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第十二話 正しさの届き方

ルートヴィヒ・ハルトゥング少佐は、賞賛というものをあまり信用していなかった。


賞賛はたいてい、物事が終わったあとで配られる。

しかも、正しく働いた者に与えられるとは限らない。

むしろ、次に便利に使いたい者へ先回りして貼られる名札に近い。

軍という組織では、とくにそうだった。


だから、夏季統合動員演習の総括が王都グランツェルの統帥府北棟で始まったとき、ハルトゥングはすでに、あまり気分のよくない予感を持っていた。


彼はラーエ河渡河の修正版時刻表、橋梁容量の再計算、東岸予備火力の射界表、重量後続の留置線再配分案を、きちんと順序立てて綴じた資料束を持って会議室へ入った。

資料は正確だった。

正確である以上、本来ならそれで足りるはずだった。


だが社会では、正確さは必要条件にすぎず、十分条件ではない。

彼はこの種の不快を、もう若い頃から知っていた。


春のまだ寒さの残る午後、第三課長エッゲン大佐の部屋で窓際の椅子に座る若い大尉を見た日のことを、彼はいまでもかなり明瞭に思い出せる。

ライフェンベルク。

その姓だけで、部屋の中の椅子の座り心地が少し変わる。

ハルトゥングという姓は、統帥府のどの扉も軽くしなかった。


しかも、若く、主席で、育ちがよさそうで、年寄り受けしそうな顔までしていた。

腹立たしかった。

そこまではまだいい。腹立たしいが、理屈のある腹立たしさではある。


だがその後も彼は、何度も同じ種類の不快を味わった。

計算は自分の方が速い。

橋面容量も、鉄路使用時間も、射界も、自分の方がよく見える。

だが会議が煮詰まると、最後に流れを変えるのはその若い大尉だった。


内容は、驚くほど自分の案と近い。

いや、近いというより、ほとんど同じ場合すらあった。

違うのは、言い方だけだった。


全廃ではなく、添付。

統一ではなく、別記。

後続ではなく、予備火力。


中身は同じ。

だがその一語の違いで、年寄りたちは急にそれを飲み込む。


最初のうち、ハルトゥングはそれを家名の効果だと思おうとした。

ライフェンベルク家の若い士官が言うから、皆が耳を貸すのだ、と。

その解釈は彼の自尊心にとって多少都合がよかった。

正しさが届かないのは自分の能力の不足ではなく、相手の階級趣味のせいだと考えられるからである。


だが、その見立てだけでは説明しきれない場面が少しずつ増えていった。


家名だけの男は、他人の案を柔らかく言い換える前に、その中身を取り違える。

クラウス・フォン・ライフェンベルクは、それをしなかった。

計算は自分ほど速くない。

設計は自分ほど鋭くない。

だが、誰がどの語で傷つくか、何を一枚に書くと揉めるか、どこで欄を分ければ急に皆が理性的な顔をし始めるか、その奇妙に組織的な感覚については、明らかに何かを持っていた。


