第103話 2度目の寄りは待たされる
10階へ入るのは、11日目だった。
ここまでで拾えた言葉は、かなり増えた。
* 白い道は道じゃない
* 分かれ目に立つな
* 途切れた先が口だ
* 輪の中に立つな
* 輪の外で動け
* 欠けた所に寄るな
* 形の外で繋げ
* 残る白は減る
* 広い白は残らない
* 残る白は 1人分
* 見えた白は渡せ
* 先の白は折れる
* 灰はまだ残りだ
* 灰の中で寄る場所を見ろ
* 寄った白を渡すな
* 最初の寄りは偽りだ
かなり見えてきた。
かなり通ってきた。
でも、昨日の最後に残った違和感は、まだ 1本になっていなかった。
灰の面で、最初の寄りは偽りだった。
なら次に必要なのは、2度目の寄りだ。
ただ、結人は昨夜ノートを見返しながら、そこにもまだ嫌な余白がある気がしていた。
2度目の寄りが来るまでの時間。
そこがまだ、かなり危ない。
結人は朝、ノートの余白へ短く書いた。
* 2度目の寄りは待たされる
書いてから、少しだけ目を細める。
かなり近い。
かなり、今日の 10階に合っている気がした。
⸻
配信を始める。
終路深界圏 / 10階 2度目の寄り
「天城結人です。
今日は 10階で、灰の面の 2度目の寄りを見ます。
最初の寄りは偽りでした。
その先を拾います」
同接は 85。
コメント欄が流れる。
炭酸:きた
通り雨:今日は 2度目の寄りか
澪:お願いします
迷子の斥候:ここかなり嫌だ
凪:2度目が本物でも、すぐ来るとは限らない
結人は、その最後の 1行に小さく頷いた。
「はい。今日はそこです」
⸻
政府ギルド前の売店で、水を 2本、回復薬を 2本、塩飴を 1袋、ゼリーを 2本。
それにスポーツドリンクを 1本。
目薬も 1本。
新しいバックパックは、もうかなり身体に馴染んでいた。
上位回復薬。
通常回復薬。
ゼリー。
飲み物。
目薬。
全部、止まらず触れる位置にある。
10階では、それがかなり大きい。
止まって探す時間が、そのまま白を減らすからだ。
会計を待っていると、後ろで探索者が小さく言った。
「最初の寄りを切るのは分かった。
でも、2度目が来るまでどこで待つんだよ」
かなり、その通りだった。
相良環の窓口へ向かう。
「今日は、待たされる時間ですね」
「はい」
相良は端末を見ながら言った。
「今朝の報告でもあります。
『最初の寄りは切れた。
でも、2度目が来るまで待っている間に白が減って、そのまま詰んだ』
この形です」
結人は小さく息を吐いた。
やはりそうだ。
2度目の寄りが本物でも、すぐ来るとは限らない。
その間に白が削られるなら、待ち方そのものが必要になる。
「ありがとうございます」
相良は小さく頷く。
「10階、最後に残る位置だけじゃなく、その位置が来るまでの時間まで嫌ですね」
かなり、その通りだった。
⸻
入口前には、坂城迅、真壁遼真、三枝透。
その後ろに、今日は探索者が 6人。
坂城が短く言う。
「今日は待ち方だな」
「はい」
真壁が続ける。
「最初は偽り。
次が本物。
そこまでは見えた」
三枝も小さく言う。
「10階の次は、その本物が来るまでの待ち時間ですね。
待つ場所と待ち方を間違えると、寄る前に削られます」
かなり良い。
かなり話が早い。
結人は頷いた。
「昨日は“最初の寄りは偽りだ”まで見えました。
