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同接0人、時間だけが味方だった。  作者: TimeBender


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84/115

第84話 途切れた先が口だ

10階へ入るのは 3日目だった。


ここまでで立った言葉は 2本。


白い道は道じゃない。

分かれ目に立つな。


かなり強い。

かなり、終路深界圏の入口らしい。


でも、結人はまだ足りないと思っていた。


道そのものが怪しい。

選ぶ場所も怪しい。


なら次に来るのは、たぶん道が終わる場所だ。


進めそうに見える線。

分かれた線。

その次は、消えていく線。


かなり嫌な予感だった。


売店で水を 2本、回復薬を 2本、塩飴を 1袋、ゼリーを 1本買う。

会計を待っている間、後ろで若い探索者が連れに向かって言っていた。


「10階、太い線踏むなってやつだろ」


「分かれ目も危ないんだっけ」


言葉が、もう少しだけ外へ出ている。

結人はそれを聞きながら、袋を受け取った。


かなりいい。

でも、その先を持ち帰らないと、10階は通せない。


相良環の窓口へ向かう。


「今日は 10階の続きですね」


「はい。

入口の先を見ます」


相良は端末を見ながら言った。


「今朝の報告で、もう 1つ多かったのは“黒線が消える手前でやられた”です」


結人は少しだけ目を上げる。


「消える手前」


「はい。

線を辿っていった先で、急に何もなくなって、そのまま食われた、という形です」


かなりいい。


かなり、予感通りだった。


「ありがとうございます」


相良は小さく頷く。


「10階、進めそうな場所の始まりと分かれ目が危ないなら、終わる場所も危ないはずです」


かなり、その通りだった。



入口前には、坂城迅、真壁遼真、三枝透。

今日は後ろに 3人、探索者がついていた。


昨日より 1人増えている。


真壁がそれを見て言う。


「少し増えたな」


「はい。

でも、まだ入口確認の段階ですね」


坂城は短く続けた。


「理屈が揃えば増える」


三枝が静かに言う。


「10階は、たぶん 3本目まででかなり形になります」


結人もそう思った。


配信を始める。


終路深界圏 / 10階 更新 3日目


同接は 61。


「天城結人です。

今日は 10階の 3本目を見ます。

今ある言葉は“白い道は道じゃない”“分かれ目に立つな”です。

その先を見ます」


コメント欄が流れる。


炭酸:きた


通り雨:10階 3本目だ


澪:お願いします


迷子の斥候:途切れる線きそう


凪:道が怪しくて分かれ目も怪しいなら、終わる場所も怪しい


結人は、その 1行に小さく頷いた。


「はい。今日はそこです」



10階の入口は、昨日までよりかなり軽かった。


太い黒線。

中央は踏まない。

縁を見る。


線蛇が浮く。

坂城の剣が先に入る。


Y字の分かれ目。

真上に立たない。

外から根元を見る。


岐路蜘蛛が裂ける。

真壁が盾で起こし、結人の槍が腹へ入る。


後ろについている探索者たちの足も、昨日よりずっと止まらない。

白い空間の嫌さはそのままだ。

でも、嫌さの輪郭が前より細い。


言葉があるだけで、ここまで違う。



少し奥へ進む。


白い床の上で、黒線の置かれ方がまた変わった。


今までは太い。

分かれる。

それが目立っていた。


ここからは、細くなる。


1本の黒線が、まっすぐ先へ伸びている。

だが進むほど細くなり、やがて糸みたいな太さになって、白の中へ吸われるように消える。


途中で切れているようにも見える。

消えているようにも見える。


かなり嫌だ。


真壁が低く言う。


「……あれ、歩いていい線に見えるな」


坂城も短く続ける。


「細くなった先が、逆に安全に見える」


三枝は目を細めていた。


「だから危ないですね」


かなり、その通りだった。


人は、分かれ目を越えると少し安心する。

しかも、太い線より細い線の方が“絞られた正解”みたいに見える。


だから踏みたくなる。


結人はそこで足を止めた。


「その先、見ます。

まだ乗りません」



いちばん細い黒線の先端。

白い空間の中で、それだけが針みたいに黒い。


そこを見た瞬間、結人の背中が少し冷える。


終わっていない。


黒線は消えているように見える。

でも、その先端だけがほんの少しだけ濃い。

ただ切れているんじゃない。

何かが先で待っている濃さだ。


「止まってください」


結人が言う。


後ろの探索者の 1人が、ちょうど細い線に踏み込みかけて止まった。


次の瞬間、線の先端がぱかりと開いた。


白い床の中から、黒い刃が 2本、斜めに起き上がる。


蟷螂に似ていた。

だが身体は異様に薄い。

黒い刃と、白い紙を重ねたみたいな胴。

前脚は長く、鎌というより、道の終端を切り取った黒い三角板みたいに見える。

頭部は小さく、目だけが白く細い。

止まっている時は、黒線の終わりそのものにしか見えない。


終端蟷。


10階の細い黒線の先に潜み、**“ここまで来れば安全そう”と思わせた最後の 1歩”**を刈る中位種。

こいつは線の途中では出ない。

あくまで、線が終わったと見せたその先で開く。


実用的に言えば、

10階では、途切れた先が口だ。

黒線が消えたように見える場所ほど、本体の待ち伏せ位置になっている。

線を辿るより、消える先端の濃さを見る。


それが、10階の 3本目だった。


