表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同接0人、時間だけが味方だった。  作者: TimeBender


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
96/115

第96話 先の白は折れる

10階へ入るのは、6日目だった。


ここまでで立った言葉は、もうかなり増えている。


* 白い道は道じゃない

* 分かれ目に立つな

* 途切れた先が口だ

* 輪の中に立つな

* 輪の外で動け

* 欠けた所に寄るな

* 形の外で繋げ

* 残る白は減る

* 広い白は残らない

* 残る白は1人分

* 見えた白は渡せ


入口の形としては、かなり強い。

かなり、10階の空気が変わってきている。


でも、まだ足りない。


昨日の最後、結人は白い余白を渡しながら、ほんの一瞬だけ違和感を覚えていた。

見えた白を後ろへ渡したあと、その先の白が、最初に見えた形のまま残っていたか。


答えは、たぶん違う。


結人はそう思いながら、朝の売店で水を2本、回復薬を2本、塩飴を1袋、ゼリーを2本買った。

それから今日は、目薬も1本。


10階は、足より先に目が削られる。

白と黒だけなのに、その白と黒のどちらを捨ててどちらを拾うかで、ずっと神経を使う。


会計を済ませる時、売店の店員が小さく言った。


「10階、だいぶ言葉が回ってきてますね」


結人は少しだけ笑う。


「入口だけですけど」


「入口だけでも、かなり大きいです」


かなり、その通りだった。



相良環の窓口へ向かう。


「今日は、細い白の先ですね」


「はい」


相良は端末を見ながら言った。


「今朝の報告で少しだけ多かったのは、

『先頭が見た白は通れた。

でも、その先で渡された白の形が変わっていて、そのまま落ちた』

この形です」


結人は小さく息を吐いた。


やはりそうだ。


見えた白を渡す。

そこまではいい。

でも、その先が固定じゃないなら、10階はさらに嫌になる。


「ありがとうございます」


相良は小さく頷く。


「10階、正解を見つけても、その先の正解が同じ形で待っているとは限らないですね」


かなり、その通りだった。



入口前には、坂城迅、真壁遼真、三枝透。

その後ろに今日は6人、探索者がついていた。


昨日と同じ人数だが、顔つきは少し違う。

ただ怖がってついてくる顔じゃない。

10階の嫌さを理解した上で、その続きを拾いに来ている顔だった。


坂城が短く言う。


「今日は先の白か」


「はい」


真壁が続ける。


「1人分の白。

先に見る者。

そこまでは見えた」


三枝も小さく言う。


「10階の次は、先頭が渡したあとですね。

渡された白が、そのまま残るのかどうか」


かなり良い。

かなり話が早い。


結人は頷いた。


「昨日は“見えた白は渡せ”まで見えました。

今日は、その先の白が固定じゃないなら、どこを見るかを詰めます」


坂城が即答する。


「次の先まで見る」


真壁も頷く。


「渡された白にそのまま乗らない方がいいかもしれないな」


三枝が前を見たまま言った。


「先頭の声だけじゃなく、先の折れ方まで必要になるかもしれません」


かなり、その通りだった。



配信を始める。


終路深界圏 / 10階 先の白


「天城結人です。

今日は10階で、渡した白の先がどう変わるかを見ます。

入口の言葉はかなり残ってきたので、その先を拾います」


同接は77。


コメント欄が流れる。


炭酸:きた


通り雨:今日は先の白か


澪:お願いします


迷子の斥候:10階ほんと嫌だ


凪:見えた白を渡して終わると思うな


結人は、その最後の1行に小さく頷いた。


「はい。今日はそこです」



10階へ入る。


白い空間。

黒い線。

遠さの狂った広さ。


入口の言葉は、もうかなり速い。


太い線。

縁を見る。

線蛇が裂ける。


分かれ目。

立たない。

岐路蜘蛛が浮く。


終端。

見る。

終端蟷が開く。


輪。

入らない。

環路羊が首を上げる。


帯。

継ぎ目を見る。

渡輪鹿が裂ける。


欠けた輪。

寄らない。

欠輪鹿が飛ぶ。


白い余白。

広い方を捨てる。

細い白を1人分ずつ渡す。

白削鼬が走る。

奪白猿が飛ぶ。

だがもう、その景色もかなり揃ってきている。


結人は配信へ向けて短く言った。


「10階の入口まではかなり残ってます。

今日は、その先で渡した白の形がどう変わるかを見ます」


コメント欄が流れる。


炭酸:入口の空気変わったな


通り雨:かなり通る


澪:大きいです


凪:ここから先が本題だ


かなり、その通りだった。



そこから少し奥へ進む。


白い柱の残骸がさらに増え、黒い形の置かれ方も前より複雑になっている。

線と輪と帯が重なり、その外に細い白が1本だけ残る。


