≪23≫ 竜皇の影
朝がたくさんの光りと鳥の歌声を連れてやってきた。
愛しい人を腕に抱いている喜びをディシュルは全身で感じている。
まだ彼女を手元に置いていたかったが、もうそろそろ時間だろう。
アシュガにキスをしながら、彼女を起こす。
少し開いたままの唇が動いた。
「おはよう、ディシュ」
紫根の瞳が艶めいて幸せそうだ。
「おはよう、アシュ、可愛い僕の妻」麗人はアシュガの体中を抱きしめ擦りながら
「朝、君を部屋に帰すのも今回が最後だね。明日からは僕の胸の中でもっと長く寝ていれるよ」と甘く囁いた。
「明日が待ち遠しい」とアシュガは麗人の胸に顔を寄せる。
「夫婦の部屋を用意させないとね。家具選びとか一緒にしよう」とディシュルは浮かれて
「書斎と訓練ルームはいるだろ。あ、僕は王様になったらすぐに飛びたって行けるように、夫婦の部屋には竜の寝床を併設させたいんだ。いいかな?」と聞く。実に真剣だ。
「もちろん。私も一緒に連れて行ってくれるなら」とアシュガは笑った。
「アシュはどんな部屋が欲しい?」と麗人はアシュガの顔を撫でなからきく。
アシュガは少し照れながら、ディシュルにそっとお願いをした。
麗人も少し照れながら
「可愛いアシュ・・」と返事をする。
「確か竜皇の部屋もそうだな・・ベッドにいるときに思ったよ」
麗人はついポロりとそんな事を言うものだから
「竜皇の部屋で寝たことがあるの?」
アシュガは不快を隠さない。
麗人は慌てて違う違うと言いながら
「僕がモンテローザで倒れた時に竜皇に誘拐されたって話したよね?それで・・」
金色の髪をサラサラ揺らし顔を上げて、弱った顔をすると
「彼のベッドで気がついたら、何故か裸にされていたのを思い出したのさ。きっと看病の為だと思う。意識が戻ったら、すぐにガウンを着せてもらって。」
「竜皇に?」鋭い紫根の矢が刺さる。
「しょうがないよ、裸ではいれないし、抵抗なんてできないだろ?」
ディシュルは彼女の太股を押さえていた。
竜皇は本当に嫌な奴だと、まだ見ぬ人にアシュガは憤る。
「竜皇ってどんな人?」アシュガは憎らしい相手に興味を持った。
ええ、と一瞬ディシュルは言葉に詰まったが観念したらしく
「黒髪に金色の瞳が竜皇本来のお姿なのだが、神力を使われるとき以外は呪われた印しの赤目でね。本当はすごく顔立ちの整われた美しい方なのかもしれないが、まあ呪われた当人と言う表現がピッタリかな?いつも陰気な雰囲気を漂わせ、頬はげっそりと顔色悪く、目をギラギラ光らせている感じで、まるで魔導師のようだよ」と怪しげな動作を交えて、たぶん竜皇の真似なのであろう、説明をした。
「あとプレゼントのセンスがすごく悪いんだ。僕が去年、モンテローザに行く前なんか、ギウロコトカゲの燻製串焼きを持ってこられた、あれは最悪だったね」とディシュルが言うと
「ギウロコトカゲの燻製串焼き!」とアシュガは悲鳴にちかい声をあげた。
姉の料理で唯一食べれなかった、本当に恐ろしい一品だ。
「よく知ってるね、アシュガ。あれは血に保護がもらえる最高級食材らしいけど、あんなの食べるくらいなら喜んで死ぬよ」とディシュルは本当に辛そうだ。
「それをあの愚かな竜皇は泣きながら無理やり食べさせようとしたんだ。僕が吐くのも構わずに止めないんだ。泣きながら頼む食べてくれと、なんで竜皇が泣くと思う?泣きたいのは僕さ」と今思い出しても怒りが押さえられないのだろう、ディシュルの口調は強い。
「え、えええ」アシュガは想像できない地獄絵図を思う。
「僕は卒倒して、竜皇は王子に手をかけた容疑でそのまま追放。竜皇だからその程度の罰で済んだ。命拾いしたんだよ」青い目に影ができる
「それでも懲りずに、去年、蒼光院へ向かう途中、僕がモンテローザの館で呼吸困難に陥った時に、竜皇は好機とみて押し掛けてきたんだ。おおかた王城より警備が手薄になるのを知っていた。そして何を思ったのか竜に乗せて僕を誘拐した。」
「ゆ、誘拐!!」アシュガの思う以上に竜皇はディシュルにご執心だったのか!
