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223.フェンリルさんとビビりビビアと大英雄

223.フェンリルさんとビビりビビアと大英雄




襲撃を受けていたのは小さな村だった。


レッドドラゴンは俺たちのいた現代においてもS級モンスターとして恐れられていた。


ゲシュペント・ドラゴンほどではないが、出現すれば王国軍や傭兵、冒険者に緊急招集がかかるレベルだ。


そして、ビビアがビビり散らかしていたのも無理はなく、それが群れであることもあるが、何よりこの千年前の神代じんだいにおいては、その強さは現代の比ではないことが、俺には分かった。


「ひいいいいい!? 他人のことなんて知るかよ!? に、逃げるんだよう、アリアケええええ」


ビビアはその臆病さから危険を察知しているようだ。


その判断は一般人としてはとても正しい。


ただ、


「お前は下級勇者だろうに。人を助けるのが仕事だろう、行くぞ!」


俺は駆け出しながら言う。


「い、嫌だ! こんな訳の分からない場所で! 時代で! 死にたくない! デリアー、デリア―!!!」


「危機回避能力が高すぎるな。まぁ、悪い事ではない」


俺は微笑みながら、彼の首根っこをむんずと掴む。


≪腕力強化≫


≪スピードアップ≫


「いでええええええええええええ!? 離せ! 離せ! 死にたくない! じにだくないいいいいいいいい!!」


「ふ、俺の手は借りたくない、か。だが遠慮は無用だ、ビビア。今は下級勇者パーティーの賢者アリアケなんだからな。俺の支援の元、存分に戦うといい」


「違う! 俺は死にたくないだけだ! その手をっ……!」


ビビアが叫んでいるうちに、


「ほい、到着したぞ」


言われた通り、手を離す。


「ふんぎあ!?」


「思ったより、破壊されていないな。いや」


俺は遠目にその姿を見る。


「先客がいるようだな」


「ひ、ひいいいい!? レッドドラゴン以外の敵が!? も、もう無理だぁ! デリアー! デリア―!」


「いや、敵ではない」


「へ?」


ビビアは顔についた泥を拭いながら、意外そうな顔をする。


一方の俺は彼方に見える、レッドドラゴンと戦う姿を見て微笑みを浮かべた。


「フェンリルか」


「なっ!?」


俺の言葉にビビアの顔がまたしても引きつる。


そして、


「なにいいいいいいいいいいい!? やっぱり敵じゃねえかあああああああああああああ!?」


そんな絶叫を轟かせたのである。


ああ、なるほど。


俺はポンと手を打つ。


ビビアにとってフェンリルは、呪いの洞窟で生死の境をさまようことになったモンスターであり、その際プララを見捨てて逃げたことによって勇者パーティーの人気の失墜のきっかけとなった相手でもある。


更に、その戦いをきっかけとしてパーティーの要である大聖女アリシアの離脱を招き、ついには王国から聖剣ラングリスを取り上げられるに至った。その挽回のチャンスとしてラススミーの町の近傍にあるエドコック大森林で発生したワイバーン討伐クエスト(Dランク)をも失敗し、しかも森林を全焼させたことで犯罪者予備軍として収監されたのだった。


ん?


「仲間を見捨てて逃げたのも、その後のクエスト失敗も、全部、自業自得なんだよなぁ」


「やめろ! 思い出させるんじゃねえ! また眠れなくなるだろうが!!」


俺の言葉にビビアは耳をふさいで顔をうつむける。


まぁ、ビビアにとってトラウマであろうとも、


「俺にとっては大切な仲間だ」


そう、例え、


「俺の知る姿からは少しばかり小さくとも、な」


遠くでレッドドラゴンと互角以上に戦う少女の姿。


それはローレライくらい……いや、それよりも更に年下の年齢に見える。10歳程度だろうか?


白銀の髪は美しくたなびかせ、鋭くも優雅に空を舞う様に戦う様子は彼女そのもの。


だが、明らかに小さかった。


「ち、小さいだと!? ガキってことか!? な、なら、俺でも勝てるんじゃねえか!?」


パッとビビアの顔に喜色が浮かぶ。


「だから、敵じゃないと言ってるだろうが。それに、敵か仲間の区別はちゃんとつけられた方がいいぞ、ビビア」


俺は肩をすくめつつ、もう一度ビビアの首根っこを掴んでから、彼女の援護へと駆け出したのであった。


離せ! 離しやがれえええええええええ! という絶叫が木霊しているような気がしたが、もう俺は気にも留めなかった。


S級モンスターの群れとの戦闘が、ゼロコンマ数秒後には迫っているのだから。

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