その白へ、結人が最初に入る。


かなり細い。

足1つ分。

だが、まだ残る。


2歩。

3歩。


その先で、白は左へ細く折れ、さらにその先で右へ戻る。

入口からは見えない。

ここまで来て初めて見える折れ方だ。


「左、次は右です!」


結人が言う。


真壁がその声で左へ入る。

そのあと坂城。

三枝。

後ろの探索者たち。


ここまでは昨日までと同じだ。


だが、次の瞬間、結人の喉が少しだけ冷えた。


右へ戻るはずだった先の白が、ほんの少しだけ折れた。


折れた、というより、先端だけが内側へ畳まれたみたいに見えた。


その瞬間、白い柱の根元にいた“白いもの”が動いた。


鳥に似ていた。


だが、普通の鳥みたいな丸さはない。

脚は長く、細い。

胴は薄い。

羽は広がらず、白い板を何枚か重ねたように身体へ沿っている。

首は長い。

嘴だけが異様に細く黒い。

立っている時は、白い余白の先にできた“折れた白の角”そのものにしか見えない。


折路鷺。


細く残った白の先に立ち、先頭が見つけて渡した次の白を、その場で折り畳む10階の中位種。

こいつは今の白を奪わない。

あくまで“次に渡されるはずだった白”だけを嘴で折り、形を変える。


実用的に言えば、

10階では、先の白は折れる。

折路鷺は、渡された先の白を固定の正解にさせない。

次の白は、入る直前まで更新して見る。


かなり嫌だ。


かなり、今日の10階そのものだった。



「先、折れます!」


結人が叫ぶ。


真壁の足が、右へ戻るはずだった白の手前で止まる。

その直後、折路鷺の黒い嘴が白の先を突き、右へ戻るはずの細い白が、左内側へ折れ込んだ。


かなり危なかった。


もし昨日までと同じ感覚で“次は右”の声だけを信用して入っていたら、そのまま白のない所へ足を出していた。


坂城がすぐに剣を構える。

だが三枝が低く言う。


「坂城さん、白の先!」


その通りだ。


ここで折路鷺に目を取られたら、白の更新が止まる。


結人はすぐに先を見る。


折れた白は左内側へ畳まれている。

かなり細い。

でも、まだ1歩分だけ残る。


「左内側、1歩です!」


真壁がその白へ足を置く。

坂城も続く。

折路鷺は、その間にもう1度だけ嘴を動かす。

だが今度は、結人の槍がその嘴の根元へ届いた。


白い羽板が散る。

黒い液が白へ落ちる。

折路鷺がよろめき、折れた白の角から外れる。


かなりいい。

かなり大きい。


10階では、見えた白を渡す。

でも、その先は最後まで固定じゃない。


渡すのは形そのものじゃない。

更新される白の行き先だ。



真壁が低く言う。


「昨日までのままじゃ間に合わないな」


「はい」


結人も短く返した。


「見えた白は渡す。

でも、次の白は入る直前まで見直します」


三枝がすぐに頷く。


「かなり大きいです。

“見えた白は渡せ”の先ですね」


坂城も短く続ける。


「先の白は固定じゃない」


かなり、その通りだった。



結人は配信へ向けて短く整理する。


「10階、次の白が見えても、その形のまま残るとは限りません。

先の白を折る鳥型が出ます。

だから、渡された白も入る直前まで更新して見ます」


コメント欄が一気に流れる。


炭酸:うわ


通り雨:そこまでやるのか


澪:かなり嫌です


迷子の斥候:見えた白は渡せ、でも先は折れるか


凪:先の白は折れる


かなりいい。


短い。

強い。

そして、今日の違和感をそのまま言っていた。


結人はその言葉を胸の中で転がした。


先の白は折れる。


かなり、その通りだった。



そこから先、進み方がまた少し変わった。


結人が細い白へ入る。

次の白を見る。

見えた瞬間に渡す。

でも、後ろがそこへ入る前に、もう1度だけ先の形を見る。


その“更新”が入るだけで、10階の通り方はまた変わる。


次に出た細い白は、途中で右へ折れ、その先でまたまっすぐ戻る形だった。

結人は「右、次はまっすぐ」と言う。

真壁がその右へ入る。


その瞬間、折路鷺が先端を突く。

まっすぐ戻るはずの白が、右外側へわずかに折れる。


「右外です!」


結人が即座に言い直す。


真壁がその声だけで足を返す。

直後に、もとの“まっすぐ”だった白が消える。


かなり危なかった。

でも、かなり大きい。


見えた白は渡す。

先の白は折れる。

だから、渡したあとも見る。


10階はそこまで求めてくる。


かなり嫌だ。

でも、かなり綺麗でもある。



さらに少し奥へ進む。


今度は、白い余白が 2本に分かれ、そのどちらの先にも折路鷺が立っていた。


右に1体。

左に1体。


どちらも白い。

どちらも折れた白の角そのものに見える。

かなり悪い。


結人はそこで足を止めた。


「……両方、折ります」


三枝もすぐに言う。


「はい。

先を固定で見ない方がいいです」


