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同接0人、時間だけが味方だった。  作者: TimeBender


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104/118

第104話 待ち足は腐る

10階へ入るのは、12日目だった。


ここまでで拾えた言葉は、もうかなり増えている。


* 白い道は道じゃない

* 分かれ目に立つな

* 途切れた先が口だ

* 輪の中に立つな

* 輪の外で動け

* 欠けた所に寄るな

* 形の外で繋げ

* 残る白は減る

* 広い白は残らない

* 残る白は 1人分

* 見えた白は渡せ

* 先の白は折れる

* 灰はまだ残りだ

* 灰の中で寄る場所を見ろ

* 寄った白を渡すな

* 最初の寄りは偽りだ

* 2度目の寄りは待たされる


かなり見えてきた。

かなり通ってきた。


でも、昨日の最後に残った嫌さは、まだ 1本足りなかった。


2度目の寄りが本物。

でも、すぐ使えるとは限らない。

だから、その外で 1歩刻んで待つ。


そこまでは見えた。


なら次に来るのは、たぶんそこだ。


待つために置いた 1歩そのものが、長くは残らない。


結人は朝、ノートの余白に短く書いた。


* 待ち足は腐る


書いてから、少しだけ目を細める。


かなり近い。

かなり、今日の 10階に合っている気がした。



配信を始める。


終路深界圏 / 10階 待ち足


「天城結人です。

今日は 10階で、2度目の寄りを待つ時の 1歩を見ます。

入口の言葉はかなり残ってきたので、その先を拾います」


同接は 86。


コメント欄が流れる。


炭酸:きた


通り雨:今日は待ち足か


澪:お願いします


迷子の斥候:かなり嫌な予感する


凪:待つために置いた 1歩が、ずっと残ると思うな


結人は、その最後の 1行に小さく頷いた。


「はい。今日はそこです」



政府ギルド前の売店で、水を 2本、回復薬を 2本、塩飴を 1袋、ゼリーを 2本。

それにスポーツドリンクを 1本。

目薬も 1本。


新しいバックパックは、もうかなり身体の一部になっていた。


上位回復薬。

通常回復薬。

ゼリー。

飲み物。

目薬。

全部、止まらず触れる位置にある。


10階では、それがかなり大きい。

止まって探す時間が、そのまま白を減らすからだ。


会計を待っていると、後ろで探索者が小さく言った。


「2度目の寄りが来るまで待つのは分かった。

でも、その待つ場所がそのまま持つとは思えないんだよな」


かなり、その通りだった。


相良環の窓口へ向かう。


「今日は、待つ 1歩ですね」


「はい」


相良は端末を見ながら言った。


「今朝の報告でもあります。

『2度目の寄りは見えた。

その外で待った。

でも、待っている間に足元の白が崩れてそのまま落ちた』

この形です」


結人は小さく息を吐いた。


やはりそうだ。


2度目の寄りが本物でも、待つ足場がずっと残るとは限らない。


「ありがとうございます」


相良は小さく頷く。


「10階、最後に残る場所だけじゃなく、それを待つ足場まで嫌ですね」


かなり、その通りだった。



入口前には、坂城迅、真壁遼真、三枝透。

その後ろに、今日は探索者が 6人。


坂城が短く言う。


「今日は待つ 1歩だな」


「はい」


真壁が続ける。


「2度目の寄りは本物。

でも待たされる。

そこまでは見えた」


三枝も小さく言う。


「10階の次は、待つ足場の寿命ですね。

寄る場所の外で刻めても、その 1歩が長く持つとは限りません」


かなり良い。

かなり話が早い。


結人は頷いた。


「昨日は“2度目の寄りは待たされる”まで見えました。

今日は、その間に置く 1歩がどれくらい持つかを見ます」


坂城が即答する。


「長く立たない」


真壁も頷く。


「待つなら、すぐ動ける姿勢だな」


三枝が前を見たまま言った。


「待機じゃなく、通過に近い待ち方が要るかもしれません」


かなり、その通りだった。



10階へ入る。


白い空間。

黒い線。

遠さの狂った広さ。


入口の言葉は、もうかなり速い。


太い線。

縁を見る。

線蛇が裂ける。


分かれ目。

立たない。

岐路蜘蛛が浮く。


途切れた先。

見る。

終端蟷が開く。


輪。

入らない。

環路羊が首を上げる。


帯。

継ぎ目を見る。

渡輪鹿が裂ける。


欠けた輪。

寄らない。

欠輪鹿が飛ぶ。


白い余白。

広い方を捨てる。

細い白を 1人分ずつ渡す。

白削鼬。

奪白猿。

折路鷺。

灰の帯。

灰の面。

灰寄蟲。

寄白犬。

初寄狐。

遅寄鷺。


そこまでは、かなり場に残っていた。


探索者たちも、もう 1度目の寄りでは踏み込まない。

2度目が来るまで、寄る場所の外で待つ。

そこまでは揃ってきている。


かなり大きい変化だった。



少し奥へ進む。


昨日見た灰の面より、さらに細長い形があった。


面というより、広い灰の先に細い灰が 1本だけ伸びている。

しかも、その細い灰の先で 2度目の寄りが来そうに見える。


かなり嫌だ。


結人はそこで足を止めた。


「……ここ、待つ 1歩が長いです」


三枝もすぐに言う。


「はい。

寄る場所までの外縁が少し長いです」


真壁が低く続ける。


「待つ時間も伸びるな」


坂城も短く言った。


「来る」


かなり、その通りだった。


次の瞬間、灰の細い外縁の下で、黒いものがゆっくり膨らんだ。


最初は泥に見えた。

だが違う。


蛙に似ていた。

だが、普通の蛙みたいな丸さはない。

体は低く平たい。

脚は短い。

腹だけが灰白く膨れ、その腹が白い足場の上へじわりと広がる。

背中はひび割れた灰色で、止まっている時は“少し濁った白の 1歩”そのものにしか見えない。

目は小さく、口は横に長い。


腐白蟇ふはくがま


2度目の寄りを待つために置かれた 1歩へ現れ、その白をじわじわ腐らせて、待っている間に足場を死なせる 10階の中位種。

こいつは飛びかからない。

ただ、その場にいる。

その場にいるだけで、白が持たなくなる。


実用的に言えば、

10階では、待ち足は腐る。

寄る場所の外で待つ 1歩も、長くは持たない。

待つなら、踏み込んだまま待機せず、すぐ動ける拍で刻む。


かなり嫌だ。


かなり、今日の 10階そのものだった。



「足場、腐ります!」


結人が叫ぶ。


その瞬間、前にいた探索者の 1人が、待機用の 1歩へしっかり体重を預ける。

かなり自然な動きだった。

待つなら足場を取る。

普通はそうだ。


だが次の瞬間、腐白蟇の腹がじわりと広がり、その 1歩の白が灰へ濁る。


かなり危なかった。


もしもう半拍遅れていたら、そのまま足元から消えていた。


真壁が低く言う。


「預けるな」


「はい!」


結人も短く返した。


「置くだけです!

乗らないでください!」


三枝がすぐに後ろへ渡す。


「待つ時も体重をかけないでください!