それが家名によるものなのか。

本人の性質によるものなのか。

長い間、判別できなかった。

そして判別できないということ自体がさらに不愉快だった。


夏季統合動員演習を終えた今、彼はすでに、その若い大尉を明白な無能とは見ていなかった。

そんな判断はとうに捨てている。


問題は、その「認め」に残り続ける痛みだった。


正しい案を作るのは自分だ。

鉄路運用の再計算をやるのも自分だ。

橋面容量と射界を見て、どこまでが可能でどこからが夢想かを切り分けるのも自分だ。

それでも組織が最後に見るのは、「正しい案を出したのに通らなかった自分」と、「同じ案を柔らかく言い直して通した大尉」の方である。


その差は、自分の欠陥なのか。

組織の欠陥なのか。

それとも、正しさだけでは世界は動かないという、もっと認めたくない種類の真実なのか。


ハルトゥングには、いまだに答えが出ていなかった。





北棟の会議室には、統帥府長官補佐官、軍務省の老将官、人事局長ヘルベルク少将、法務局のフォークト参事官、それに外務省から来た痩せた参事官がいた。

軍の会議に外務省が顔を出す時は、たいてい国境の向こうで誰かが無駄に誇り高くなっている時である。

つまり、ろくでもない兆候だった。


総括は最初こそ整然としていた。


橋面損傷。

第一橋不能。

第二橋軽量優先。

第三橋完成時刻。


ここまでは事実だ。

そして事実の列が終わるあたりから、案の定、話は「では誰がこの困難を処理したのか」という、もう少し扱いの悪い領域へ入り始めた。


「実施本部の段階区分が効いた」


とヴィルマー中将が言った。


「攻勢開始線形成、火力連接、重量後続を分けて扱ったのがよかった」


「段階区分と言っても、時刻表と射界表が成立していたからこそです」


とハルトゥングは言った。


自分でも少し硬い言い方だとは分かっていた。

だがそこで誰も、橋梁容量や射界表の話をしないのは、彼にとって愉快なことではなかった。

補佐官は、紙の上から目を上げた。


「無論、その通りだ。だが、その成立した時刻表と射界表を、誰が現場の将官たちに飲ませたか、という問題もある」


飲ませた。

実務を薬のように言うのは、たいてい上層部の癖だった。


ヘルベルク少将が、人事簿の写しらしき紙を指で軽く叩いた。


「ライフェンベルク大尉は、夏の演習期間を通じて繰り返し同じ役割を果たしている。西部でもそうだったし、今回もそうだ。諸邦の面目を保ちつつ、実務上必要な区分だけはきっちり残している」


ハルトゥングは、そこでほんの少しだけ目を伏せた。


彼はもう、クラウスを嫌ってはいなかった。

むしろ、嫌うにはあまりに野心が薄く、敵意も薄い男だと思っていた。

だが同時に、この会議室でいま起きていることが、多少は気に入らなかった。


橋を持たせたのは工兵であり、

線路を空けたのは鉄路局であり、

計算を詰めたのは自分だった。


その上でなお、最後に誰が場を収めたか、という一点だけが妙に鮮やかに残る。

組織というものは、因果の最後尾にいる者へしばしば光を当てる。

厳密ではないが、その方が分かりやすいのだろう。


「少佐」

と補佐官が言った。


「君はライフェンベルク大尉ともっとも近く働いている。率直に言って、あれはどういう男なのだ」


率直に。

会議室でその語が出るたび、ハルトゥングは少し警戒した。

率直さというものは、聞く側がすでに欲しい答えを決めている時ほど要求される。


それでも彼は、少し考えてから答えた。


「作戦家ではありません」


部屋が静かになった。

ヘルベルク少将の眉がわずかに動き、老将官の一人が椅子の背で体を起こした。


ハルトゥングは続けた。

「少なくとも、敵情を見て即座に機を断つ種類の頭ではありません。戦場の直観で場をひっくり返す男でもない。そういう意味での天才ではありません」


補佐官は黙ったまま、先を促した。

ハルトゥングは、言葉を選んだ。

相手を守るためではなく、事実をできるだけ正確に置くために。


「ただし、会議で皆が同じ語へ違う意味を押し込み始めると、それを裂いて別の箱へ入れる癖があります。名誉と実務、観閲と輸送、公報と教訓。そういう具合に、潰れかけたものを分ける。兵を直接動かす才能というより、人を同じ紙の前へ座らせる才能です」


法務局のフォークト参事官が、そこで小さく頷いた。


「それは十分に危険だな」


「危険、ですか」


と外務省の痩せた参事官が言った。


「連邦国家においては、という意味だ」


フォークト参事官は答えた。


「諸邦の権限と体面を傷つけずに、実動だけ統一する者は、剣を振るう者より長く効く」


そこまで言われると、ハルトゥングは少しだけ嫌な気分になった。

正確に言ったつもりの説明が、またしても別の形の賞賛へ変形されるのを目の当たりにしているという感覚だけがはっきり残った。


補佐官はそこで、机上の別の書類へ手を伸ばした。


「ちょうどよい。ならばこの件とも符合する」


その書類には、外務省印が押されていた。

痩せた参事官が口を開く。


「ルサント王国の件です」


会議室の空気が、そこで少し変わった。

演習の総括に国境の向こうの話が混ざる時、それはたいてい、演習がもう演習だけでは済まぬ兆候だった。


「ルサント国王アロワン二世、六月二十六日未明に崩御」


参事官は乾いた声で言った。


「跡継ぎは、傍系のアドル伯を推す王党保守派と、第一王女エレオノーラ殿下を軸にした摂政体制を支持する宮廷派に割れております。現地評議会はまだ正式な承認を出していない。だがベルヴァーニュ側の新聞は、すでに“ノルトマルクの干渉を拒むべし”と書き始めた」


