第4話:『国会炎上! ―言わぬは知らぬと同じなり―』
1. 官邸の嵐、国会への道
「総理! その格好で行くおつもりですか!?」
秘書官の神田が、執務室で絶叫した。
目の前には、いつもの高級スーツではなく、なぜかスーツのズボンを膝まで捲り上げ、頭に「救民」と書いたハチマキ(実は神田の白いスカーフにマジックで書いたもの)を締めた石悪総理が立っていた。
「……神田。形などどうでもよい。私は、民の声を聞きに行くのだ」
「いえ、国会は『聞く』場所じゃなくて『答える』場所です! しかも、今日の予算委員会は野党の集中砲火ですよ。ほら、この答弁書を読んでください。『適切に検討してまいります』って100回くらい言えば終わりますから!」
平八郎(中身)は、差し出された分厚い書類を手に取ると、パラパラと捲り――。
ビリッ、ビリビリッ!!
一瞬で、それを紙吹雪に変えた。
「……え、あ、私の徹夜の成果が……」
「検討、検討と……お主らは、言葉を腐らせる天才か! 知って行わぬは、知らぬと同じ。言葉を並べる暇があるなら、一粒の米を民に配れ!」
平八郎は、ブヨブヨの腹を揺らしながら、堂々と国会議事堂へと乗り込んだ。
2. 野党の追及、総理の沈黙
国会議場。カメラのフラッシュが焚かれ、日本中の注目が集まる。
野党第一党の党首・大口が、ニヤニヤしながらマイクの前に立った。
「石悪総理! 先日の『コンビニ廃棄弁当号泣事件』、実に見事なパフォーマンスでしたねぇ! 泣けば支持率が上がるとでも思っているんですか? 政策の中身がスカスカじゃないですか!」
議場に、与野党入り乱れた嘲笑が響く。
いつもの石悪総理なら、ここで上目遣いにキョロキョロしながら、「それはですね、極めて限定的な意味において……」とモゴモゴ逃げるはずだった。
だが、今日の総理は違った。
彼は、椅子に深く腰掛け、目を閉じ、微動だにしない。
……いや、あまりにも動かないので、寝ているのかと思われた。
「おい、総理! 無視ですか!? 答弁に立ちなさい!」
大口が怒鳴り声を上げたその時。
平八郎が、ゆっくりと目を開けた。
その瞬間、議場の温度が5度下がったかのような、凄まじい「殺気」が走った。
3. 「喝!」の一撃
平八郎は、ゆっくりと演壇へ歩み寄った。
マイクの前に立つ。
静寂。
そして――。
「……お主ら、恥を知れッ!!」
議場全体が震えるほどの咆哮だった。
マイクがハウリングを起こし、最前列の議員たちが椅子から転げ落ちる。
「……え、あ、何……?」
「先ほどから聞いておれば、パフォーマンスだの、支持率だの……。お主らの頭の中には、己の顔を売ることしか入っておらぬのか! この議場の外で、明日の飯も食えずに震えている民が、一人でもいることを忘れたか!」
平八郎は、議場を指差して続ける。
「かつての大坂でも、お主らのような役人がいた! 民が餓死している横で、自分たちだけは美食に耽り、言葉遊びに興じていた! 私は、そんな奴らを、一人残らずこの手で斬り捨ててきたのだ!」
「……き、斬り捨てた!? 総理、不穏当ですよ!」
議長が慌てて制止するが、平八郎は止まらない。
「言葉はもうよい。行動だ! 私は本日、この国の全予算を見直し、無駄な利権をすべてぶち壊す『令和の蔵破り』を断行する! 文句がある奴は、今すぐ前に出ろ! 拙者が、まとめて相手をしてやる!」
4. 前代未聞の「セップク」宣言
議場は、もはや騒然どころではない。パニックだ。
「総理が発狂したぞ!」
「護衛、護衛を呼べ!」
だが、平八郎は懐から、一本の「割り箸」を取り出し、それを自分の腹に突き立てる仕草をした。
「……もし、私の改革が成し遂げられず、民が一人でも路頭に迷うことがあれば、私はこの場で腹を切り、お主らにその血を見せてやろう! 嘘ではない、私は一度、この国のために命を捨てた身だ!」
その気迫。
その眼光。
狂気の中に宿る、圧倒的な「本物」の正義。
野党議員も、与党の黒幕たちも、あまりの気迫に蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。
テレビの前の国民は、息を呑んだ。
SNSでは、『石悪総理』というワードが世界トレンド1位を独走していた。
『#令和の大塩平八郎』
『#腹切り総理』
『#ガチ勢降臨』
5. 奇跡の1.2%
国会からの帰り道。
高級車の後部座席で、平八郎はぐったりと座っていた。
「……はぁ、はぁ。神田、この体……やはり一回怒鳴っただけで、心臓がバクバクする……。脂が、脂が邪魔だ……」
「……当たり前ですよ、総理。でも、見てください。支持率が……」
神田がスマホを見せる。
『支持率、まさかの急上昇! 1.0%から1.2%へ!』
「……0.2%しか上がっておらぬのか。……道は、険しいな」
「いや、この状況で上がるなんて奇跡ですよ! でも、総理……明日のスポーツ紙の見出し、大変なことになりますよ。『総理、国会で割り箸片手に割腹宣告』って」
平八郎は、窓の外を流れるネオンを見つめながら、静かに微笑んだ。
「……面白い。この令和という世、蔵を破るのが楽しみだ」
大塩平八郎、ついに「政治」という名の戦場を焼き尽くし始める。




