、また好感度が……」
平八郎は微笑んだ。
「……当然だ。蔵に入らぬ金は、民に返せ。それが『令和の蔵破り』だ」
その頃、高級クラブで配信を見ていた森川長老は、震える手でスマホを床に叩きつけた。
「……バカな。……ネットの民を、魂だけで説得するだと……!? 石悪、貴様は……一体、何者なんだ……!」
大塩平八郎、SNSという「現代の檄文」で民の心を掌握!
だが、追い詰められた闇の勢力は、ついに「国家の崩壊」を目論む暴挙に出る――。




