表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同接0人、時間だけが味方だった。  作者: TimeBender


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
102/116

第102話 最初の寄りは偽りだ

10階へ入るのは、10日目だった。


ここまでで拾えた言葉は、かなり増えた。


* 白い道は道じゃない

* 分かれ目に立つな

* 途切れた先が口だ

* 輪の中に立つな

* 輪の外で動け

* 欠けた所に寄るな

* 形の外で繋げ

* 残る白は減る

* 広い白は残らない

* 残る白は 1人分

* 見えた白は渡せ

* 先の白は折れる

* 灰はまだ残りだ

* 灰の中で寄る場所を見ろ

* 寄った白を渡すな


かなり見えてきた。

かなり通ってきた。


でも、昨日の最後に残った違和感は、まだ 1本になっていなかった。


灰の面で最後に白がどこへ寄るか。

そこまでは見えた。

けれど、その“寄り”が最初から正しいとは、誰もまだ言っていない。


結人は朝、ノートの余白へ短く書いた。


* 最初の寄りは偽りだ


書いてから、少しだけ目を細める。


かなり近い。

かなり、今日の 10階に合っている気がした。



配信を始める。


終路深界圏 / 10階 最初の寄り


「天城結人です。

今日は 10階で、灰の面の寄り方の続きです。

最後に白がどこへ寄るかは見えました。

その先を拾います」


同接は 84。


コメント欄が流れる。


炭酸:きた


通り雨:今日は寄り方の続きか


澪:お願いします


迷子の斥候:灰の面かなり嫌だ


凪:最後に寄る場所が見えても、最初からそこだと思うな


結人は、その最後の 1行に小さく頷いた。


「はい。今日はそこです」



政府ギルド前の売店で、水を 2本、回復薬を 2本、塩飴を 1袋、ゼリーを 2本。

それにスポーツドリンクを 1本。

目薬も 1本。


新しいバックパックは、もうかなり身体に馴染んでいた。


上位回復薬。

通常回復薬。

ゼリー。

飲み物。

目薬。

全部、止まらず触れる位置にある。


10階では、それがかなり大きい。

止まって探す時間が、そのまま白を減らすからだ。


会計を待っていると、後ろで探索者が小さく言った。


「灰の面、寄る場所が 1回で決まるならまだいいんだけどな」


かなり、その通りだった。


相良環の窓口へ向かう。


「今日は、寄り方そのものですね」


「はい」


相良は端末を見ながら言った。


「今朝の報告でもあります。

『灰の面で最後に白が寄る場所は見えた。

でも、1度目に寄った場所へ入ったら、そのあと寄り先がずれてそのまま落ちた』

この形です」


結人は小さく息を吐いた。


やはりそうだ。


灰の面で最後に残る白が見えても、

その寄りが 1回で終わるとは限らない。


「ありがとうございます」


相良は小さく頷く。


「10階、最後に残る場所も“更新”される段階に入ってきていますね」


かなり、その通りだった。



入口前には、坂城迅、真壁遼真、三枝透。

その後ろに、今日は探索者が 6人。


坂城が短く言う。


「今日は寄りの更新だな」


「はい」


真壁が続ける。


「灰の面で寄る場所を見る。

でも、それが 1回で終わるとは限らない」


三枝も小さく言う。


「10階の次は、寄り方の順番ですね。

どこに寄るかじゃなく、何回寄るか」


かなり良い。

かなり話が早い。


結人は頷いた。


「昨日は“灰の中で寄る場所を見ろ”まで見えました。

今日は、その寄り方が 1度目で終わらないなら、どこを見るかを詰めます」


坂城が即答する。


「最初を踏まない」


真壁も頷く。


「寄ったからって、すぐ入らない方がいいな」


三枝が前を見たまま言った。


「寄り先が 2回動くなら、最初は餌です」


かなり、その通りだった。



10階へ入る。


白い空間。

黒い線。

遠さの狂った広さ。


入口の言葉は、もうかなり速い。


太い線。

縁を見る。

線蛇が裂ける。


分かれ目。

立たない。

岐路蜘蛛が浮く。


途切れた先。

見る。

終端蟷が開く。


輪。

入らない。

環路羊が首を上げる。


帯。

継ぎ目を見る。

渡輪鹿が裂ける。


欠けた輪。

寄らない。

欠輪鹿が飛ぶ。


白い余白。

広い方を捨てる。

細い白を 1人分ずつ渡す。

白削鼬。

奪白猿。

折路鷺。

灰の帯。

灰の面。

灰寄蟲。

寄白犬。


そこまでは、かなり場に残っていた。


探索者たちも、もう白と黒だけを見ていない。

白の幅。

折れ方。

灰の揺れ。

寄り方。

そこまで目を使っている。


かなり大きい変化だった。



少し奥へ進む。


昨日見た灰の面より、さらに広い面があった。


床 2枚ぶんほど。

縁は濃い。

中心は薄い。

だが、その薄さが均一じゃない。

最初に見た時点で、灰がやや右下へ流れているように見えた。


かなり嫌だ。


結人はそこで足を止めた。


「右下……に見えます」


三枝もすぐに言う。


「はい。

でも、まだ寄り切ってません」


真壁が低く続ける。


「待つか」


坂城も短く言った。


「最初を踏まない」


かなり、その通りだった。


次の瞬間、灰の面の下で何かが速く走った。


灰寄蟲より細い。

もっと軽い。

もっと速い。


そのあと、右下に薄く白が寄る。


やはりだ。


1度目の寄りだ。


だが、結人は踏み込まなかった。


その右下の白の縁に、白い影が立っていたからだ。


狐に似ていた。

だが、普通の狐よりずっと細い。

脚は長い。

胴は低い。

尾は 2本に分かれ、その 2本の先だけが灰色に濁っている。

顔は小さく、目は細い。

止まっている時は、最初に白が寄った場所の縁そのものにしか見えない。


初寄狐。


灰の面で1度目に白が寄る位置だけへ現れ、そこを本物の残りだと思わせる誘導型中位種。

こいつはその場で襲わない。

人が“今だ”と思って足を入れた瞬間に、灰の流れをもう 1度だけずらす。


実用的に言えば、

10階では、最初の寄りは偽りだ。

初寄狐がいる灰の面は、1度目の白へ入ると、その次の本当の寄りを見失う。

寄りは 2回見る。


かなり嫌だ。


かなり、今日の 10階そのものだった。



「まだです!」


結人が叫ぶ。


その瞬間、後ろの探索者の 1人が右下へ踏み込みかける。

かなり自然な動きだった。

今までなら、そこで“寄った白を取る”のが正しい場面もあったからだ。


だが、次の瞬間、初寄狐の 2本の尾が灰の面を払った。


右下に寄っていた白が、左奥へするりと流れた。


かなり危なかった。


もし今、右下へ入っていたら、白が消えたあとで真ん中へ取り残されていた。


真壁が低く言う。


「2回だな」


「はい!」


結人も短く返した。


「最初の寄りは踏みません!」


三枝がすぐに後ろへ渡す。


「1度目は見ます!

