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235.第2の魔王 地母神ナンムからの告別 前編

235.第2の魔王 地母神ナンムからの告別 前編


宇宙癌ニクス・タルタロスの星への襲撃によって、陸地の半分が海面に水没している。


そのため海岸までは近く、馬車で1日程度の距離とのことだ。


俺とビビアは同じ馬車に同乗して、目的地へと向かっていた。ナイアとフェンリルは別の馬車に別れて乗っている。


俺がガタゴト揺れる馬車の上で、仮眠を取っていると、顔を青くしたビビアが話しかけてきた。


「お、おい。アリアケ……」


「初級勇者ビビア、どうしたんだ?」


「その呼称はやめろ! 俺は本来、超勇者ビビア様なんだぞ!!」


「呼称になどこだわる必要はないさ。俺など救世主や王などと呼ばれるのが嫌で、頼むから普通に呼び捨てにしてくれと周りに頼んでいるくらいだ。不思議なことに聞いてくれないのだがな」


困ったものだ。


俺の言葉になぜかギリギリと歯ぎしりをする。だが、彼にはもっと大事な聞きたいことがあったのか、その仕草を頭を掻きむしってから止めて、俺に再び青白い表情を向けて口を開いた。


「お、お前もあのナイアもよお、地母神を倒すつもりなんだろう? 今更だけどよお、結構大事じゃねえか。やっぱり、お、俺のことは置いて行った方がいいんじゃねえか? その、あれだ、そう! 切り札としてな!!」


「なるほど、一理あるな。初級とはいえ、勇者の存在が温存されていれば、民たちも安心するだろう」


「だろ!? だろ!?」


「ああ。特にお前は玉座の間で粗相したにも関わらず、ナイアに処刑されなかった、奇跡の人、として風聞が流れているようだ。民にも親しみを持たれているのも大きい。ふ、俺には真似出来ない所業だ。こんな短期間で、民の心に入り込むなんてな」