次の拍で出られる位置だけ取ります!」


かなりいい。


かなり大きい。


10階はここまで来ると、

立つ

待つ

渡す

その全部の意味が変わる。


待機じゃない。

ただ、次の 1歩のために“触れているだけ”の状態が要る。



結人はすぐに足元を見る。


腐白蟇が腹を広げている。

その外、左へ半歩ずれた所に、まだ細い白が残る。


かなり細い。

だが、そこなら腐っていない。


「左半歩です!」


真壁がその声で体重をずらす。

待ち足そのものへは乗らず、左半歩の白へ“触れるだけ”に近い形で位置を取る。


かなりいい。


その一拍あと、遅寄鷺が 2度目の寄りを遅らせる。

さらにそのあと、左奥に本物の白が戻る。


「今です!」


結人が言う。


真壁が入る。

坂城。

三枝。

探索者たち。


かなりギリギリだが、通る。


かなり大きい。


待つ 1歩は必要。

でも、その 1歩に居着いたら腐る。

だから、置く。

預けない。

次へ出る前提で持つ。


かなり嫌だ。

でもかなり綺麗でもある。



結人は配信へ向けて短く言う。


「10階、2度目の寄りを待つ時の 1歩も長くは持ちません。

今のところ、“待ち足は腐る”です。

待つなら、そこに乗るんじゃなくて、次に動ける拍で置くだけの方がかなり通ります」


コメント欄が一気に流れる。


炭酸:なるほど


通り雨:そこまで嫌か


澪:かなり嫌です


迷子の斥候:待機じゃなくて通過の準備か


凪:待ち足は腐る


かなりいい。


短い。

強い。

そして、今日の違和感をそのまま言っていた。


結人はその言葉を胸の中で転がした。


待ち足は腐る。


かなり、その通りだった。



そこで終わらなかった。


次の灰の面では、2度目の寄りが右奥。

その手前に置ける 1歩が 2つあった。


右手前の少し広い白。

左手前の細い白。


かなり悪い。


広い方に乗りたくなる。

でも、10階で広い方が残ることは少ない。


結人はすぐに左手前を見る。

細い。

だが均一だ。


右手前の少し広い白の下で、腐白蟇がすでに腹を広げ始めている。


やはりだ。


「左手前です!」


真壁がその声で左へ刻む。

坂城も続く。

その直後、右手前の広い白が灰へ濁った。


やはりそうだ。


待つ場所でも、広い方は先に腐る。


真壁が低く言う。


「待つ足まで、広い方が駄目か」


「はい」


結人も短く返した。


「10階は、待つ場所まで歩きやすい方を消してきます」


かなり、その通りだった。



さらに少し奥へ進む。


今度は、待ち足が 1つしかない。

かなり細い。

しかも、そのすぐ下を灰残蟲が走っている。

つまり、待っているだけで幅が削られる。


かなり悪い。


結人はそこで喉が少しだけ冷えるのを感じた。


ここまで来ると、

待つ場所

待つ時間

待つ姿勢

その全部が要る。


「ここ、拍だけです」


結人が言う。


三枝もすぐに頷く。


「はい。

足場じゃないですね。

ただの拍です」


かなり、その通りだった。


真壁が低く笑う。


「10階、どんどん人間の都合を消してくるな」


坂城も短く続けた。


「だから見える」


かなり、その通りだった。



結人は配信へ向けて短く整理する。


「10階、2度目の寄りが来るまでの 1歩も、長くは持ちません。

待つ場所じゃなくて、次へ出るまでの拍として使った方がかなり通ります。

今のところ、“2度目の寄りは待たされる”に加えて、“待ち足は腐る”がかなり強いです」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり大きい


通り雨:待機の概念が壊れるな


澪:かなり綺麗です


迷子の斥候:止まる、待つ、立つ、全部意味変わってる


凪:最後に残る正解は、場所でも時間でもなく拍になる


