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大塩平八郎、令和に立つ —デブ総理の中身が義士だったので、知行合一で国を救ってみた—  作者: 桐生宇優


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第3話:『この体、不届き千万! ―総理、脂を削ぐ―』

挿絵(By みてみん)

1. 秘書官の受難


「総理、いい加減にしてください。またネットで『ブタ総理』ってトレンド入りしてますよ。……って、えぇ!?」


総理執務室に飛び込んできた、若き女性秘書官・神田かんだは、鏡の前で絶叫している上司を見て、言葉を失った。


鏡の中の「石悪総理」は、自分の三段腹を鷲掴わしづかみにし、涙を流しながら叫んでいたのだ。


「……おのれ、不届き千万! この脂、何という不徳の塊だ! これでは、民の前に立つこともできぬ!」


その声は、いつものねっとりとしたものではなく、腹の底から響くような、凛としたものだった。


「……総理? 突然、どうされたんですか? 脂って、あなたの贅肉ぜいにくですよね」


神田が呆れ顔で問うと、平八郎(中身)は鏡から視線を外し、神田をにらみつけた。

その瞳には、かつての保身に走る石悪の姿はなく、真剣そのものだった。


「拙者……いや、私は、大塩平八郎である!」


「……はぁ? 大塩……平八郎? あの、中学の歴史で習った、乱を起こして自決した……?」


「左様! 天は、私に、もう一度、民を救う機会を与えられたのだ! しかし、なぜ、このような、締まりのない、醜い肉体に閉じ込めたのか……!」


神田は、そっとスマホを取り出し、精神科医の番号を探し始めた。


2. 高級オムレツの行方


「神田! 朝食はまだか! 私は、一日一汁一菜と決めている!」


精神科医を呼ぼうとした神田を、平八郎の一喝が止めた。


「……一汁一菜? 総理、いつも『フレンチの巨匠が作ったオムレツ』以外は召し上がらないじゃないですか」


「何だと……! 民が飢えに苦しんでいるというのに、フレンチだと……?」


ちょうどその時、高級なワゴンに乗せられた、黄金色に輝くオムレツが運ばれてきた。


トリュフの香りが、執務室に広がる。その一口分で、天保の民が何人生きられたことか。

平八郎の眉間に、深い溝が刻まれた。


「……神田。これは、何という食べ物だ」


「何って……フレンチの巨匠特製の、キャビア添えオムレツです」


「……そうか」


平八郎は、ワゴンに近づくと、その豪華なオムレツを、ワゴンごと、窓から投げ捨てようとした。


「キャァァァ! 総理、何をするんですか!」

神田が悲鳴を上げる。


「一汁一菜と言ったであろう! このような美食、民の血税の味がするわ! 下げろ、今すぐ下げろ!」


「……血税の味って、あなた、いつも『税金は私の小遣いだ』って……」


「……何だと? この拙……私が、そのようなことを……?」


平八郎の殺気立った瞳に、神田は思わず後ずさった。

この男、中身が完全に別人だ。


3. 官邸ブートキャンプ


「一汁一菜、そして肉体改造! まずは、この脂を削ぎ落とす!」


朝食(神田が渋々用意した麦飯と味噌汁)を数分で平らげた平八郎は、SP(警護官)たちを執務室に集めた。


「お主ら、拙……私の修行に、付き合え!」


「修行……ですか、総理? 我々は護衛が任務でして……」


SPのリーダー、剛田ごうだが困惑する。

だが、平八郎は聞く耳を持たない。


「護衛? この、締まりのない体で、民を守れると思っているのか! 民を守るには、まず己を律せよ!」


平八郎は、執務室にあった木製の椅子を手に取ると、それを木刀に見立てて、素振りを始めた。


「……い、一! 二! 三!」


しかし、その体はブヨブヨの脂の塊だ。十回も振らないうちに、肩が上がり、息が切れる。


「……はぁ、はぁ、おのれ、この体……!」


それでも、彼は止めなかった。


知行合一ちこうごういつ! 行動なき言葉に価値なし!」


その気迫に、剛田たちSPも、思わず姿勢を正した。


「……総理、お供します!」


数分後、総理官邸の執務室は、SPたちが総理の素振りに合わせて掛け声を上げる、謎の道場と化していた。


4. 廃棄弁当への慟哭


「……神田。私は、下界(街角)が見たい」


修行で泥まみれ(のつもりの汗まみれ)になった平八郎は、神田に外出を命じた。


「……下界って、街中ですよね。SPが反対しますよ」


「SPも、一緒に来るのだ! 民の暮らしを知らずして、政治などできぬ!」


渋々、神田とSPたちは、平八郎を連れて官邸を出た。


高級車の中から、平八郎は、令和の日本の町並みを見つめた。


空を突くような建物、光る看板、誰もが手にしている魔法のスマホ


「……これが、来世……。民は、飢えておらぬのか」


その時、車の窓から、コンビニエンスストアの裏手に、大量の弁当が捨てられているのが見えた。


「……神田、あれは何だ」


「あぁ、あれは、コンビニの廃棄弁当ですね。賞味期限が切れたので、捨てるんです」


「……捨てる……? 食べられるのに、捨てるというのか?」


平八郎の声が、震えた。


「……左様です。毎日、大量に捨てられますね」


「……おのれぇぇっ!」


平八郎は、車を止めさせると、コンビニの裏手へ走り出した。


「総理、危ない!」

SPたちが追いかける。


平八郎は、廃棄弁当の山の前に膝をつくと、その一つを手に取り、泣き崩れた。


「民が飢え、土を食んでいたというのに! お主らは、食べ物を捨てるほど、豊かなのに、なぜ、民を守らぬか!」


「……総理、それは、ビジネスの仕組みで……」


「……ビジネスなど、クソ喰らえだ! 民を救わぬ仕組みに、存在する価値なし!」


廃棄弁当を抱え、号泣する総理大臣。


その姿は、通りがかった人々のスマホに収められ、瞬く間にネット上に拡散していった。


『ブタ総理、コンビニの廃棄弁当に号泣』


支持率、0.8%から、奇跡の1.0%へ。




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