まだ乗りません!」


かなりいい。


かなり大きい。


灰の面で最後に残る白を読む。

そこまでは昨日までで見えた。

でも今日は、その“最後”が 1度では来ないと分かった。



初寄狐が右下から左奥へ視線を引いたあと、灰の面の流れが少しだけ遅くなった。


その一拍あと、左奥の狭い一角に、ほんの少しだけ均一な白が戻る。


最初の寄りより細い。

でも、揺れが少ない。


「左奥です!」


結人が言う。


真壁がその声で入る。

坂城。

三枝。

探索者たち。


かなりギリギリだが、通る。


その直後、さっきまで白だった右下を寄白犬が横切った。


やはりだ。


1度目に寄った白は、犬の狩り場にもなる。

最初を踏まない方が、結果として安全でもある。


結人は配信へ向けて短く言う。


「10階、灰の面で最初に白が寄っても、まだ踏まない方がいいです。

1度目に寄った場所を狐型がずらします。

今のところ、寄りは 2回見た方がかなり通ります」


コメント欄が一気に流れる。


炭酸:なるほど


通り雨:そこまでやるのか


澪:かなり嫌です


迷子の斥候:最初の寄りは駄目か


凪:最初の寄りは偽りだ


かなりいい。


短い。

強い。

そして、今日の違和感をそのまま言っていた。


結人はその言葉を胸の中で転がした。


最初の寄りは偽りだ。


かなり、その通りだった。



そこで終わらなかった。


次の灰の面は、今度は左手前へ白が寄った。

かなり分かりやすい。

かなり“そこへ行け”という形だった。


だが結人はすぐに踏まなかった。


左手前の縁に、初寄狐の尾が少しだけ見えたからだ。


「まだです。

次、動きます」


真壁が頷く。

坂城も動かない。

三枝は灰の流れだけを見ている。


次の瞬間、やはり左手前の白が消え、今度は右奥に細い白が戻った。


かなり嫌だ。

でも、かなり分かる。


1度目は見せ。

2度目が残り。


そういう形が、もう 2回続いた。


坂城が低く言う。


「寄り方自体が罠か」


「はい」


結人も短く返した。


「最後に残る場所を見る前に、最初に見える場所を捨てないといけません」


かなり、その通りだった。



そこから先、灰の面の見方がまた少しだけ変わった。


今までは、どこへ寄るかを見ていた。

ここからは、最初の寄りを切って、2度目の寄りを見る。


差はかなり大きい。


次に出た灰の面では、初寄狐が右上へ 1度だけ尾を振る。

その瞬間にだけ、白がそこへ寄る。

かなり分かりやすい。

かなり罠だ。


結人はそこで逆に、右上以外の灰の流れを見た。


すると、左中央の濁りだけが遅れて薄くなる。


そこだ。


「左中央、2回目です!」


真壁がすぐに足を置く。

坂城も続く。

その直後、右上の最初の寄りを寄白犬が横切った。


やはりだ。


1度目の寄りは、寄らせるためにある。

2度目の寄りが、まだ少しだけ残る。


かなり大きい。


かなり、10階らしい。



結人は配信へ向けて短く整理する。


「10階、灰の面で白が寄っても、その 1回目は見せの可能性があります。

今のところ、“灰の中で寄る場所を見ろ”に加えて、“最初の寄りは偽りだ”がかなり強いです」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり大きい


通り雨:灰の面の理屈増えたな


澪:かなり綺麗です


迷子の斥候:1回目切るの強い


凪:帯は戻る。面は寄る。寄りは1回では終わらない


かなり、その通りだった。



今日はそれ以上深追いしなかった。