「先です!」


結人が叫ぶ。


真壁が盾を前へ送る。

終端蟷の黒い鎌が盾へ噛みつくように刺さる。

かなり重い。

だが、岐路蜘蛛より一点が強い分、受ける場所は見える。


坂城の剣が横から入る。

鎌の付け根が裂ける。

結人も踏み込み、細い胴へ槍を突き立てた。


黒い液が、白い床の上でまっすぐ細く流れる。


かなり嫌だ。


でもかなり分かりやすい。


線の先が、ただの終わりじゃない。

そこが口になる。



後ろについていた探索者が、小さく息を呑んで言った。


「……あぶな」


かなり、その通りだった。


もしあのまま“細くなった正解”だと思って踏み込んでいたら、そのまま顔か喉を刈られていた。


結人は配信へ向けて言う。


「10階の 3本目、たぶんこれです。

“途切れた先が口だ”」


コメント欄が一気に流れる。


炭酸:きた


通り雨:嫌すぎる


澪:かなり綺麗です


迷子の斥候:始まりと分岐と終わり全部危ない


凪:途切れた先が口だ


かなりいい。


短い。

強い。

そして、10階のここまでをそのまま繋ぐ。


白い道は道じゃない。

分かれ目に立つな。

途切れた先が口だ。


始まり。

分岐。

終わり。


道の形そのものが、全部危ない。


終路深界圏らしい 3本だった。


三枝が静かに言う。


「かなり揃いましたね」


真壁も頷く。


「線の最初、真ん中、先。

全部疑う」


坂城が終端蟷の死骸を見下ろしながら続けた。


「道の形全部が敵か」


かなり、その通りだった。



そこで終わらなかった。


少し奥へ進むと、今度は細い黒線が 2本並んで伸びていた。

どちらも途中まではほぼ同じ。

だが片方だけ、少し手前で消える。

もう片方は、もう少し奥まで細く続く。


普通なら、奥まで続く方を選びたくなる。


長い方が安全そうだ。

“進めている感じ”があるからだ。


でも結人は、むしろそちらを疑った。


「長い方、怪しいです」


真壁が低く言う。


「短い方じゃなくて?」


「はい。

長い方が“選ばせるために残してる”感じがします」


三枝も視線を細める。


「先端の濃さが違います。

長い方の先だけ、黒が厚い」


かなりいい。


そして次の瞬間、長い方の終端が開いた。


終端蟷が 2体、縦に重なるように立ち上がる。

しかも、短い方の先端からも少し遅れて 1体。


やはりだ。


長く見せた方で目を引き、そのあと短い方も口になる。


10階は、最後の最後まで“選ばせたあと”を使ってくる。


「長い方だけじゃないです!」


結人が声を張る。


「短い方も口です!」


真壁が左。

坂城が長い方へ。

結人は短い方へ槍を出す。


白い床の上で、黒い鎌が何本も弾ける。

視界はかなり悪い。

でも、見る場所は変わらない。


道そのものじゃない。

分かれ目じゃない。

その先端だけを見る。


坂城が 1体を斬る。

真壁がもう 1体を弾く。

結人の槍が最後の 1体の喉へ入る。


黒が散る。

白が戻る。


かなり嫌だった。

でも、10階の入口としてはかなり大きい。



結人はそこで深追いしなかった。


もう十分だったからだ。


10階の 3本は揃った。


白い道は道じゃない。

分かれ目に立つな。

途切れた先が口だ。


始まりも、選ぶ場所も、終わる場所も危ない。

つまり、道の形全部が敵に使われるということだ。


結人は配信へ向けて短く整理する。


「10階の入口は、これでかなりまとまります。

太い道、分かれ目、途切れた先。

全部怪しいです。

道の形そのものを信じない方がいいです」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなりわかる


通り雨:10階の 3本強いな


澪:まとまりが綺麗です


迷子の斥候:道の形全部が敵か


凪:ここから先は、道を読むんじゃない。残る線を拾うんだ


その一文を見て、結人はほんの一瞬だけ目を細めた。


残る線。


かなり先の話だ。

でも、その気配はもう 10階の入口に薄く混じり始めている。



政府ギルドへ戻ると、相良環はすぐにメモを開いた。


「どうでしたか」


結人は答える。


「細い黒線の終端に蟷螂型が潜みます。

進んだ先で安全に見える 1歩を刈ります。

10階の 3本目は“途切れた先が口だ”です」


相良の指が止まる。


「……始まり、分岐、終わり、ですね」


「はい。

白い道は道じゃない。

分かれ目に立つな。

途切れた先が口だ。

これで入口はかなりまとまります」


相良はすぐに打ち込む。


「かなり綺麗です」


その一言が、かなり嬉しかった。


「10階、道の形全部が怪しいです」


相良は小さく頷く。


「つまり、“進み方”の前に“道として見えること”そのものを疑う階ですね」


かなり、その通りだった。



部屋へ戻り、ノートを開く。


* 10階

* 白い空間

* 黒い道みたいな線

* 太い線が怪しい

* 分かれ目が怪しい

* 途切れた先が怪しい

* 線蛇

* 白い道は道じゃない

* 岐路蜘蛛

* 分かれ目に立つな

* 終端蟷

* 途切れた先が口だ

* 消える先端の濃さを見る


最後に、1行だけ足した。


* 10階は、“道の形そのもの”に食われる階


書き終えてから、結人はペンを置いた。


10階の入口は揃った。

次からは、この 3本を使って少し奥へ入れる。


そしてその先で、きっと“どれを選ぶか”そのものがもっと重くなる。

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