誰もすぐには発言しなかった。


ルサント王国は、小さく、緩衝的で、だからこそ面倒な国だった。

地図の上では小さな土地にすぎないが、その土地の上をどちらの鉄路が優先して走るかで国境の意味がだいぶ変わる。


「つまり」


とヴィルマー中将が言った。


「秋の西方大演習は、そのまま国境査閲も兼ねることになるわけだな」


「おそらくは」


外務省参事官が頷いた。


「少なくとも、そういう含みで準備しておく方が賢明でしょう。公にはあくまで演習だが、鉄路、告示、集結地、各邦軍の接続状態は、より実際に近い目で見られることになる。もっとも、継承の如何によってはそれまで国境がもつかどうか」


補佐官は、そこで人事簿の紙を閉じた。


「ハルトゥング少佐」


「は」


「君は西方査閲班へ回れ。ルサントの王都サン・ルネで西方総監部とともに葬儀に参加してもらう」


予想はしていた。

だから異論はない。

むしろ、自分がそこへ回されぬ方が奇妙だった。


「ライフェンベルク大尉も同行させる」


それも、予想していた。

だがやはり少し早すぎる気はした。


ハルトゥングは慎重に言った。


「大尉は実務上有用です。ですが、ルサントの件は政治の比重が増します。継承会議の如何によっては衝突にまで発展しかねません。彼は……」


補佐官が先を促した。


「作戦家ではない、と?」


「ええ」


ハルトゥングは答えた。


「少なくとも、危機の中心で決断を下す種類ではない」


補佐官はそこで、少しだけ笑った。


「決断を下す者なら、こちらにいくらでもいる。困っているのは、決断の前段階で皆がそれぞれ別の言葉を使って揉めることだ。ライフェンベルク大尉はそこに効く」


ヘルベルク少将も続けた。


「加えて、ライフェンベルク家の名は西方で軋みにくい。諸邦軍の老人たちが、あれの前では余計な虚勢を張りすぎない。これは小さくない」


つまり結論は、もう出ていた。


クラウス・フォン・ライフェンベルクは、才能があるから連れていかれるのではない。

脅威でなく、しかし無視もしにくいから連れていかれる。

連邦国家における調整役とは、多くの場合そういうものだ。





会議が終わり、北棟の廊下へ出た時、ハルトゥングは珍しく少しだけ疲れていた。


外は晴れていたが、ガラス越しの光がやけに白い。

白い光の中で、書記官たちが紙束を抱えて行き来している。

その光景を見ながら彼は、賞賛というものが結局、次の配置を決めるための準備行為にすぎないことを改めて思った。


北棟から南棟へ渡る廊下の途中で、軍務省の下級官吏が持っていた夕刊の見出しがふと目に入った。


『ルサント弔問使節、ベルヴァーニュ皇都より先発か

東西国境における不穏な論説、相次ぐ』


演習は、まだ続いている。

だがその先には、もう別の季節が待っていた。





クラウスがその辞令を受け取ったのは、同日の夕刻、実施本部の仮机で教訓報告の清書を終えた直後だった。


彼はその時、「観閲及び日程条件」の項を、もう少し柔らかい言い回しに直すべきかどうかを考えていた。

上官の気分を害さず、しかも後で意味が消されにくい言い方というのは、語学というよりほとんど工学に近い。人間は文法より感情で詰まるので、その意味では橋の設計と大差ないのかもしれなかった。


