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同接0人、時間だけが味方だった。  作者: TimeBender


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95/115

第95話 見えた白は渡せ

朝の政府ギルドで、結人は売店の前を通りながら少しだけ足を止めた。


奥のベンチで、若い探索者が 2人、かなり真剣な顔で話している。


「10階、残る白は 1人分なんだろ」


「じゃあ先に見えるやつが行くしかないじゃん」


「でも、見えたあとにどうするんだよ」


かなりいい。

かなり、今の 10階の核心に近い。


結人は水を 2本、回復薬を 2本、塩飴を 1袋、ゼリーを 2本買った。

会計を済ませる時、売店の店員が小さく言う。


「10階、だいぶ言葉が回り始めましたね」


結人は少しだけ笑う。


「入口だけですけど」


「入口が通るだけでも、かなり大きいですよ」


かなり、その通りだった。



相良環の窓口へ向かう。


「今日は、10階の細い白の続きですね」


「はい」


相良は端末を見ながら言った。


「今朝の報告でも、同じ形が増えています。

『最初の人は通れた。

でも、その次の人が入る前に白を取られて詰んだ』

この形です」


結人は小さく息を吐いた。


やはりそうだ。


10階は、最初に見えた人が助かるだけじゃ足りない。

その白を後ろへどう渡すかまで必要になる。


「ありがとうございます」


相良は小さく頷いた。


「10階は、“先に見えた人が助かる”から、“見えた人が次を渡せるか”に移ってきていますね」


かなり、その通りだった。



入口前には、坂城迅、真壁遼真、三枝透。

その後ろに今日は 6人、探索者がついていた。


昨日と同じ人数だが、空気は少し違った。

ただ後ろから見るだけじゃない。

10階の進み方そのものを拾いに来ている顔だった。


坂城が短く言う。


「今日は白を渡す日だな」


「はい」


真壁が続ける。


「道。

分かれ目。

終わり。

輪。

帯。

欠けた所。

白。

そこまでは見えた」


三枝も小さく言う。


「10階の次は、先頭が取った白をどう後ろへ渡すかです。

見えた人だけが助かるなら、まだ攻略になりません」


かなり良い。

かなり話が早い。


結人は頷いた。


「昨日は“先に渡るのは見る者だ”まで見えました。

今日は、その先で白をどう残すかを見ます」


真壁が低く言う。


「先頭が見えた時点で、後ろはそれをもらう形か」


「はい。

たぶん、見えた白は抱えたら駄目です」


その言葉を口に出した瞬間、結人は自分で少しだけ目を細めた。


かなり近い。

かなり今日の答えに近い。



配信を始める。


終路深界圏 / 10階 白を渡せ


「天城結人です。

今日は 10階で、細く残る白をどう後ろへ渡すかを見ます。

今ある言葉はかなり残ってきたので、その先を拾います」


同接は 76。


コメント欄が流れる。


炭酸:きた


通り雨:今日は白の受け渡しか


澪:お願いします


迷子の斥候:かなり大事そう


凪:見えた白を、自分だけの正解にするな


結人は、その最後の 1行に小さく頷いた。


「はい。今日はそこです」



10階へ入る。


白い空間。

黒い線。

遠さの狂った広さ。


入口の 4本は、もうかなり速い。


太い線。

縁を見る。

線蛇が裂ける。


分かれ目。

立たない。

岐路蜘蛛が浮く。


途切れた先。

見る。

終端蟷が開く。


輪。

入らない。

環路羊が首を上げる。


帯。

真ん中を使わない。

渡輪鹿が裂ける。


欠けた輪。

口へ寄らない。

欠輪鹿が飛ぶ。


そして、白い余白。


広い白は残らない。

細い白が残る。

その細い白は 1人分だ。


そこまではもう、かなり場に残っていた。



少し奥へ進む。


白い柱の残骸がさらに増え、黒い形はもっと複雑に重なっている。

その外に、細い白が 1本だけ残っていた。


かなり細い。

しかも、その先でまた少しだけ 2つに分かれている。


昨日までと同じだ。