今日は、そのあとにどう待つかを見ます」
坂城が即答する。
「寄るまで立たない」
真壁も頷く。
「待つなら、寄る場所の外だな」
三枝が前を見たまま言った。
「白が来るまで、白の上で待たない方がいいです」
かなり、その通りだった。
⸻
10階へ入る。
白い空間。
黒い線。
遠さの狂った広さ。
入口の言葉は、もうかなり速い。
太い線。
縁を見る。
線蛇が裂ける。
分かれ目。
立たない。
岐路蜘蛛が浮く。
途切れた先。
見る。
終端蟷が開く。
輪。
入らない。
環路羊が首を上げる。
帯。
継ぎ目を見る。
渡輪鹿が裂ける。
欠けた輪。
寄らない。
欠輪鹿が飛ぶ。
白い余白。
広い方を捨てる。
細い白を 1人分ずつ渡す。
白削鼬。
奪白猿。
折路鷺。
灰の帯。
灰の面。
灰寄蟲。
寄白犬。
初寄狐。
そこまでは、かなり場に残っていた。
探索者たちも、もう 1度目の寄りで踏み込まない。
かなり大きい変化だった。
⸻
少し奥へ進む。
昨日見た灰の面より、さらに広く、さらに薄い面があった。
縁は濃い。
中心は薄い。
最初に見た時点では、右手前へ白が寄りそうに見える。
かなり嫌だ。
結人はそこで足を止めた。
「右手前……に見えます」
三枝もすぐに言う。
「はい。
でも、まだ速いです」
真壁が低く続ける。
「初寄狐がいるな」
坂城も短く言った。
「まだ踏まない」
かなり、その通りだった。
次の瞬間、やはり右手前に白が寄る。
そしてその縁に、初寄狐が尾を揺らした。
1度目だ。
だが誰も踏み込まない。
その一拍あと、右手前の白が消え、今度は左奥へ細く寄る。
ここまでは昨日と同じだ。
結人が左奥へ意識を向けた、その瞬間だった。
灰の面の上に、白い板みたいなものが 2枚、ゆっくり降りた。
最初は柱の欠片に見えた。
だが違う。
それは鳥に似ていた。
折路鷺より大きい。
脚は長い。
胴は薄い。
羽は閉じたまま身体の左右に垂れ、白い板を 2枚重ねたように見える。
首は長く、頭は小さい。
嘴は細いが、黒ではなく薄い灰だ。
止まっている時は、灰の面の上に降りた“白い遅れ”そのものにしか見えない。
遅寄鷺。
灰の面で2度目に白が寄るはずの位置の上空に降り、寄るタイミングそのものを遅らせる 10階の中位種。
こいつは寄り先をずらさない。
ただ、本物の寄りが来るまでの時間を引き延ばす。
その間に白削鼬や寄白犬が周囲を削る。
実用的に言えば、
10階では、2度目の寄りは待たされる。
遅寄鷺がいる灰の面では、本物の寄り先は見えてもすぐ来ない。
待つなら、寄る場所の上に立たず、その外で刻む。
かなり嫌だ。
かなり、今日の 10階そのものだった。
⸻
「待たされます!」
結人が叫ぶ。
その瞬間、後ろの探索者の 1人が左奥へ踏み込みかける。
かなり自然な動きだった。
2度目の寄りが見えたなら、そこへ入るのが昨日までの正解だったからだ。
だが次の瞬間、遅寄鷺の灰色の嘴が空を切る。
左奥の白はまだ完全には戻らない。
薄い。
乗れない。
かなり危なかった。
もし今、左奥へ入っていたら、そのまま灰の薄い所へ足を出していた。
真壁が低く言う。
「まだ白じゃない」
「はい!」
結人も短く返した。
「場所は合ってます。
でも、時間がまだです!」
三枝がすぐに後ろへ渡す。
「寄り先は左奥です!