かなり、その通りだった。



今日はそれ以上深追いしなかった。


入口の 4本。

その先の“輪の外で動け”“欠けた所に寄るな”。

そして“形の外で繋げ”“残る白は減る”“広い白は残らない”“残る白は 1人分”“見えた白は渡せ”“先の白は折れる”“灰はまだ残りだ”“灰の中で寄る場所を見ろ”“寄った白を渡すな”“最初の寄りは偽りだ”“2度目の寄りは待たされる”。

そこへ今、“待ち足は腐る”まで見えた。


ここまで見えたなら十分だ。


結人は配信へ向けて短く整理する。


「今日はここまでにします。

10階は、最後に残る場所が見えても、待つ 1歩が長く持つとは限りません。

今のところ、“2度目の寄りは待たされる”と“待ち足は腐る”がかなり強いです」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり見えた


通り雨:10階えぐいな


澪:かなり大きいです


迷子の斥候:主戦前の理屈がそろってきた


凪:次は、その腐る拍の中で、白を奪うんじゃなく消すやつが来る


結人は、その最後の 1行で少しだけ目を細めた。


かなり、その通りかもしれない。


次はたぶん、奪うでも折るでもない。

その拍そのものを消す。

そういう嫌さが来る。



政府ギルドへ戻ると、相良環はすぐにメモを開いた。


「どうでしたか」


結人は答える。


「2度目の寄りを待つための 1歩も長くは持ちません。

蟇型がそこを腐らせます。

だから待つ時も、そこに乗らず、次に動ける拍として使う必要があります」


相良の指が止まる。


「……かなり大きいですね」


「はい。

今のところ、“2度目の寄りは待たされる”と“待ち足は腐る”でかなり通ります」


相良はすぐに打ち込む。


「かなり綺麗です」


その一言が、かなり嬉しかった。


「10階、最後に残る正解がどこかだけじゃなく、そこへどういう拍で入るかまで必要になります」


相良は小さく頷く。


「終路深界圏らしいです。

“最後に残る位置が使える時間”から、“その時間にどう身体を置くか”まで入ってきましたね」


かなり、その通りだった。



部屋へ戻り、ノートを開く。


* 10階

* 入口の 4本はかなり通る

* 輪の外を繋ぐ帯

* 欠けた輪

* 形の外の白い余白

* 灰の帯

* 灰の面

* 1度目の寄り

* 2度目の寄り

* 待つ 1歩

* 待つ拍

* 4本

* 白い道は道じゃない

* 分かれ目に立つな

* 途切れた先が口だ

* 輪の中に立つな

* 次の言葉

* 輪の外で動け

* 欠けた所に寄るな

* 形の外で繋げ

* 残る白は減る

* 広い白は残らない

* 残る白は 1人分

* 見えた白は渡せ

* 先の白は折れる

* 灰はまだ残りだ

* 灰の中で寄る場所を見ろ

* 寄った白を渡すな

* 最初の寄りは偽りだ

* 2度目の寄りは待たされる

* 待ち足は腐る

* 腐白蟇

* 待つ 1歩を腐らせる

* 乗ると遅い

* 置くだけで次へ出る


最後に、1行だけ足した。


* 10階は、“最後に残る正解へ入る拍”まで整えないと詰む階


書き終えてから、結人はペンを置いた。


かなり嫌だ。

でも、かなり進んでいる。


危ない形を避ける。

白を繋ぐ。

白が減る。

広い白が消える。

細い白が 1人分残る。

見えた白を渡す。

先の白は折れる。

灰の下にも残りがある。

灰の面では最後の白がどこへ寄るかを見る。

寄った白はそのまま渡さない。

最初の寄りは偽り。

2度目の寄りは待たされる。

待ち足は腐る。


ここまで見えたなら、10階はかなり深い所まで形になり始めている。


今日は、そのことがかなりはっきりした日だった。

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