そこへハルトゥング少佐が来て、封緘された紙を机の上へ置いた。


「おめでとうと言うべきか、ご愁傷さまと言うべきか、少し迷うところです」


クラウスは顔を上げた。


「たぶん後者でしょうね」


彼は封を切り、目で追った。

西方査閲班付。

秋季西方大演習準備。

外務省連絡を含む。

ルサント王国情勢に関する補助観察。


読み終えてから、彼は数秒だけ何も言わなかった。


それが思慮に見えたかどうかは分からない。

少なくともハルトゥングには、ただ面倒の量を測っている顔に見えた。


「また西ですか」


とクラウスは言った。


「また西です」


と少佐が答える。


「今度は演習だけでは済まぬかもしれません」


クラウスは、その一文で初めて少しだけ目を上げた。


「ルサント、ですか」


「ええ。王が死んだ。ベルヴァーニュは口を出したがっている。こちらも何も見ぬふりはできない」


クラウスは、そこで小さく息を吐いた。


「面倒ですね」


「ええ」


少佐は答えた。


「かなり」


二人はしばらく黙った。

煉瓦倉庫の高窓の外では、遅い貨車が軋みながら側線へ入っていく。

この沈黙は、もう以前ほど痛くない。

だが穏やかすぎるわけでもない。

互いに、自分だけでは足りない種類の仕事があることを知っている沈黙だった。


ハルトゥングはそこで、ふと机上を見た。

クラウスの前には、すでに三種類の草案が並んでいる。


一つは軍務会議向け。

一つは外務省連絡用。

一つは西方諸邦向けの通達原案。


辞令を受け取ったばかりだというのに、彼はもう、誰に見せる紙かで分け始めていた。


「誰に見せる紙かで、もう分けているのですか」


と、ハルトゥングは聞いた。


クラウスは顔を上げた。


「はい。同じ文を回すと、たぶんどこかが嫌がりますので」


ごく当たり前のように言う。

だが、その当たり前が、以前の彼にはまだ薄かったと少佐は思った。


以前の彼は、会議が止まってから箱を作っていた。

皆が一つの語で潰し合い始めた後で、それを裂いていた。

今は違う。

まだ揉める前から、相手ごとに紙を分けている。


つまり、組織がどこで軋むかを先回りし始めている。


ハルトゥングは机の上の一枚を見た。

軍務会議向け草案では「査閲」となっている語が、外務省向けでは「弔問使節支援下の補助観察」に変わっていた。

意味は大きく違わない。

だが、受け取る側の顔色は、おそらくずいぶん違う。


「大尉殿は」


と彼は言った。


「最近、ずいぶん早い段階で裂くようになった」


クラウスは少しだけ困ったような顔をした。


「裂く、ですか」


「ええ。前は、場が止まってから箱を作っていた。いまは止まる前に作っている」


若い大尉は数秒考えた。

その沈黙は、以前なら単なる迷いに見えただろう。

今のハルトゥングには少し違って見えた。


迷いではある。

だが同時に、その沈黙が相手にどう見えるかも、本人が以前より少しだけ分かっているように思えた。


「前は」


とクラウスはやがて言った。


「皆さまが何に怒るのか、会議のたびに初めて知っていましたから」


「今は?」


「少しだけ、予想できるようになりました」


それは、ハルトゥングにとって意外に重い言葉だった。


なぜならそこには、変化があったからだ。


クラウスは軍事的才能を獲得したわけではない。

敵情判断が鋭くなったわけでもない。

だが、自分の沈黙や言い換えが、組織の中でどう機能しているかについて、うっすらと自覚し始めている。


それは天才の覚醒などではまるでない。

むしろ、もっと地味で、もっと危うい適応だった。


「それは」


とハルトゥングは言いかけ、少し言葉を選んだ。


「…便利でしょうな」


クラウスは、珍しく微かな笑みを見せた。


「ええ。怒鳴られる回数が減る程度の効用ですが」


その返答を聞いて、ハルトゥングは内心でほとんど感心した。

この男はやはり、自分ほど鋭くはない。

だが、だからといって鈍いわけでもない。


正確に言えば、彼は「どこまで自分が分かっていないか」を以前より分かっている。

そしてその分、分かっていないものを処理しやすい形に先回りして置くようになっている。


それは軍事的知性とは別種のものだ。

だが組織にとっては、決して無視できない。


「私はまだ」


とハルトゥングは、不意に言っていた。


「あなたの方が私より有能だとは思っていません」


クラウスはそこで、ほとんど即座に答えた。


「それはその通りでしょう」


あまりにあっさりしていたので、ハルトゥングは一瞬だけ言葉を失った。

挑発でも謙遜でもない。

ただ、事実を受け取る時の平坦な声だった。


「あなたの方が計算は速いですし、設計もできます」


とクラウスは続けた。