いや、昨日より少しだけ嫌だった。


分かれた先の白が、入口からは見えにくい。

先頭が入って初めて、どちらが残るかが見える形だ。


結人はそこで足を止めた。


「ここ、俺が先です」


真壁がすぐに頷く。


「了解」


結人が細い白へ入る。


白削鼬が、少し離れた広い白を走る。

だがこちらはまだ残る。


2歩。

3歩。


やはり、先で白が左右に分かれている。

右は少し広い。

でも先端が薄い。

左はかなり細い。

だがまだ均一だ。


「左です!」


結人が言う。


真壁がその声だけで細い白へ足を置く。

その瞬間だった。


白い柱の残骸の上から、黒い影が落ちた。


猿に似ていた。

だが普通の猿よりずっと細い。

腕が長い。

脚も長い。

背中は白い粉を被ったみたいに灰黒く、手足の先だけがやけに白い。

白い余白へ手をついた瞬間だけ、その輪郭がぼやけて見える。

顔は小さい。

目だけが黒く深い。


奪白猿。


細く残った白の縁に張りつき、先頭が読んで後ろへ渡した白そのものへ飛び込む 10階の中位種。

こいつは最初の人間を狙わない。

あくまで、後ろの 2人目が入る白だけを取る。

だから、“見えたから大丈夫”と思った瞬間に、その白が奪われる。


実用的に言えば、

10階では、見えた白はすぐ渡す。

奪白猿は、渡されるまで宙に残っている白を取る。

先頭は次の白を見たら、迷わず後ろへ渡す。


かなり嫌だ。


かなり、今日の 10階そのものだった。



「白、奪います!」


結人が叫ぶ。


真壁の足が、細い白へ乗る寸前で半歩だけ外へ返る。

その直後、奪白猿の長い腕が、さっき結人が示した左の白を切るように横切った。


かなり危なかった。


もし“左です”と見えたあと、真壁が一拍遅れて踏み込んでいたら、その白はもう消えていた。


坂城が横から猿の腕を斬る。

三枝が低く言う。


「結人、先の白!」


その通りだ。


ここで奪白猿に目を取られると、次の白が切れる。


結人はすぐに先を見る。


左の白は細い。

でも、まだ 1歩だけ残る。


「真壁さん、今です!」


真壁がその 1歩へ入る。

盾を前へ。

かなりギリギリだが、通った。


その後ろへ坂城。

そのまた後ろへ三枝。


奪白猿は、先に見えた白が“渡されるまで”を狙う。

なら、答えはかなりはっきりしていた。


見えた白は、抱えない。

迷わない。

すぐ渡す。



結人は配信へ向けて短く言う。


「10階、次の白が見えても、それを抱えたまま考えると取られます。

先頭は見えた瞬間に、後ろへ渡した方がかなり通ります」


コメント欄が一気に流れる。


炭酸:なるほど


通り雨:そこか


澪:かなり大きいです


迷子の斥候:見る者が先、見えた白は渡す、ってことか


凪:見えた白は渡せ


かなりいい。


短い。

強い。

そして、今日の違和感をそのまま言っていた。


結人はその言葉を胸の中で転がした。


見えた白は渡せ。


かなり、その通りだった。



そこから先、進み方が変わった。


結人が先に入る。

次の白を見る。

見えた瞬間に言う。

後ろはそれを受け取る。

詰めない。

迷わない。


そのリズムができるだけで、10階の細い白はかなり通りやすくなった。


もちろん、嫌さは消えない。


白削鼬は残る白を削る。

奪白猿は渡される白を取る。

だから、止まることも迷うこともできない。


でも逆に言えば、そこが分かればかなり戦える。


次に出た細い白は、途中で 1度だけ右へ折れた。

入口からは見えない。

先頭の結人にだけ、その折れが見える。


もしそこで迷えば、奪白猿がその折れた白へ飛ぶ。

でも、結人はもう迷わない。


「右へ 1歩!」


真壁がその声で動く。

直後、さっきまで白だった位置を奪白猿が掠めた。


かなり危なかった。

でも、かなり大きい。


真壁が低く言う。


「考えてからじゃ遅いな」


「はい」


結人も短く返した。


「見えたら、そのまま渡さないと取られます」


かなり、その通りだった。



さらに少し奥へ進む。


今度は細い白が 2本並び、その先で 1本に戻る。


見た目だけなら、どちらからでも合流できそうだ。

かなり嫌だ。


