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同接0人、時間だけが味方だった。  作者: TimeBender


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105/119

第105話 消えた拍のあと

10階へ入るのは、13日目だった。


ここまでで拾えた言葉は、もうかなり増えている。


* 白い道は道じゃない

* 分かれ目に立つな

* 途切れた先が口だ

* 輪の中に立つな

* 輪の外で動け

* 欠けた所に寄るな

* 形の外で繋げ

* 残る白は減る

* 広い白は残らない

* 残る白は 1人分

* 見えた白は渡せ

* 先の白は折れる

* 灰はまだ残りだ

* 灰の中で寄る場所を見ろ

* 寄った白を渡すな

* 最初の寄りは偽りだ

* 2度目の寄りは待たされる

* 待ち足は腐る


かなり見えてきた。

かなり通ってきた。


でも、昨日の最後に残った嫌さは、まだ 1本足りなかった。


2度目の寄りは本物。

でも、すぐ使えるとは限らない。

だから、その外で 1歩刻んで待つ。

だが、その待つ 1歩も長くは持たない。


なら次に来るのは、たぶんこれだ。


待つための拍そのものが、途中で消える。


結人は朝、ノートの余白へ短く書いた。


* 消えた拍のあとで入れ


書いてから、少しだけ目を細める。


かなり近い。

かなり、今日の 10階に合っている気がした。



配信を始める。


終路深界圏 / 10階 消えた拍


「天城結人です。

今日は 10階で、2度目の寄りを待つ時の拍を見ます。

入口の言葉はかなり残ってきたので、その先を拾います」


同接は 87。


コメント欄が流れる。


炭酸:きた


通り雨:今日は拍そのものか


澪:お願いします


迷子の斥候:かなり嫌な予感する


凪:待ち足が腐るなら、次は待つ拍が消える


結人は、その最後の 1行に小さく頷いた。


「はい。今日はそこです」



政府ギルド前の売店で、水を 2本、回復薬を 2本、塩飴を 1袋、ゼリーを 2本。

それにスポーツドリンクを 1本。

目薬も 1本。


新しいバックパックは、もうかなり身体の一部になっていた。


上位回復薬。

通常回復薬。

ゼリー。

飲み物。

目薬。

全部、止まらず触れる位置にある。


10階では、それがかなり大きい。

止まって探す時間が、そのまま白を減らすからだ。


会計を待っていると、後ろで探索者が小さく言った。


「待つ 1歩が腐るのは分かった。

でも、その 1歩に入るタイミング自体が狂ったら、もう分からん」


かなり、その通りだった。


相良環の窓口へ向かう。


「今日は、待つ拍ですね」


「はい」


相良は端末を見ながら言った。


「今朝の報告でもあります。

『待つ場所は取れた。

でも、入る拍を 1つ見誤って、そのまま灰へ落ちた』

この形です」


結人は小さく息を吐いた。


やはりそうだ。


場所だけでも足りない。

待つ時間だけでも足りない。

その時間の中の、入る拍まで必要になる。


「ありがとうございます」


相良は小さく頷く。


「10階、最後に残る正解へ入るまでの“刻み方”がさらに細かくなっていますね」


かなり、その通りだった。



入口前には、坂城迅、真壁遼真、三枝透。

その後ろに、今日は探索者が 6人。


坂城が短く言う。


「今日は拍だな」


「はい」


真壁が続ける。


「2度目の寄りは本物。

でも待たされる。

待ち足も腐る。

そこまでは見えた」


三枝も小さく言う。


「10階の次は、そこへ入る拍です。

場所も合っている。

待ち方も合っている。

でも、その 1拍がずれるだけで終わる気がします」


かなり良い。

かなり話が早い。


結人は頷いた。


「昨日は“待ち足は腐る”まで見えました。

今日は、その足へ入る拍そのものを見ます」


坂城が即答する。


「見えた瞬間に入らない方がいいかもしれないな」


真壁も頷く。


「1拍遅らせるか」


三枝が前を見たまま言った。


「消える拍があるなら、そのあとの拍を使う必要があります」


かなり、その通りだった。



10階へ入る。


白い空間。

黒い線。

遠さの狂った広さ。


入口の言葉は、もうかなり速い。


太い線。

縁を見る。

線蛇が裂ける。


分かれ目。

立たない。

岐路蜘蛛が浮く。


途切れた先。

見る。

終端蟷が開く。


輪。

入らない。

環路羊が首を上げる。


帯。

継ぎ目を見る。

渡輪鹿が裂ける。


欠けた輪。

寄らない。

欠輪鹿が飛ぶ。


白い余白。

広い方を捨てる。

細い白を 1人分ずつ渡す。

白削鼬。

奪白猿。

折路鷺。

灰の帯。

灰の面。

灰寄蟲。

寄白犬。

初寄狐。

遅寄鷺。

腐白蟇。


そこまでは、かなり場に残っていた。


探索者たちも、もう 1度目の寄りでは踏み込まない。

2度目の寄りが来るまでの 1歩に体重を預けない。

そこまでは揃ってきている。


かなり大きい変化だった。



少し奥へ進む。


昨日見た灰の面より、さらに狭く、さらに深い形があった。


面の中心は薄い。

1度目の寄りは右手前。

そこは切る。

2度目は左奥。

そこまでは、もうかなり見える。


問題は、その左奥へ入るまでの 1歩だ。


左手前の外縁に、細い白が 1つだけ残っている。

かなり細い。

そこへ乗って待つ。


そこまでは昨日と同じだ。


結人はそこで足を止めた。


「左手前、待ち足あります」


三枝もすぐに言う。


「はい。

ただ、かなり薄いです」


真壁が低く続ける。


「来るな」


坂城も短く言った。


「下じゃない。上だ」


かなり、その通りだった。


次の瞬間、白い柱の影から、薄い羽音がした。


蛾に似ていた。

だが、普通の蛾よりかなり薄い。

体は細い。

翅は半透明で、縁だけが灰色に濁っている。

止まっている時は、白い足場の上に落ちた“うすい灰の影”そのものにしか見えない。

触角は短い。

腹は細長く、先端だけが黒い。


消拍蛾しょうはくが


2度目の寄りを待つための 1歩へ降り、その足場の白を奪うのではなく、1拍だけ“見えなくする” 10階の中位種。

こいつは白を腐らせない。

白を折らない。

ただ、今そこにあるはずの 1歩を、一拍だけ消して見せる。


実用的に言えば、

10階では、消えた拍を追うな。

消拍蛾がいる足場は、見えた瞬間の 1拍が抜ける。

入るなら、そのあとに戻る拍で入る。


かなり嫌だ。


かなり、今日の 10階そのものだった。



「拍、抜けます!」


結人が叫ぶ。


その瞬間、後ろの探索者の 1人が左手前の 1歩へ足を出しかける。

かなり自然な動きだった。

今見えている。

今なら乗れる。

そう思うのが普通だ。


だが次の瞬間、消拍蛾が翅を 1度だけ震わせた。


左手前の白が、ふっと消える。


黒くなるわけじゃない。

崩れるわけでもない。

ただ、そこだけ“なかった”みたいに見えた。


かなり危なかった。


もし今、踏み込んでいたら、そのまま灰の薄い面へ足を出していた。


真壁が低く言う。


「……今じゃない」


「はい!」


結人も短く返した。


「消えた拍を追わないでください!」


三枝がすぐに後ろへ渡す。


「1回消えます!