「僕はそこでは敵いません」


「ならば、なぜ」


ハルトゥングは、そこでようやく自分が少し苛立っていることに気づいた。


「なぜ、あなたの言い換えだけがああも通る」


クラウスは、その問いにすぐには答えなかった。

窓の外では遅い貨車が軋み、煉瓦壁の向こうから誰かが木箱を引きずる音が聞こえる。


「たぶん」


と彼はようやく言った。


「少佐殿の案は、最初から正しすぎるのだと思います」


ハルトゥングは眉を寄せた。

それは褒め言葉としては、あまり気持ちのよい部類ではない。


「正しすぎる?」


「はい。皆さま、すぐにはそこまで動けませんから」


それは、痛いほどよく分かる説明だった。

だからこそ、不愉快でもあった。


クラウスは机上の三枚を軽く揃えた。


「少佐殿が作っておられるのは、たぶん最短経路です。僕がしているのは、そこへ行けない人向けの迂回路を作ることだけです」


迂回路。


その言い方に、ハルトゥングは少しだけ息を呑んだ。


それは自分の仕事を矮小化しているようでもあり、逆にきわめて正確に捉えているようでもあった。

最短経路を引く者。

そこへ至れない者のために迂回路を置く者。


もしその二つが同時に必要なら、世界はどちらを高く評価するのか。

答えはたぶん、相手次第だ。

だが少なくとも組織は、しばしば迂回路の方を感謝する。

自分がその迂回路を使っている自覚がないままに。


ハルトゥングは、そこで初めて少しだけ笑った。

苦い種類の笑いだったが、以前ほど棘はなかった。


「つまり私は、世界にとっては不親切すぎるわけだ」


「少し」


とクラウスは言った。


「でも、少佐殿が先に道を作ってくださらないと、僕の迂回路も結局どこにも繋がりません」


それは、あまりにまっすぐな言い方だった。

媚びでもなければ慰めでもない。

単に、本人がそう理解しているだけなのだろう。


ハルトゥングはその瞬間、自分が長いこと曖昧に抱えていた不満の輪郭が、少しだけ変わるのを感じた。


問題は、クラウスが自分より優れているかどうかではない。

そうではない。


問題は、組織というものが、正しさと届き方を別々の能力として必要とし、その二つを同じ人間に備えさせることに、しばしば失敗するという事実の方だった。


そして自分は前者であり、クラウスは後者なのだろう。

少なくとも、今のところは。


「……西へ行きます」


とクラウスが言った。


「また、同じことになるでしょうか」


「なるでしょうな」


ハルトゥングは答えた。


「演習に外交が混ざれば、語の意味は今までより早く割れます。今度は将官だけでなく、外務省と諸邦政府と弔問使節まで相手だ」


「面倒ですね」


「ええ」


少佐は頷いた。


「だから、たぶんあなたが要る」


その一言は、彼自身にとっても少し意外だった。

必要なのだと、口に出して認めてしまったからである。

だが認めてしまえば、その方がむしろ楽でもあった。


クラウスは、その言葉に少しだけ目を伏せた。

以前なら、そこで曖昧に恐縮して終わっただろう。

今の彼は少し違った。


「少佐殿が要るのです」

なんでもないようにクラウスは続けた。


「僕一人だと、中身がありませんから」

クラウスはそこで、少しだけ本当に可笑しそうに笑った。

それもまた、妙に正確だとハルトゥングは思った。


この男は、以前より変わった。

軍事的に優秀になったのではない。

沈黙と分類が周囲にどう作用するかを、少しだけ学んだのだ。





その夜、ハルトゥングは宿舎の窓から夜の王都を見下ろしながら、彼は翌日からの西行きを思った。


ルサント王国。

弔問。

査閲。

新聞。

諸邦の虚栄。

ベルヴァーニュの視線。


そこへまた、自分は最短経路を引き、クラウスは迂回路を置くのだろう。

その役割分担がどこまで持つのかは分からない。

だが少なくとも今は、まだそれで進むほかない。


彼は机の上の灯を消す前に、一枚だけ覚え書きを書いた。


"ライフェンベルク大尉は、家名ゆえに耳を貸されるのではない。

家名によって最初の沈黙が尊重され、そこへ本人の分類癖が乗る。

その順序が厄介である。

無視すべきでない。"


書いてから、彼は少しだけ笑った。

ずいぶんと自分らしくない文章だと思ったからだ。


分析は正しい。

だが少しだけ、感情が混ざっている。


まあ、仕方がない。

人間が人間を評価する時、純粋な計算だけで済むはずもない。


西方では、もっと面倒なことになるだろう。

そしてその面倒を、彼はもう以前ほど一人で処理できるとは思っていなかった。


それは敗北ではない。

だが、少し痛い認識ではあった。


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