結人はそこで、先の合流点を見た。


右の白は少し広い。

だが先端が薄い。

左の白は細い。

だが合流点の白がまだ強い。


やはり左だ。


「左で繋ぎます!」


結人が言う。


その瞬間、右の白に奪白猿が 2匹飛んだ。

やはりだ。


広い方。

歩きやすい方。

持っておきたくなる方から先に取られる。


真壁がその声だけで左へ入る。

坂城、三枝、後ろの探索者たちもその順番に続く。


かなりいい。


白を渡す。

白を抱えない。

10階はそこで、かなり進み方が変わる。



結人は配信へ向けて短く整理する。


「10階、細い白が 1人分しか残らない時は、先頭が次を見てすぐ渡した方がかなり通ります。

見えた白を抱えると、奪われます。

今のところ、“見えた白は渡せ”がかなり強いです」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり大きい


通り雨:強い


澪:かなり綺麗です


迷子の斥候:10階の進み方がまとまってきた


凪:残る白は 1人分。見えた白は渡せ


かなり、その通りだった。



今日はそれ以上深追いしなかった。


入口の 4本。

その先の“輪の外で動け”“欠けた所に寄るな”。

そして“形の外で繋げ”“残る白は減る”“広い白は残らない”“残る白は 1人分”。

そこへ今、“見えた白は渡せ”まで見えた。


ここまで見えたなら十分だ。


結人は配信へ向けて短く整理する。


「今日はここまでにします。

10階は、危ない形を避けたあとに残る白も全員分あるとは限りません。

細い白は 1人分です。

その時、見えた白を抱えず、後ろへ渡した方がかなり通ります」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり見えた


通り雨:10階の攻略感すごい


澪:かなり大きいです


迷子の斥候:見る者が白を渡すの強い


凪:次は、その白そのものを先で折るやつが来る


結人は、その最後の 1行で少しだけ目を細めた。


かなり、その通りかもしれない。


次はたぶん、渡した白の先そのものが折られる。

そういう嫌さが来る。



政府ギルドへ戻ると、相良環はすぐにメモを開いた。


「どうでしたか」


結人は答える。


「細い白を先頭が見つけても、それをその場で抱えると奪われます。

次の白が見えたら、すぐ後ろへ渡した方がかなり通ります」


相良の指が止まる。


「……かなり大きいですね」


「はい。

今のところ、“残る白は 1人分”と“見えた白は渡せ”でかなり通ります」


相良はすぐに打ち込む。


「かなり綺麗です」


その一言が、かなり嬉しかった。


「10階、正解を見つけるだけじゃなく、見えた正解を後ろへ渡せるかがかなり大きいです」


相良は小さく頷く。


「終路深界圏らしいです。

“残るものを読む人が先に行く”から、“読んだ残りを次へ渡す”段階に入りましたね」


かなり、その通りだった。



部屋へ戻り、ノートを開く。


* 10階

* 入口の 4本はかなり通る

* 輪の外を繋ぐ帯

* 欠けた輪

* 形の外の白い余白

* 広い白と細い白

* 細い白は 1人分

* 4本

* 白い道は道じゃない

* 分かれ目に立つな

* 途切れた先が口だ

* 輪の中に立つな

* 次の言葉

* 輪の外で動け

* 欠けた所に寄るな

* 形の外で繋げ

* 残る白は減る

* 広い白は残らない

* 残る白は 1人分

* 見えた白は渡せ

* 奪白猿

* 渡される白を取る

* 先頭は迷わず後ろへ渡す

* 抱えると奪われる


最後に、1行だけ足した。


* 10階は、“残った正解を自分だけのものにすると奪われる”階


書き終えてから、結人はペンを置いた。


かなり嫌だ。

でも、かなり進んでいる。


危ない形を避ける。

白を繋ぐ。

白が減る。

広い白が消える。

細い白が 1人分残る。

その白は見る者が先に取り、見えたら後ろへ渡す。


ここまで見えたなら、10階の核心にかなり近い。


今日は、そのことがかなりはっきりした日だった。

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