そのあとの戻りで入ってください!」


かなりいい。


かなり大きい。


待つ足場がある。

でも、その見えた瞬間に入ってはいけない。

1拍抜ける。

そのあと戻る拍が、本当に使える拍だ。



結人はその 1歩を見る。


消えた。

でも、完全には死んでいない。


消拍蛾が翅を閉じる。

その一拍あと、左手前の白がまた細く戻る。


かなり短い。

でも、戻る。


「今です!」


真壁がその拍で入る。

足を置く。

だが、体重は預けない。


かなりいい。


その直後、遅寄鷺が左奥の本物の寄りを遅らせる。

腐白蟇が待ち足の下で腹を広げる。

かなり嫌だ。

でも、真壁は乗り続けない。

置くだけで持つ。


そして、その一拍あと、左奥の本物の白が均一に戻る。


「今です!」


結人が言う。


真壁が入る。

坂城。

三枝。

探索者たち。


かなりギリギリだが、通る。


かなり大きい。


場所だけでもない。

待つ時間だけでもない。

待つ足場だけでもない。


入る拍だ。


10階はそこまで要求してくる。



結人は配信へ向けて短く言う。


「10階、2度目の寄りを待つ足場が見えても、その見えた拍で入らない方がいいです。

今のところ、“消えた拍を追うな”がかなり強いです。

1回抜けたあとの戻りで入ります」


コメント欄が一気に流れる。


炭酸:なるほど


通り雨:そこまでやるのか


澪:かなり嫌です


迷子の斥候:待ち足の拍までズラすのか


凪:消えた拍のあとで入れ


かなりいい。


短い。

強い。

そして、今日の違和感をそのまま言っていた。


結人はその言葉を胸の中で転がした。


消えた拍のあとで入れ。


かなり、その通りだった。



そこで終わらなかった。


次の灰の面では、左手前の待ち足が見えた。

消拍蛾がそこへ降りる。

白が 1回消える。

ここまでは同じだ。


だがそのあと、戻る拍がかなり短い。


ほんの一瞬だけ白が戻り、すぐまた薄くなる。


かなり悪い。


結人はそこで喉が少しだけ冷えるのを感じた。


「戻り、短いです」


三枝もすぐに言う。


「はい。

今までより拍が細いです」


真壁が低く続ける。


「じゃあ合図も短くしないと駄目だな」


かなり、その通りだった。


次の瞬間、白が戻る。


結人は短く、強く言う。


「今!」


真壁が入る。

それだけで十分だった。


長い指示はいらない。

拍の中に収まらない。


かなり大きい。


10階はここまで来ると、言葉の長さまで削ってくる。


坂城が低く言う。


「10階、説明まで削るな」


真壁が短く笑う。


「長く言うと遅いってことだ」


かなり、その通りだった。



さらに少し奥へ進む。


今度は待ち足が 2つ並んでいた。

右は少し広い。

左は細い。


かなり悪い。


広い方に消拍蛾。

左には何もいないように見える。


結人は一瞬だけ迷いかけたが、すぐに左を見た。


広い方が分かりやすく罠になる。

ここまでの 10階はずっとそうだった。


「左です!」


真壁がその声で左へ刻む。

直後、右の広い待ち足の白が消える。

やはりだ。


広い方が見やすい。

見やすい方が消される。


かなり、その通りだった。



結人は配信へ向けて短く整理する。


「10階、2度目の寄りを待つ足場が見えても、その見えた拍で入らない方がいいです。

今のところ、“待ち足は腐る”に加えて、“消えた拍のあとで入れ”がかなり強いです」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり大きい


通り雨:嫌さが綺麗だな


澪:かなり強いです


迷子の斥候:場所、時間、拍、全部いる


凪:最後に残る正解は、見える瞬間じゃなく戻る瞬間に取れ


かなり、その通りだった。