「誰だそんな噂を流しやがったやつはあああああああ!!!」


激高する。


「ご近所迷惑だろ? 周りに聞こえないようにしておこう。スキル『サイレス』」


これでよし、と。


「話の続きだが、無論、ナイアだ。勇者が現れたと喧伝するためには、そういった親しみやすいエピソードを絡めるのがコツなんだそうだ。多彩な女王だな」


「くそう、くそう。ま、まぁ、知名度が全然ないお前よりはマシかもしれねえな。へへへ、勇者として名が売れてることには変わりねえ……」


「ちなみに俺は勇者を常に補佐し導く救世主のような形で喧伝されているらしい。無論、やめるようには言っているのだがな。やれやれ、大仰すぎるだろう、ということでな」


「てめええええええええええ!!! 俺よりよっぽど良い名の売れ方じゃねえか!!!」


もう一度彼が激高した。ともあれ、


「話を戻すが、お前がさっき言った、地母神と戦うという話だが多分大丈夫だ。いや、大丈夫ではないんだが……」


「はぁ~? 意味が分からねえぞ。俺もお前もナイアに地母神ナンム討伐を依頼されて、てめえは快諾していたじゃねえか」


その言葉に俺は首を横に振る。


「ああ、いちいち説明しなかったがな。討伐について快諾したわけじゃないんだ、あれは」


「はぁ????」


混乱はもっともだな。


「さっきも言ったが、地母神との戦いは既に終わっている。俺の地母神ナンムの……女神ナンムの言葉を聞くのに同行することに同意しただけさ」


「言葉? 何の言葉だよ」


ビビアの問いかけに俺は神妙に頷きながら、


「告別だ」


「こく……べつ?」


疑問を浮かべるビビアに、俺は改めて頷き、


「ああ」


と言って、正確な言葉を選んで答えた。


「地母神ナンムの攻撃は既に終わっていて、人類は敗北している。今更戦闘しようがしまいが、結果は変わらない」


なぜなら、


「神に見捨てられた人類種が『信仰を失う』という結果は変わらないのだからな」


と言ったのだった。


「とはいえ、ナイアが『討伐』という言葉を使った意味は確かめた方がいいかもしれない」


「ナイアの?」


ビビアは首を傾げる。今はそれでいい。


しかるべき時に、俺が道を示そう。


「まぁ、どうなるかはまだ分からん。だが、この戦いはどこかおかしい気がする。第1の魔王を倒して、すぐに第2の魔王が現れた。まるで……」


「まるで、なんだよ」


「倒されることを予定されていたような段取りの良さを感じてな」


その言葉にビビアは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「そりゃてめえ、邪神ニクスの野郎がこざかしい野郎だからだろうがよ。魔王ってのはどんどん代替わりするもんだろう? 確か、人類と魔王を戦わせてマナを回復させるためによ。ありゃ?」


と、ビビアが首をかしげて、


「……の割には、マナは濃密だな。それに、魔王はイルミナ族から出るもんだと思ってたが、神代は違ったてー、ことか?」


フ、と俺は微笑んで、再び仮眠の姿勢に入った。


「初級勇者にしては鋭いな。じき、中級勇者にもなれるだろう。この神代には俺たちが知っている事実と、幾つか矛盾がある。その理由は今のところ分からない」


「初級って言うんじゃねえよ! 超勇者様だっつってんだろーがぁ!?」


そんな怒声はこの馬車の中にだけ、木霊したのである。


まだ何か言っているビビアをよそに、俺は再び夢の世界に入って行った。






「あれが、地母神ナンムか。すさまじいでかさだな」


「ひいいいい、あんなのに勝てる訳ねええ」


戦うわけではないと、昨日言ったばかりだが、ビビアはどうやらとぼけてくれているようだ。この辺りの以心伝心は俺と幼馴染の絆がもたらすものだろう。


さて、まだ1キロは先だというのに、その威容は遠くからでもよく見えた。


伝令兵が伝えた通り、その大きさは1キロ程度。蛇のような頭蓋と、鱗におおわれた体を持つ存在であった。手足には鋭い爪がついている。周囲には何か黒い数千から数万の黒い物体がうごめいていた。


「あの黒いのはなんであろうな?」


「蛇だな」


「遠見のスキルか、便利で良いの!」


「お前も使えそうだがな。あと、ナンム自体は手足を動かしていない。恐らく、あの蛇たちが地母神の下にも無数に存在して、あの巨大な神を運んでいるんだろうなぁ」


「蛇たちの王でもありますからね」


フェンリルが納得したように言った。


「地母神なのに怖すぎだろ!? どうして、あんな神を信仰してやがんだよ、お前らは!?」


ビビアが悲鳴を上げるが、


「あれは大地の災いとしての側面が大いに出ている姿であろう。豊穣や生命を司る以上、飢餓や死をも司るのは無論のこと。邪神の影響であろうな」


淡々とナイアが答えた。


「それではナンム討伐と行くか? 初級勇者パーティーよ!」


「それだが、別に戦う必要はないんじゃないか? 地母神ナンムは既に人を見捨てたのだろう? なら、もう戦いは終わっている」


「そうか? だが、アレがこのまま大地を進み、我が街を蹂躙せんとも限らぬ! ゆえに、冥王的の我的には、人の手によりこの場で討伐すべきであると思うぞ!」


「ナイア様の言う通りだ、アリアケ殿。やられる前にやるのは、戦士の基本だ」


二人はやる気のようだな。


ビビアは……、


「ひいいいいい! あれ全部蛇かよおお! 気持ち悪ぃ! 無理無理無理ぃいいい!」


ふむ。


ダメだこりゃ。


と、そんな風に作戦会議をしていた時、不意に天空から声が降り注いで来た。


『我が仔どもたちよ……』


それは女性の声と、男性の声が入り混じった、不思議な声色だ。


そう、それは地母神ナンムの言葉だったのである。

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