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【第10話】

 充実した食料品フロアから、高級そうな瓶詰めのゼリーセットを持ち出すことに成功した。



「運ばれてくる食料品を魔都に奪われる割にはいいものを食べてるよね」


「それ温《ぬる》くないですか?」


「温い」



 味見としてパックのゼリーを啜るユーシアは、リヴの質問に対して簡潔に答えた。


 魔都で待つネアへのお土産なのだから美味しいもの以外は認めない。ネオ・東京の食料品がどんなものかと試しにパックに詰め込まれたゼリーを啜ってみたら意外と美味しかった。果物の味も存分に感じられていい。

 ただ、やはり常温で置かれていた影響で温く感じる。これはしっかり冷やした方が味も濃いめで美味しいだろう。これはこれで悪くはないと思うが。



「ネアちゃんも気に入るかな」


「そうですか」


「リヴ君の分もあるから冷やしとくね」


「ありがとうございます」



 ゼリーのお味に関してはまるで興味がないのか、リヴの受け答えも素っ気ないような気がしてならない。「どうでもいいや」と言わんばかりの反応である。



「もしかしておねむ?」


「味に関する品質はさすが日本と呼ぶべきですかね。食に妥協を許さないのが伝わってきますよ」



 リヴは「見てください」と暗闇に沈むショーケースを懐中電灯で照らす。


 ショーケースに並んでいる商品はすっからかんだが、値段だけは残された状態になっていた。リヴが示したのはその値段である。

 20ドルや30ドルに匹敵する値段がそこに並んでいた。どこを見ても20ドルから30ドル、もう少し値段が釣り上がるなら50ドル前後だろうか。立派な商品を置いてある商業ビルなのだからそれぐらいはしてもいいだろう。



「あれ、昔は7ドル前後で買えましたよ」


「え、本当に? 安くない?」


「高くなったなと思いますよ。ネオ・東京でも貧富の格差が起きているかもしれませんね」



 これほど高級品と成り果ててしまったのは、やはりネオ・東京に運び込まれる前に食料品が【OD】たちに取られてしまうからだろう。貨幣価値のない魔都は物々交換やら何やらが商売として成立しているが、貨幣制度がまだ生きているネオ・東京はそうもいかない。必然的に稼ぐ金持ちだけが生き残れる寸法だ。

 どれほど働いてネオ・東京に貢献したとしても、物価がこれでは働く意味もなくなる。それならいっそ治安の悪い魔都にでも追い出された方がのびのびと生活できるかもしれない。可哀想なことだ。


 ユーシアは「ふーん」と言い、



「ネオ・東京の人が可哀想?」


「いえ全然。滅べばいいんじゃないですかね」



 リヴは特に気にした様子もなく、平然とそんなことを宣った。いつも通りの相棒である。センチメンタルな空気など、こんな真っ黒てるてる坊主野郎には似合わないのだ。



「ただこんな高いだけのものを買う連中の気が知れないだけですよ」


「何だ、ネオ・東京の人たちを憐んでいるのかと思ってたよ」


「憐んでますよ。こんな高えだけのものしか選択肢にないなんて可哀想って」



 リヴは「まあ」と言葉を続け、



「君主として降臨する日本国大統領をぶっ殺したあとは気になりますね。どうなるんでしょう、混乱しますかね」


「そりゃ混乱するでしょ。だって国家元首だもの」


「楽しみですねぇ、有象無象がわたわたと右に左に大慌てで移動する様を高みの見物がしたいです。絶対に面白いですよ」


「リヴ君らしいや。性格の悪さが」



 悪党らしく性格の悪さを垣間見せるリヴに、ユーシアは軽い調子で笑い飛ばす。それでこそ、ユーシアが見てきたリヴ・オーリオという人間だ。


 さて、目当てのものを持ち出したのであれば長居する必要はない。とっとと魔都に帰らなければ、今度は【OD】を嗅ぎつけるドラム缶のような機械の群れがお出ましになる。あれと対峙するのだけは二度とごめんだ。

 電気の供給が止まったエスカレーターを階段の代わりにし、ユーシアとリヴは地上のフロアに戻ってくる。明かりの途絶えた真っ暗なフロアを、懐中電灯で照らしながら進む。


 ――のだが、何故か赤いランプがチカチカと明滅するドラム缶のような機械がたくさんいた。ユーシアとリヴの存在を嗅ぎ付けたようである。



「…………」


「…………」



 絶望的な状況で黙りこくるユーシアとリヴを発見したドラム缶の兵器どもは、一斉に電子音を奏でさせて叫ぶ。



『【OD】を発見しました』


『異常な【DOF】の数値を確認しました』


『排除』


『排除』


『排除』



 ドラム缶みたいな寸胴体型の胴体部分から、軽機関銃を2丁ほど突き出してくる。たかが2丁の軽機関銃だとしても、兵器の総数はかなり多い。この状況で弾丸をぶっ放されれば、ユーシアとリヴの命がない。

 加えて、ここは室内である。屋外とは違って逃げ道が限られている。銃弾の雨嵐を避け切る自信がない。


 死を察知したユーシアとリヴは、



「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬってええええ!?!!」


「本当にクソだなこの街、とっとと滅びやがれください」


「そんなこと言ってないで逃げるよリヴ君!!」



 ドラム缶型の兵器が銃弾をぶっ放してくる前に、ユーシアとリヴは全速力で魔都を目指して逃げ帰るのだった。

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