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203.ラグナロク

203.ラグナロク




『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


おぞましいケルベロスの咆哮が響く。


普通の人間ならば、それだけで威圧されて行動を封じられるほどの呪いのかかった叫びだ。


だが、


「≪精神耐性アップ(強)≫」


俺の支援スキルがそれを許さない。


いかなるモンスターであろうとも、俺が支援する以上は、世界最強のパーティーを相手にすることと同義なのだから。


「ゲシュペントドラゴンの二人よ。存分にやれ! ≪決戦≫付与」


『力がっ……!』


『みなぎりますわ! これが先生のっ……!』


二体の黄金竜は、俺の支援を受けて、更に強化される。


スキル≪決戦≫は潜在能力を最大限まで引き出す支援スキル。神の末裔たる彼女らに使うというなら、それは、


「神々の聖戦のようであるのう」


フェンリルが言う。


まさにその通り。俺の支援を受けた竜たちが、3つ首のケルベロスへと襲い掛かる。


「「煉獄の炎(カオス・ブレス)!!」」


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?!?』


空を舞う竜から同時に大地を一掃するほどの灼熱の火炎がまき散らされた。


一体でも強力なゲシュペントドラゴンのブレス。


それを二体同時に、俺の支援スキルを得たドラゴンがするのだから、ケルベロスも苦悶の声を上げざるを得ない。


もちろん、


「やりましたか!?」


「まだまだ。お互い様子見のようなものだ」


「あれでかよ!?」


俺は頷くことで、ソラとフィネに答える。


「倒すにはお前たちの力も必要だ。協力してくれるな?」


「お役に立てますかね!?」


「何か次元の違う戦いをしてるっぽいんだけど!?」


二人は弱気なことを言う。だが、俺は苦笑して、


「ははは。まぁ、普通なら無理かもしれない。だが、お前たちが今、誰とパーティーを組んでいるか思い出してくれよ」


俺は賢者の杖を掲げる。


「そ、そうでしたね」


「先生にとったら、地獄の番犬くらい……」


ああ、と俺は頷き、


「神話に残る程度の戦いなど日常茶飯事だ。そして弟子たちを鍛えることも、勝利させることもな」


そう言いながら、


「≪魔力量アップ≫≪スピードアップ≫≪防御力アップ≫≪回避付与≫≪攻撃力アップ≫≪クリティカル威力アップ≫≪クリティカル率アップ≫≪聖属性付与≫」


支援スキルを行使した。


「せ、聖属性付与!?」


ソラが驚いたように言う。


「それって凄いのか?」


フィネの言葉に、


「そりゃそうですよ! 火や水属性を付与する魔法使いは沢山います。でも、聖属性付与って。それじゃまるで……」


「ああ。お前たちの攻撃は、聖剣ラングリスに匹敵すると思ってくれていい」


「聖剣に!?」


フィネとソラが口をパクパクとして、唖然とする。


「戦闘中だぞ? ≪無敵付与≫」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!


「「きゃっ!?」」


ケルベロスが体から湧き出すような蛇たちに二人を襲わせた。悲鳴が上がるが俺のスキルによって寸前のところで阻まれる。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』


「気を付けろよ。当たれば即死だからな。まぁ、そうはならないようにスキルを……」


「ひええええええええええええええええええええ。こんなところで死んでなるものですか! 喰らえ『セラフィック・トルネード』!!」


「その通りだぜ! なんとしても馬鹿ルギを連れ戻すんだ! 『降魔斬』!!」


「ちょっと、ききすぎたかな?」


俺は≪即死無効≫≪状態異常耐性付与≫をこっそり詠唱する。


二人とも聖属性を与えたことで、特技に神聖力を加えた技へと昇華できている。


ケルベロスはS級の更に上をいく敵だが、俺の支援を受けたこれほどの攻撃を連続で喰らったことで危機感を持ったらしい。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


ひときわ大きな咆哮を叫ぶ。


おそらく、この空中神殿アースガルズのみならず、地上にまで聞こえるほどの地獄の怨嗟えんさだ。


「来るぞえ、お前たち! 主様!」


「≪決戦付与≫≪鉄壁付与≫≪毒耐性付与≫≪無敵貫通≫!」


『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


「これはひどい臭いなのじゃ!」


「フィネ! ソラ! ピノ! 先生! 大丈夫なの!?」


ケルベロスが痺れをきらすようにその3つ首から同時に放出したのは、大量の毒のブレスだ。


それに触れた草木は枯れるどころか腐り落ち、悍ましい異臭が周囲を満たした。


穢れ、呪い、死、怨嗟、地獄。


そんな概念を物質化した毒の猛威に他ならなかった。


まさに、地獄に住まう番犬ケルベロスの奥の手といったところだろう。


しかし、


「待っていたぞえ、その首を同時にたたき落とせるこの時を!!」


『グオッ……! オ……! オ……! オ……!?』


俺のスキルによって、真の姿へと戻ったフェンリルは、浴びれば即死という地獄の猛毒の中を突っ切り、まさに雁首をそろえて間抜けに口を開いていたケルベロスの喉を瞬時に、同時に掻っ捌いたのだった。


ケルベロスは地獄に住まう不死と言われるモンスター。


だが、3つ首を同時に落とされれば、その限りではない。特に、


「主様の≪聖属性≫で、その首と胴体を分かたれたのであればのう」


返り血を浴びたフェンリルが、ころころと転がるケルベロスの頭を見下ろし上機嫌に言った。


「むふふ、同じ地獄の番犬の異名を持つ者同士。ちょっと張り切ってしもうたわい。それに、たまには我もこうして主様のお役に立たんとのう」


「それに孤児たちも待っているしな」


「そうよな。我と旦那様の子も同じよ。早く帰って御守をしてやらんとの」


「?」


俺はちょっと首を傾げてから、母性本能が強いことを思い出して納得する。


俺の支援によって、驚異的な空からの攻撃と地上からの攻撃にさらされたために、ケルベロスは戦略を見誤ってその弱点をさらすことになったわけだ。


と、その時である。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


なんと胴体から離れた3つ首が俺を狙って、動き出したのである。


その頭蓋は大きく、鋭い牙と殺意のみを目に宿している。


「先生!?」


生徒達が驚きの声を上げるが、


「なるほど、さすが番犬だ」


俺は杖をしまいながら、感心して言った。


「命が尽きても、敵の喉笛をかみ切ろうとするか」


俺の目の前。


ほんの1ミリ先で、その3つの頭蓋は動きを止めていた。そして、目からは光が失われている。


なぜなら、


「いやぁ、結構大変なことになっていますねえ。私とのゆったりとした新婚生活はどうなっているんですか?」


「まぁまぁ、アリシアお姉様。それは先生のせいではないかと……。ないですよね?」


アリシア、そしてラッカライが、俺に迫るケルベロスの頭を粉砕していたからである。


そして、最後の3つ目の頭。それも同じく、


「なにごとも諦めが肝心ですよ。これが終わったら思う存分ラブラブするといいのではないでしょうか」


着物姿の女性が、その嫣然とした姿とはまったく似つかわしくない様子で、ケルベロスの頭部を仕留めていたのである。


その返り血を浴びた姿はどこか美しくも感じられる。


そう。


彼女こそ、


「ブリギッテ」


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