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【第4話】

 そうして色々と仕留めていくと、街灯にすら明かりの灯っていない薄暗い中に巨大な建造物が出てきた。



「何ここ、博物館?」


「国立議会所と言います。ご存知ないですか?」


「ああ、知ってる。政治のところだったっけ」



 リヴに言われ、ユーシアは「ああ」と納得したように頷く。


 暗闇の中に溶け込むようにして聳え立つそれは、さながら博物館のような様相をしていた。中央に見えるドーム状の建造物の左右から柱に支えられる回廊が伸び、巨大な施設であることが窺えた。

 確かあれは、ネオ・東京に於ける政治の重要拠点である『国立議会所』だったか。ネオ・東京に首都名が変わったついでに、あの施設の名前も変わったらしい。リヴが言うには「前の名前の時と大差ないですよ」ようだ。確かにどうでもいいかもしれない。


 リヴはその施設めがけて、真っ直ぐに車を走らせる。すでに片側の扉は外れているし、乱暴に運転した影響があるのか車体にガタが来ているような気がする。



「あれが『カゲロウ』の本拠地ですね」


「あんなところに本拠地なんてあるの? その辺のビルじゃないんだ」


「その辺のビルもそうですよ」


「じゃあ具体的にはどこなのよ」


「ここら辺全体です」



 ハンドルを握りしめるリヴの言葉に、ユーシアは首を捻る。


 暗闇に沈む国立ぎ議会所の他、高層ビルはそこかしこにポコポコと生えていた。まるで森林のようである。空を埋め尽くすほど伸びる高層ビルは、さながら枝葉を広げる樹木のようだ。

 ただ、国立議会所の周囲とは離れている。国立議会所の周辺は開けており、周りに乱立するビル群とは距離が開いているのだ。あそこもあのビルも日本国大統領直轄の諜報機関『カゲロウ』の拠点だとすれば、移動の際に目立つのではなかろうか。それなのに、周囲に見える人影はない。


 リヴはバックミラー越しに肩を竦めると、



「想像力が足りないですね、シア先輩は」


「撃つよ」


「眠ったら優しく起こしてくださいね」


「この状況で言うならこれが相応しいかな。死ぬなら1人で死にな」



 自動拳銃の銃口を運転席のリヴに向けるユーシアは、



「答えになってないんだけど、何よ」


「映画とか見ませんか? 地下都市とか色々と」


「ああ」



 それで大体、想像が出来てしまった。


 ユーシアは周囲に改めて視線を巡らせる。

 無人のはずではあるが、遠くからやはり視線はある。立ち並ぶ高層ビル群のそこかしこから視線が容赦なく突き刺さってくるので、おそらく誰かが潜んでいるのだろう。待ち構えている訳ではなく、移動するたびに随時移動して追いかけているのだ。


 見える位置を影のように追いかけてくる訳ではなく、見えない位置を移動しているのか。



「地下で繋がってるの?」


「その通りです。よく出来ました」


「確かにこれは想像力を働かせないと分からないな」



 よくもまあ、地下都市じみた地下通路を作るものである。ファンタジーの世界だけではないのか。

 いや、よく考えれば日本という国は地下鉄が異様に発達していたか。網目状に張り巡らされた路線を覚えるだけでも精一杯だと、日本を旅行してきたかつての古い友人が辟易した様子で主張していたことを思い出す。


 ユーシアはライフルケースから純白の狙撃銃を取り出し、



「降りた途端に撃ってきそう」


「この位置からでは狙えないはずですが、まあ『下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる』と言いますか。当てることさえ出来ればいいのでしょう」


「出来るのかな、下手くそっぽいのに」


「そこら辺のプライドは妙に高いんですよね」



 リヴはゆっくりとハンドルを切り、国立議会所に向かう道路にタクシーの車両を滑り込ませる。その間にも、こちらを狙う銃口は絶えず追いかけてきていた。

 明かりの落とされた国立議会所の付近に、車のヘッドライトの明かりが闇夜を引き裂くように照らす。ライトに照らされる先は綺麗に舗装されたコンクリートの道路がどこまでも伸びており、やはり障害物や当たり屋じみた人物の影さえも見当たらない。


 国立議会所の建物が目の前に迫り、静かなロータリーに差し掛かる。すでに時間帯もあるのか噴水は水を噴き出していないし、周辺も水を打ったように静まり返っている。呼吸音どころか心臓の鼓動さえも耳で拾うことが出来そうだ。