でも今はまだ乗りません!」
かなりいい。
かなり大きい。
10階は、ここまで来ると“どこへ寄るか”だけじゃ足りない。
その寄りがいつ使えるかまで必要になる。
⸻
結人はすぐに寄り先の外を見る。
左奥へ寄るはずの白。
そこへ直接立たない。
その 1歩手前、灰の面の外縁にまだ細い白が残っている。
かなり細い。
足半分ほど。
でも、そこなら待てる。
「左奥の 1歩手前です!」
真壁がその声で入る。
白の上というより、白の外縁へ刻むように足を置く。
かなりいい。
その直後、白削鼬が中心の薄い灰を走る。
寄白犬も右手前の偽りの寄り先を横切る。
だが、真壁の立った 1歩手前には届かない。
やはりだ。
待つなら、寄る場所そのものじゃない。
その外で刻む。
遅寄鷺が 1度、羽板を揺らす。
そのあとで、ようやく左奥の白が均一に戻った。
「今です!」
結人が言う。
真壁がその左奥へ入る。
坂城。
三枝。
探索者たち。
かなりギリギリだが、通る。
かなり大きい。
2度目の寄りが本物。
でも、その本物も即時には使えない。
その間をどう持つかが、かなり強い。
⸻
結人は配信へ向けて短く言う。
「10階、2度目の寄りが本物でも、すぐ使えるとは限りません。
今のところ、“2度目の寄りは待たされる”です。
待つなら、寄る場所の上じゃなく、その外で刻みます」
コメント欄が一気に流れる。
炭酸:なるほど
通り雨:そこまでやるのか
澪:かなり嫌です
迷子の斥候:場所と時間が分かれた
凪:2度目の寄りは待たされる
かなりいい。
短い。
強い。
そして、今日の違和感をそのまま言っていた。
結人はその言葉を胸の中で転がした。
2度目の寄りは待たされる。
かなり、その通りだった。
⸻
そこで終わらなかった。
次の灰の面では、1度目の寄りが左。
2度目の寄りが右奥。
そこまでは見えた。
だが、遅寄鷺が右奥の上で待ち時間を引き延ばしている間に、
右奥の手前に残っていた細い白がさらに細くなった。
かなり悪い。
待つ場所そのものも、長くは残らない。
結人はそこで喉が少しだけ冷えるのを感じた。
「手前、減ります」
三枝もすぐに言う。
「はい。
待てるけど、長くは持ちません」
真壁が低く続ける。
「じゃあ、待つ時間も短くしないと駄目か」
かなり、その通りだった。
次の瞬間、結人は左手前にいた灰残蟲の揺れを見る。
その下の白が、ほんの一瞬だけ長く戻る。
そこだ。
「左手前を 1歩使います!」
真壁がそこへ刻む。
その 1歩で待つ。
遅寄鷺が 2度目の白を遅らせる。
だがその一拍あと、右奥の白が戻る。
「今です!」
真壁が入る。
坂城。
三枝。
探索者たち。
かなり危なかった。
でも、かなり通った。
待つ場所。
待つ時間。
寄る場所。
その全部が繋がってきている。
かなり嫌だ。
でもかなり綺麗でもある。
⸻
坂城が低く言う。
「ここまで来ると、場所だけじゃなく拍だな」
「はい」
結人も短く返した。
「10階、どこかだけじゃなく、何拍待つかまで必要になります」
三枝が小さく頷く。
「かなり大きいです。
“灰の中で寄る場所を見ろ”の次ですね」
真壁も低く笑う。
「嫌な階だな」
かなり、その通りだった。
でも、嫌なだけじゃない。
ここまで来ると、10階の嫌さはもうかなり綺麗な理屈になっていた。
⸻
結人は配信へ向けて短く整理する。
「10階、灰の面では 2度目の寄りが本物でも、すぐ使えるとは限りません。
遅らされます。
今のところ、“最初の寄りは偽りだ”に加えて、“2度目の寄りは待たされる”がかなり強いです」
コメント欄が流れる。
炭酸:かなり大きい
通り雨:灰の面の理屈すごいな