今日はそれ以上深追いしなかった。


入口の 4本。

その先の“輪の外で動け”“欠けた所に寄るな”。

そして“形の外で繋げ”“残る白は減る”“広い白は残らない”“残る白は 1人分”“見えた白は渡せ”“先の白は折れる”“灰はまだ残りだ”“灰の中で寄る場所を見ろ”“寄った白を渡すな”“最初の寄りは偽りだ”“2度目の寄りは待たされる”“待ち足は腐る”。

そこへ今、“消えた拍のあとで入れ”まで見えた。


ここまで見えたなら十分だ。


結人は配信へ向けて短く整理する。


「今日はここまでにします。

10階は、最後に残る場所だけじゃなく、待つ足場へ入る拍まで必要です。

今のところ、“待ち足は腐る”と“消えた拍のあとで入れ”がかなり強いです」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり見えた


通り雨:10階ほんとえぐい


澪:かなり大きいです


迷子の斥候:主戦前の理屈そろってきた


凪:次は、その戻る拍すら偽るやつが来る


結人は、その最後の 1行で少しだけ目を細めた。


かなり、その通りかもしれない。


次はたぶん、消えたあとに戻る拍そのものを偽る。

そういう嫌さが来る。



政府ギルドへ戻ると、相良環はすぐにメモを開いた。


「どうでしたか」


結人は答える。


「2度目の寄りを待つ足場が見えても、その見えた拍で入ると駄目な場合があります。

蛾型が 1拍だけ白を消します。

だから、消えたあとに戻る拍で入る必要があります」


相良の指が止まる。


「……かなり大きいですね」


「はい。

今のところ、“待ち足は腐る”と“消えた拍のあとで入れ”でかなり通ります」


相良はすぐに打ち込む。


「かなり綺麗です」


その一言が、かなり嬉しかった。


「10階、最後に残る正解へ入るまでの拍がさらに細かくなっています」


相良は小さく頷く。


「終路深界圏らしいです。

“最後に残る位置が使える時間”から、“そこへ入る 1拍”まで入ってきましたね」


かなり、その通りだった。



部屋へ戻り、ノートを開く。


* 10階

* 入口の 4本はかなり通る

* 輪の外を繋ぐ帯

* 欠けた輪

* 形の外の白い余白

* 灰の帯

* 灰の面

* 1度目の寄り

* 2度目の寄り

* 待つ 1歩

* 待つ拍

* 消える拍

* 戻る拍

* 4本

* 白い道は道じゃない

* 分かれ目に立つな

* 途切れた先が口だ

* 輪の中に立つな

* 次の言葉

* 輪の外で動け

* 欠けた所に寄るな

* 形の外で繋げ

* 残る白は減る

* 広い白は残らない

* 残る白は 1人分

* 見えた白は渡せ

* 先の白は折れる

* 灰はまだ残りだ

* 灰の中で寄る場所を見ろ

* 寄った白を渡すな

* 最初の寄りは偽りだ

* 2度目の寄りは待たされる

* 待ち足は腐る

* 消えた拍のあとで入れ

* 消拍蛾

* 待ち足を 1拍だけ消す

* 見えた瞬間に入ると落ちる

* 戻る拍で入る


最後に、1行だけ足した。


* 10階は、“最後に残る正解へ入る 1拍”まで偽られる階


書き終えてから、結人はペンを置いた。


かなり嫌だ。

でも、かなり進んでいる。


危ない形を避ける。

白を繋ぐ。

白が減る。

広い白が消える。

細い白が 1人分残る。

見えた白を渡す。

先の白は折れる。

灰の下にも残りがある。

灰の面では最後の白がどこへ寄るかを見る。

寄った白はそのまま渡さない。

最初の寄りは偽り。

2度目の寄りは待たされる。

待ち足は腐る。

消えた拍のあとで入る。


ここまで見えたなら、10階はかなり深い所まで形になり始めている。


今日は、そのことがかなりはっきりした日だった。

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