【第7話】
戦利品の確認である。
「凄いね。なかなかだよ、これ」
「しばらく生きていけそうですね」
持ち込んだトラックに詰め込まれた食料品の段ボール箱を確認しながら、ユーシアとリヴはその量に感心する。
運び込まれた段ボール箱にはレトルト食品やお菓子などが詰め込まれており、小さめの籠には生鮮食品や鮮魚などが詰め込まれていた。食材が多岐に渡るのでしばらく食事には困らないだろう。
中には調味料や嗜好品として酒などがトラックの荷台に積まれており、大人たちも満足のいく結果だった。どうやら今回は食料品や嗜好品が多かったようだ。他の消耗品を確保するのはまだ先になりそうである。
段ボール箱に詰め込まれたお菓子の袋を手にしたユーシアは、
「リヴ君、これ何て書いてあるの? 輪っか髭のおじさんが凄く笑顔で頬張ってるから美味しそうなんだけど」
「どれですか?」
リヴはユーシアの手元に握られたお菓子の袋に視線を落とす。
ユーシアが手にしたお菓子の袋は、緑色の袋に何やら立派な口髭をこさえたおじさんの絵が描かれたものだった。おじさんが満面の笑みでスナック菓子を頬張っているものだから「このお菓子はそれほど美味しいのかな?」と感じてしまう。
ただ残念なことに、お菓子の文字は日本語だった。ユーシアは日本語が堪能ではないのでリヴの翻訳が必要である。能書きも日本語で構成されているので読むことが出来ない。
「ああ、くるりんぱですね」
「くるりんぱ? 可愛い名前だね」
「美味しいですよ、それ。近年では西日本でしか販売されなくなってしまった幻のスナック菓子です」
「え、本当?」
ユーシアはリヴの説明に瞳を瞬かせる。
地域限定や期間限定の食べ物に弱いのは万国共通だろうか。ユーシアも例外に漏れず地域限定や期間限定の食べ物には何故か惹かれてしまうのだ。【DOF】に手を出して闇堕ちする以前からずっと期間限定のお菓子や食べ物などは自然と手を出してしまったぐらいである。
お菓子に使われた写真は、軽そうな見た目のスナック菓子である。細長いスナック菓子が捻じられた形が特徴的となっている。
「食べてみてもいいかな、これ。地域限定とか目がないんだよね」
「珍しいですね、シア先輩。食べ物には特に興味ないかと思いましたが」
「期間限定とか地域限定とか、地元飯とかそういうのは好きなんだよね」
「生卵かけご飯は?」
「論外」
ユーシアはお菓子の袋を開封する。
鼻孔をくすぐるコンソメの香りが食欲をそそる。細長いスナック菓子が捻じられた特殊な形のお菓子に、調味料の粉みたいなものがまぶしてあった。捻じられた形をしているのは調味料の粉が簡単に落ちないようにする為だろうか。
螺旋を描くお菓子を口の中に放り込むと、軽い口当たりと濃いめに付着したコンソメの味が絶妙に合致していて美味しい。いくらでも食べられてしまいそうなお菓子だ。自然とスナック菓子の袋に手を伸ばしてしまい、完食まであっという間だ。
ぽりぽりさくさくとお菓子を堪能するユーシアに、リヴが「見てください!!」と興奮気味に体当たりをしてくる。
「何よ、どうしたの?」
「『えんじぇぅ☆ちっぷす』があったんです、しかも大量に!!」
「ああ、お前さんが好きなアニメの」
リヴが突き出してきたお菓子の袋には、可愛らしい女の子たちが集合したイラストが使われていた。いかにも自称紳士のリヴが好きそうな見た目の女の子たちで、ピンク色の髪や青色の髪など現実ではありえない髪色をしている。大きな瞳には星まで散っているのだが、後頭部を殴られたから星が目の中を散るということではないだろうか。
全体的にメルヘンチックな袋には、銀色の小さな袋が貼り付けられていた。袋の大きさはカードを収納できる程度のもので、表面には漢字が書き込まれているので分からない。よくある『お菓子を買うとおまけでカードがついてくるもの』だろうか。
ユーシアはスナック菓子の袋に貼り付けられた銀色の袋を指差し、
「お前さんの目的はそれ?」
「はい!!」
「いいお返事」
リヴは早速とばかりに銀色の袋をスナック菓子の袋から引き剥がす。慣れた手つきで銀色の袋を開封すると、中身のカードを引っ張り出した。
そのカードに描かれていたのは、水色の髪をした少女である。猫のような吊り目が特徴的で、カードを引き当てたリヴに向かってウインクまで決めていた。フリフリと戦闘装束は現実的に見れば戦いにくそうだが、少女からすれば迷彩柄の戦闘服よりも強くなれるドレスなのだろう。
その少女を引き当てたリヴは、膝から崩れ落ちるなり叫んだ。
「お前じゃない!!」
「外れ?」