「いますね」


「いるね。こっちが分かっていないとでも思ってるのかな」



 停止したタクシーの中で、ユーシアとリヴは外の世界の気配を探る。


 国立議会所のロータリー付近に、複数人の人の気配を感じ取っていた。視線はこちらに固定されており、一挙手一投足を観察されている。その突き刺すような視線に嫌悪感を覚えた。

 タクシーから降りた瞬間、銃弾の雨嵐を叩き込んでくるつもりなのだろう。下手な動きを見せればマズルフラッシュで居場所が分かってしまうし、銃声の方角からも自分の居場所を判断されてしまう。それが出来る連中だと相手からユーシアとリヴは評価されているのだ。


 ユーシアは純白の狙撃銃の薬室に銃弾を装填し、



「どうする?」


「この暗闇の中です、相手は暗視用のゴーグルでも使用しているでしょうね。使用していないとは考えられないです」



 そう言って、リヴはレインコートの襟ぐりに自分の右手を差し入れる。

 取り出したものは銀色の円筒である。先端はピンで塞がれており、引き抜いて軽い衝撃でも与えれば網膜を焼かんばかりの閃光を撒き散らしながら爆発する、強力なスタングレネードだ。相手が暗視用のゴーグルなど、暗闇での活動を想定した装備を有しているのであれば、スタングレネードはこれ以上なく力を発揮することだろう。


 口にピンを咥えたリヴは、



「準備は」


「1人を仕留めるぐらいならバッチリ」


「十分です」



 リヴはタクシーの運転席の扉を蹴り開ける。


 バゴン、と暗闇の中に轟音が落ちる。跳ねるようにして開けられたタクシーの扉に外の世界で待ち構える敵どもの視線が移動する。

 扉が開かれたと同時にリヴが勢いよく飛び出し、銀色の円筒に突き刺さっていたピンを引き抜いた。キン、という澄んだ音が耳朶に触れる。相手が攻撃をしてくるより先に、リヴの手からスタングレネードが放たれるのが先だった。


 放物線を描くスタングレネード。闇の中に消えていく円筒を視界の隅で見送り、ユーシアはタクシーの後部座席から飛び出す。タクシーの車体に隠れて、スタングレネードの衝撃に備えた。





 ――――ッッッッッッッドン!!





 夜の闇を吹き散らす、明るい白色の閃光が国立議会所のロータリーで瞬く。


 そこかしこから「ぎゃあ」だの「わあ」だの悲鳴が聞こえてきた。眩い閃光の中で浮き彫りになる黒色の仕事着を身につけた影のような人間たちが、自分の目を押さえてのたうち回っていた。

 ユーシアはそれらの醜態を捉え、すぐさま純白の狙撃銃を構える。銃身をタクシーのトランク部分に乗せ、まずは狙いやすそうな手前にいた人物に照準を当てた。


 引き金を引く。





 ――――タァン!!





 細く長い銃声は、悲鳴によって掻き消された。


 銃口から射出された弾丸は、スタングレネードのあまりの眩しさにのたうち回っていた影のような人間の眉間に吸い込まれていく。撃たれた衝撃で身を仰け反らせ、そのまま仰向けで倒れた。

 眉間を撃たれてもなお、傷はつかない。おそらくぐーすかと安らかに眠っていることだろう。


 排莢して新しい銃弾を狙撃銃に装填するも、



「わあ、撃ってきた!!」


「撃ってきましたね」


「呑気に言ってる場合じゃないでしょ!!」



 スタングレネードの衝撃から回復したのか、すぐに機関銃辺りの装備で応戦してくる。雨のような銃弾の群れが襲いかかってきた。


 身を縮めるユーシアの腕を、いつのまにか隣に潜んでいたリヴが引く。レインコートのフードの下で煌めく黒曜石の双眸は、国立議会所に向けられていた。

 この死の雨の中を移動するのだ。無茶や無謀の言葉では通用しない。



「ああもう、しっかりエスコートしてよね!!」


「お任せください。背中は任せます」


「はいはい了解、任されるよ」



 ユーシアは自動拳銃をコートの下から引き抜き、先を行くリヴの背中を追いかける。雨の中で1発も銃弾を擦りもせず、逆にユーシアの撃った弾丸が次々と諜報員を的確に仕留めたので、どちらの銃撃の腕前が上か分かってしまった。

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