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【第10話】

 言いがかりをつけられたも面倒なのでヘルエストのところに戻ると、こちらもすでに戦闘は終わっていた。



「やあ、ラインバーツ少佐殿。無事?」


「まあ、何とかな」



 死体から使える装備はないかと剥ぎ取っていたヘルエストは、物言わぬ死人と化した兵士の1人から弾薬を強奪していた。あの戦車乗りの狂気的な血濡れの虎が、まさかの死体漁りをしているとは驚きである。

 とはいえ、この状況である。物資が限られていると必然的に他人から奪うことさえよしとするのだ。何発か銃弾が当たって死んだらしい兵士は運がなかったと言えよう。


 奪った弾薬を懐にしまい込んだヘルエストは、



「つーか、援軍に来いよ」


「行けなかったんだよ。分断されちゃって、俺とリヴ君でそれぞれ別のネオ・東京軍の軍人に会っちゃってさぁ」



 恨みがましそうに言ってくるヘルエストに、ユーシアは心外なとばかりに返す。


 もちろん、こちらが無事であったとしても助けに入ることはなかっただろう。何せヘルエストがいるのだ、あの血濡れの虎が簡単に負けるとは思えない。実際、今の彼は怪我すらなく五体満足で無駄口を叩けるぐらいには元気なのだから、助けなくても問題はないだろう。

 一介の狙撃手に面倒な仕事を押し付けてこないでほしいものだ。狙撃のご依頼であれば弾薬をまず用意してから言ってほしい。狙撃の弾丸だってユーシアの自己負担である、そんなホイホイと買えない代物なのだ。


 ヘルエストは「へえ」と何でもないような調子で言い、



「で、勝ったンか?」


「勝ってなかったらここに五体満足でいないでしょ。怪我すらないよ」


「そうか、そうだったわ」


「馬鹿なのかな、この脳筋少佐は」



 がはははははと声を上げて大笑いするヘルエストに阿呆なものでも見るかのような視線を寄越すユーシアは、



「ていうか、狙撃手とかいなかったの? 弾薬ほしいんだけど」


「テメェの真っ白いのに普通の弾薬は入るのか?」


「分からないけど、とりあえず一般的なものは使ってるつもりだよ。そんなに大口径用の弾薬じゃなければ」



 ヘルエストは「んー」と首を捻り、



「まあ残念だけど、こっちにゃ狙撃手なんていなかったな。自動拳銃とか機関銃は種類も様々な奴がゴロゴロ出てきたけど」


「そうなんだ。どこにやったの?」


「調合屋のところに預けた。必要だったら取りにいけよ」


「はいはい、了解」



 ヘルエストに適当な調子で応じて、ユーシアはふと足元を見やる。


 足元ではリヴがしゃがみ込み、倒れた兵士の懐を漁っていた。他の戦闘要員の【OD】がやっていることと同じく死体漁りである。そのことに関して特に思うことはない。

 だってユーシアもやっていたことである。殺して奪ってという世界が当たり前になってしまったので、死体から物品を強奪することに何ら抵抗はない。昔のユーシアだったら考えられない行動だが。



「何かいいのはあった?」


「ありました」



 リヴが死体の懐から引っ張り出したのは、スマートフォンである。画面はひび割れているものの電源が入るのでまだ使える様子だ。

 個人情報の塊とも呼べるスマートフォンを発掘したリヴは、機体の下部に取り付けられた窪みに死体の親指を押し付ける。しばらくするとスマートフォンが一瞬だけ震えると、ロックが解除された。どうやら指紋認証だったようだ。


 ポチポチと慣れた手つきでリヴはスマートフォンを操作する。それからとある文章を画面に表示させて、ユーシアの眼前に突き出してきた。



「招集命令?」


「ほら、言ったじゃないですか。ネオ・東京発電所の警備兵が総入れ替えになるって」


「ああ」



 その会話内容に覚えがある。


 ネオ・東京発電所を攻め込もうと提案した際、警備と最新機器の警備システムに対抗することになるので難しいと却下されてしまったのだ。ただ、その時に『近々、警備兵が総入れ替えになる』という情報もまた耳にしていた。

 つまり、この兵士はネオ・東京発電所に配属予定だったのだ。何という僥倖だろうか、この端末は使える。


 ユーシアは周囲を見渡し、



「他に同じような招集命令が出された兵士はいないかな。2人分用意できればいいんだけど」


「最悪、1人分でも構わないかと。僕は【OD】の異能力で身長を縮めれば分かりませんから、シア先輩が偽物の兵士として潜り込んでくれれば」


「ええー?」



 リヴの提案に、ユーシアは難しげな表情を浮かべる。



「俺は知名度があるし、日本語なんか分からないよ。軍隊の中に潜り込むのは無理があるかも」


「今は英語が主流ですよ。それに軍人なんだから頭もいいでしょうし、多少の英語ぐらいは出来てナンボですよ」


「そうかなぁ」



 日本語が堪能ではないユーシアがネオ・東京軍から捻出される発電所の警備兵に潜り込むのは無理があるだろうが、総合的に判断するとユーシアが潜り込んだ方がいいと思えてくる。

 リヴは【OD】の異能力で身長を縮めることが出来るので、潜入するならばユーシアの身体に張り付いていればいいだろう。招集命令が出ている兵士など早々いないのだから、この幸運が何度も起きるとは限らない。ユーシアが交代の警備兵を装った方が早そうである。


 ユーシアは「分かったよ」と肩を竦め、



「一応、その方針でいこうか。念の為、他の兵士も死体を漁って招集命令の通知を探したいところだな」


「了解しました。片っ端から探しましょう」



 招集通知を受け取ったスマートフォンを懐にしまい込んだリヴは、ナイフで死体の親指を切り落とす。スマートフォンのロックを解除するには持ち主の指紋が必要なのだ。

 手際よく次の死体にいそいそと近づいていく相棒の背中を追いかけ、ユーシアは「不安だなぁ」とそっとため息を吐く。日本語がちゃんと話せるか不安である。直前までリヴから手解きを受ける必要がありそうだ。


 ――ちなみにこのあと、運よく次の死体も招集命令のメールを受信したスマートフォンを所持していたので、リヴも潜入メンバーに加わることとなった。ユーシアの英語を翻訳してくれる人手を無事に確保である。

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