澪:かなり綺麗です
迷子の斥候:場所と時間の両方がいるのか
凪:最後に残る正解は、位置だけじゃなく拍でも読む
かなり、その通りだった。
⸻
今日はそれ以上深追いしなかった。
入口の 4本。
その先の“輪の外で動け”“欠けた所に寄るな”。
そして“形の外で繋げ”“残る白は減る”“広い白は残らない”“残る白は 1人分”“見えた白は渡せ”“先の白は折れる”“灰はまだ残りだ”“灰の中で寄る場所を見ろ”“寄った白を渡すな”“最初の寄りは偽りだ”。
そこへ今、“2度目の寄りは待たされる”まで見えた。
ここまで見えたなら十分だ。
結人は配信へ向けて短く整理する。
「今日はここまでにします。
10階は、灰の面で最後に残る場所が見えても、すぐ使えるとは限りません。
今のところ、“最初の寄りは偽りだ”と“2度目の寄りは待たされる”がかなり強いです」
コメント欄が流れる。
炭酸:かなり見えた
通り雨:10階どんどんえぐい
澪:かなり大きいです
迷子の斥候:主戦前の嫌さが完成してきた
凪:次は、その待たせる時間の中で、白そのものを盗るやつが来る
結人は、その最後の 1行で少しだけ目を細めた。
かなり、その通りかもしれない。
次はたぶん、場所でも順番でもなく、
待っている間そのものを削る。
そういう嫌さが来る。
⸻
政府ギルドへ戻ると、相良環はすぐにメモを開いた。
「どうでしたか」
結人は答える。
「灰の面で 2度目の寄りが本物でも、すぐ使えるとは限りません。
鷺型が寄りのタイミングを遅らせます。
だから、寄る場所の外で待つ必要があります」
相良の指が止まる。
「……かなり大きいですね」
「はい。
今のところ、“最初の寄りは偽りだ”と“2度目の寄りは待たされる”でかなり通ります」
相良はすぐに打ち込む。
「かなり綺麗です」
その一言が、かなり嬉しかった。
「10階、最後に残る場所が見えても、その場所が使える時間まで読まないと駄目です」
相良は小さく頷く。
「終路深界圏らしいです。
“最後に残る位置を読む”から、“最後に残る位置が使える拍を読む”段階に入りましたね」
かなり、その通りだった。
⸻
部屋へ戻り、ノートを開く。
* 10階
* 入口の 4本はかなり通る
* 輪の外を繋ぐ帯
* 欠けた輪
* 形の外の白い余白
* 灰の帯
* 灰の面
* 1度目の寄り
* 2度目の寄り
* 待つ 1歩
* 4本
* 白い道は道じゃない
* 分かれ目に立つな
* 途切れた先が口だ
* 輪の中に立つな
* 次の言葉
* 輪の外で動け
* 欠けた所に寄るな
* 形の外で繋げ
* 残る白は減る
* 広い白は残らない
* 残る白は 1人分
* 見えた白は渡せ
* 先の白は折れる
* 灰はまだ残りだ
* 灰の中で寄る場所を見ろ
* 寄った白を渡すな
* 最初の寄りは偽りだ
* 2度目の寄りは待たされる
* 遅寄鷺
* 2度目の寄りを遅らせる
* 寄る場所の上では待てない
* 外で刻んで待つ
最後に、1行だけ足した。
* 10階は、“最後に残る正解が使える時間”まで読まないと詰む階
書き終えてから、結人はペンを置いた。
かなり嫌だ。
でも、かなり進んでいる。
危ない形を避ける。
白を繋ぐ。
白が減る。
広い白が消える。
細い白が 1人分残る。
見えた白を渡す。
先の白は折れる。
灰の下にも残りがある。
灰の面では最後の白がどこへ寄るかを見る。
寄った白はそのまま渡さない。
最初の寄りは偽り。
2度目の寄りは待たされる。
ここまで見えたなら、10階はかなり深い所まで形になり始めている。
今日は、そのことがかなりはっきりした日だった。