入口の 4本。

その先の“輪の外で動け”“欠けた所に寄るな”。

そして“形の外で繋げ”“残る白は減る”“広い白は残らない”“残る白は 1人分”“見えた白は渡せ”“先の白は折れる”“灰はまだ残りだ”“灰の中で寄る場所を見ろ”“寄った白を渡すな”。

そこへ今、“最初の寄りは偽りだ”まで見えた。


ここまで見えたなら十分だ。


結人は配信へ向けて短く整理する。


「今日はここまでにします。

10階は、灰の面で最後に白がどこへ寄るかを見るだけじゃ足りません。

1度目に寄った場所は見せのことがあります。

今のところ、“灰の中で寄る場所を見ろ”と“最初の寄りは偽りだ”がかなり強いです」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり見えた


通り雨:10階ほんと嫌だな


澪:かなり大きいです


迷子の斥候:主戦前の整理感ある


凪:次は、2回目の寄りすら遅らせるやつが来る


結人は、その最後の 1行で少しだけ目を細めた。


かなり、その通りかもしれない。


次はたぶん、最初の寄りだけじゃない。

2回目の寄りすら、遅らせる。

そういう嫌さが来る。



政府ギルドへ戻ると、相良環はすぐにメモを開いた。


「どうでしたか」


結人は答える。


「灰の面で最後に白がどこへ寄るかは見えます。

でも、その 1度目の寄りは偽りのことがあります。

狐型が寄り先を 1回ずらします」


相良の指が止まる。


「……かなり大きいですね」


「はい。

今のところ、“灰の中で寄る場所を見ろ”と“最初の寄りは偽りだ”でかなり通ります」


相良はすぐに打ち込む。


「かなり綺麗です」


その一言が、かなり嬉しかった。


「10階、最後に残る場所が見えても、それが最初から本物とは限りません」


相良は小さく頷く。


「終路深界圏らしいです。

“最後に残る位置を読む”から、“最後に残る位置の順番を読む”段階に入りましたね」


かなり、その通りだった。



部屋へ戻り、ノートを開く。


* 10階

* 入口の 4本はかなり通る

* 輪の外を繋ぐ帯

* 欠けた輪

* 形の外の白い余白

* 灰の帯

* 灰の面

* 1度目の寄り

* 2度目の寄り

* 4本

* 白い道は道じゃない

* 分かれ目に立つな

* 途切れた先が口だ

* 輪の中に立つな

* 次の言葉

* 輪の外で動け

* 欠けた所に寄るな

* 形の外で繋げ

* 残る白は減る

* 広い白は残らない

* 残る白は 1人分

* 見えた白は渡せ

* 先の白は折れる

* 灰はまだ残りだ

* 灰の中で寄る場所を見ろ

* 寄った白を渡すな

* 最初の寄りは偽りだ

* 初寄狐

* 1度目の寄りに現れる

* 寄り先を 1回ずらす

* 2度目の寄りを見る


最後に、1行だけ足した。


* 10階は、“最後に残る正解”すら 1回目では来ない階


書き終えてから、結人はペンを置いた。


かなり嫌だ。

でも、かなり進んでいる。


危ない形を避ける。

白を繋ぐ。

白が減る。

広い白が消える。

細い白が 1人分残る。

見えた白を渡す。

先の白は折れる。

灰の下にも残りがある。

灰の面では最後の白がどこへ寄るかを見る。

寄った白はそのまま渡さない。

そして、最初の寄りは偽りだ。


ここまで見えたなら、10階はかなり深い所まで形になり始めている。


今日は、そのことがかなりはっきりした日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