真壁が低く言う。


「じゃあどうする」


結人は少しだけ目を細めた。


右の白は少し広い。

左の白は細い。

だが、広い方には白削鼬の痕が残っている。

左の白の方が、まだ均一だ。


そしてその左の先にいる折路鷺は、足元の白が少し狭い。

1回折れば、自分の足場ごと薄くなる。


かなり見える。


「左です。

でも折れます。

折れたあとを見ます」


坂城が短く返す。


「了解」


真壁も頷く。


「先に乗るな。

折れるのを待つ」


かなりいい。


左の白へ結人が入る。

折路鷺が嘴を落とす。

白が左内側へ折れる。


その折れたあと、鷺の立っていた足場が少しだけ消える。

やはりだ。


「今です!」


結人が言う。


その瞬間にだけ、折れた先の白が 1歩分だけ残る。

真壁が入る。

坂城。

三枝。

後ろの探索者たち。


かなり危なかった。

でも、かなり通った。


折れることそのものを前提にした方が、かえって進みやすい。


三枝が低く言う。


「10階、かなり変わってきましたね」


結人も、その通りだと思った。


最初は、形を疑う階だった。

今は、変わることを前提に更新し続ける階になっている。



結人は配信へ向けて短く整理する。


「10階、次の白を固定の正解だと思わない方がいいです。

見えた白は渡す。

でも、先の白は折れるので、入る直前にもう1度更新して見ます」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり大きい


通り雨:10階の進み方がどんどん変わるな


澪:かなり強いです


迷子の斥候:更新し続けるのか


凪:見えた白は渡せ。でも先の白は折れる


かなり、その通りだった。



今日はそれ以上深追いしなかった。


入口の 4本。

その先の“輪の外で動け”“欠けた所に寄るな”。

そして“形の外で繋げ”“残る白は減る”“広い白は残らない”“残る白は1人分”“見えた白は渡せ”。

そこへ今、“先の白は折れる”まで見えた。


ここまで見えたなら十分だ。


結人は配信へ向けて短く整理する。


「今日はここまでにします。

10階は、危ない形を避けたあとに残る白も固定じゃありません。

見えた白は渡す。

でも、その先の白は折れる。

今のところ、この2本がかなり強いです」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり見えた


通り雨:10階の嫌さ、綺麗だな


澪:かなり大きいです


迷子の斥候:白を渡して終わりじゃないの強い


凪:次は、その折れた先で残る白が1本だけになる


結人は、その最後の1行で少しだけ目を細めた。


かなり、その通りかもしれない。


次はたぶん、白が折れるだけじゃ終わらない。

折れたあとに、残る白がさらに絞られる。



政府ギルドへ戻ると、相良環はすぐにメモを開いた。


「どうでしたか」


結人は答える。


「見えた白を渡しても、その先の白は固定じゃありません。

鳥型が先端を折ります。

だから、渡されたあとも入る直前まで白を更新して見る必要があります」


相良の指が止まる。


「……かなり大きいですね」


「はい。

今のところ、“見えた白は渡せ”と“先の白は折れる”でかなり通ります」


相良はすぐに打ち込む。


「かなり綺麗です」


その一言が、かなり嬉しかった。


「10階、正解を見つけるだけじゃなく、更新し続けないと取られます」


相良は小さく頷く。


「終路深界圏らしいです。

“残るものを読む”から、“残るものを更新し続ける”段階に入りましたね」


かなり、その通りだった。



部屋へ戻り、ノートを開く。


* 10階

* 入口の4本はかなり通る

* 輪の外を繋ぐ帯

* 欠けた輪

* 形の外の白い余白

* 広い白と細い白

* 細い白は1人分

* 先の白も固定じゃない

* 4本

* 白い道は道じゃない

* 分かれ目に立つな

* 途切れた先が口だ

* 輪の中に立つな

* 次の言葉

* 輪の外で動け

* 欠けた所に寄るな

* 形の外で繋げ

* 残る白は減る

* 広い白は残らない

* 残る白は1人分

* 見えた白は渡せ

* 先の白は折れる

* 折路鷺

* 先の白を折る

* 固定の正解を崩す

* 入る直前まで更新する


最後に、1行だけ足した。


* 10階は、“残った正解をそのまま信じる”と折られる階


書き終えてから、結人はペンを置いた。


かなり嫌だ。

でも、かなり進んでいる。


危ない形を避ける。

白を繋ぐ。

白が減る。

広い白が消える。

細い白が1人分残る。

見えた白を渡す。

その先の白は折れる。


ここまで見えたなら、10階はかなり深くまで形になり始めている。


今日は、そのことがかなりはっきりした日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