「推しではないですがッ、でもここで捨てるのはあれですね。ファンではありませんね。まだ1枚目ですので歓迎しますとも」
リヴは「さあ2枚目!!」とまた別のスナック菓子のおまけの袋を開封作業に移ってしまう。お菓子は食べないらしい。
まあ、そういうのもあるだろう。ユーシアも幼い頃はおまけ目当てでお菓子を買って、肝心のお菓子は余らせて養父に怒られたことがある。気持ちは分からないでもないので、あとでお菓子は何かに有効活用しようかと頭の片隅で考える。
すると、
『がっでむ!!』
「何か発音がおかしくない?」
「思わず日本語っぽいイントネーションで叫んでしまいました。ちくしょうめが」
唐突にリヴがおかしなイントネーションで叫び始めたので、ユーシアは「何よ」と眉根を寄せる。
リヴが銀色の袋から引っ張り出したカードをユーシアに見せてきた。先程、リヴが引き当てたカードと同じ少女が描かれたカードがそこにあった。どうやら2枚目を引き当ててしまったらしい。
そういえば、リヴはこういうものの引きがかなり弱い印象である。本人曰く「物欲センサーが働くんですよ」と言っていたが、よく分からないことを怒り気味に言われたので、どう反応すればいいのか。
すると、
『その気持ち、大いに分かるよ……』
『当たらないよな、そういうの』
『俺もそれ何百枚も引いたんだ……お菓子ばっかり食ったらこんな腹に……』
落ち込むリヴの肩を、何やら同情と慈愛の眼差しに満ちた瞳で見つめて叩いてくる【OD】の仲間たちがいた。日本語で喋っているのでユーシアには理解できないのだが、どうやらリヴに仲間意識を持っているようである。
そして、リヴもまた仲間意識を持ちつつあるようだった。同じ境遇にぶち当たった人間は意外にも多いようである、それも凝り出したら止まらない日本人同士なら尚更だ。
リヴは寄ってきた【OD】たちの手を掴むと、
『やはりそうですよね、物欲センサーが発揮されて目当てのものが出ずに』
『出るまで剥けば実質手に入りますぞ』
『気合いを入れましょう、我々も手伝います』
『全員でやれば推しも出てきましょうぞ。ちなみに推しはやはり主人公ちゃんですかな?』
『そういやエンジェル☆ビューティーが2枚目でしたな。拙者の推しなので1枚交換していただきたく』
どうやら知らないうちに同盟が出来たようである。リヴが他人と仲良くするなど珍しいものだ。
早々にスナック菓子を食べ終えてしまったユーシアは、開けっ放しになっている段ボール箱を見やる。リヴの言うスナック菓子はまだ手付かずのまま放置されていて、おまけのカードも開封されていない状態で置かれている。
カードの内容に興味はないが、ネアへのお土産ぐらいにはなるだろうか。彼女もまた『恋して☆えんじぇぅ』のアニメを熱心に見ているので、喜んでくれるに違いない。
ユーシアが適当な袋を手にすると、
「何してんだ、死神ィ」
「何だ、ラインバーツ少佐か。ボスから帰って来いって?」
「おうよ、帰投命令が出たぞ」
今まで拠点に控えているボスのトキナリと連絡をしていたヘルエストが、ユーシアの手にしたピンク色のスナック菓子の袋に視線を落として「んん?」と首を捻る。
「お前の趣味か?」
「うちの相棒とお姫様が好きなんだよね、これ。おまけのカードをお土産代わりに出来るかなって」
そう言って、ユーシアはお菓子の袋に貼り付けられた銀色の袋を引き剥がす。少しばかり開けにくいが悪戦苦闘しながらもようやく小さな袋を開けることに成功した。
開けた袋からは何やらキラキラに加工されたカードが出てきた。スナック菓子の袋の真ん中に描かれた主人公らしき少女のカードだが、ちょっと衣装も豪華になっているような気がする。レアカードだろうか、その価値がユーシアには分からない。
ユーシアは同じように銀色の袋を開封して落ち込むリヴの肩を叩き、
「リヴ君、これどの程度の価値がある? ネアちゃんのお土産にしたらいいかな?」
「…………」
カードを見せられたリヴはあんぐりと口を開けていた。しばらく動きを止めていた彼は、次の瞬間、ユーシアの腕にしがみついてくる。
「このカードッ、どこで!?」
「いや、普通にお前さんがやってるようにおまけのカードを開封してみただけだけど」
「何だと……ッ!?」
リヴが天を振り仰いでしまったので、ユーシアは結局のところカードの価値が分からずに終わった。
ちなみにリヴから「この中から適当に選んで3つぐらい開封してください」と言われたので適当に選んで開封してみたら、3袋共にキラキラに加工されたカードが引き当てられてまた悲鳴が上がった。うるさい。