「ま、結果的にそれで僕は命拾いしたのかもしない。竜皇の館で息を吹き返した。でも後が大変だったね。激怒した蒼光院とサントゥアーリオの人間が、僕を竜王から奪還した後、竜皇自身を暗殺しに行ったとまことしやかな噂が出たくらいさ。」と麗人は言った。
「何でそれほどまでにディシュルを?」とアシュガは聞いた。
「もともと未成人がお好きなんだろ。僕の他にもビアンカローザの未成人をたくさん館に招待しているときいた。何でも竜の卵をたくさんの未成人に産み付けたいらしい・・」
二人の顔は否応なしに歪んだ。
「最低な方ね。でも、そうであれはディシュに固守つする必要なんてないわ?」
ディシュルは肩を少し上げて
「たぶん魔女の呪いを解く鍵がサークラにあると信じておありなのさ。サークラと交わりができたら呪いが解けると本気で信じているようだった。竜の卵すら産み付けできないのに!そう思うと可愛そうな方ではある。いつも訪ねてこられると、自分の肩を指さして、今日はドラコが見れる?とかドラコの声は聞こえる?とか尋ねられてね。
竜の魂は御当人しか見れないし聞こえないと何度も何度も説明したのに。ああ、まるで端からみると狂人だったよ」とそこまで言って麗人は
「アシュは心配しなくていいからね。竜皇はもうこの城へ来ることはできないし、僕は必ず君を守るから!」
それに、ニヤリとして
「僕達の指の模様を見たら、賭けよう、間違いなく竜皇は卒倒するね。それだけは見てみたい」ディシュルは愉快に金色の髪をサラサラと揺らして笑った。
そうこうするうちに、予想外の時間にディシュルの部屋のベルが鳴った。
二人は目を合わせた。
アシュガが部屋へ戻る時間にも少し余裕がある。
「何事か?」ディシュルが答えると、扉越しに
「時間外の訪問をお許しください。王様が今すぐお二人にお会いしたいとのことで」
ディシュルが従者を中にいれる。
天蓋の幕からでも恐縮した雰囲気が伝わった。
「何故王様がお呼びになる?しかも時間外に?」
ディシュルはすぐさま尋ねた。
「はい、本来であれば昨日のディシュル王子の竜の初総統の話をお聞きになられまして、お褒めの言葉をとお呼びになると思われましたが・・」まわりくどく言葉に詰まる従者
「結論から聞こうか?」とディシュル。
「はい、王様は竜の指輪の件もお聞きになりまして、まさか使用するとは思っておらず・・」
「それで?」ディシュルは苛立ちを隠さない
「非常にお怒りのご様子です。とりあえず直ぐに王様のお部屋にくるようにとのご命令です。」従者は深々と頭を下げた。
「わかった。直ぐに行こう」ディシュルは落ち着いていた。
アシュガは緊張が止まらない。
「アシュ、少し部屋で待っていて」と優しく麗人が言うのに対し
「大変申し訳ありません。アシュガ様も一緒に連れてくるようにと・・」従者はまた深々と頭を下げた。
肩を上げため息混じりに麗人は
「ならば直ぐに仕度を」と従者に指示を出した。




