≪24≫ 竜皇と魔女の企み
王の間以外の場所で、初めてアシュガは王様をみた。
部屋は上品で落ち着いた雰囲気ではあるが、高価な品々に囲まれているのは一目でわかる。
冠をのせていらっしゃらない王様は、金色よりも白髪が目立ち、以前お会いした時より年齢を感じさせた。
豪華な椅子に座り頭を抱えていた王様は、アシュガ達が部屋へ入るや否や、直ぐに左手を確認して
「おお、なんということ」と驚き、声を震わせられた。
「ディシュルよ、そなたはこの指輪がどんな物であるか存じておろう」王様はディシュルの肩に手をのせ、まるで懇願しているようだ。
「もちろん存じております。王様。」
ディシュルは真っ直ぐ前を見据えていた。
「祝福の白い薔薇をこの王城へ持ち帰ったあかつきには、アシュガとの結婚をお認めくださると約束していただいた。」
アシュガは目を丸くした。
ディシュルからその話を初めて聞いたからだ。
「勿論、覚えている。お渡りを成し、婚約と順を踏めば許すとした。だが、」
王様は若きサークラ達の指の模様を見る
「ならば、本日お渡りは達しました。対外的に何も問題はないはずです」ディシュルは一歩も退かない。
「結婚の義に反対しているのではない。その指輪を使用したことを問題としている。」王様の青い瞳が揺れる
「竜皇はまだサークラにご執心であると推察されるに、ディシュルよ、あの竜皇のことだ、モンテローザ誘拐の如く、指輪をしたそなたらに何を仕出かすか想像もできない。」王様の顔から血の気が引いた。
「何を仰りたいのかわかりません。それはアシュガと結婚しても同じでしょう?竜皇はきっと何かしてきます。」ディシュルはとうに覚悟をしているようだ。
「違う。もし指輪の模様がありながら、竜の卵でも産み付けられたら如何する?腹を破られるのも指輪の竜に噛み殺されるのも、貴重なサークラが犠牲になるのに変わりはない。」王様はディシュルを諭すように言った。
「竜皇はわたくしに竜の卵は産み付けられなかった。アシュガには指一本触れさせません」ディシュルはもはや怒りを隠そうとはしていない。
「あの狂人から如何して守るのだ?今まで音沙汰なく、大人しくしているのが不思議なほどよ。」
しかし、と王様は声を強くし
「最近、竜皇は赤目の若い魔女を夜伽においたと聞く。狂気の沙汰。きっと何かを仕組んでいる。」
ディシュルの顔色ががわる。
「まさか、よりによって魔女を?竜皇ほど魔女を恨んでいる人なんていないはすだ!正気を失った?世を滅ぼす気か!」
ディシュルの叫びにアシュガは今さら気がつく。
ああそうか、赤目の魔女とは世を滅ぼす元兇として忌み嫌われていたのだ。
竜皇にとって魔女は一番憎い存在だ。
普通の人ですら魔女に近こうとは思わない。
王様は威厳に満ちた口調で、
「竜皇はアシュガの存在に気づく頃であろう。何としても新たなサークラに卵を産み付け、自信の呪いを解こうと必死になる、魔女を仕込ませたのは先んずその為よ。指輪のリスクを犯しても挑んで来るやもしれん。一人失敗しても次がいるなら、大胆にもなろう」と言った。
「まさか、この期に及んで王城に攻めいる気ですか?」
ディシュルは怒りで震えている。
王様はアシュガとディシュルの手を握り
「密かに内通させたものによると、ディシュルとのお渡りがないのが相当不満で、欲求を満たすために魔術で何をしているのか、若い魔女を慰み者と使っておいでだそうだ。」
と声を潜めて話された。
「魔術まで使い、下品な方だ・・」
ディシュルの綺麗な顔が歪む
慰み者の魔女・・姉とは正反対の魔術を使うのだろう。
アシュガは息をのみ漠然とその魔女を思う。
「ディシュルよ、そなたは白薔薇を持ち帰り、竜まで総統させ、もはや竜皇よりも魔女の呪いに打ち勝つと民衆から支持されようとしている。大事なそなたを失うわけにはいかん。」
そして王様はアシュガを見て
「そなたも白薔薇を復活させた大事なサークラである。二人の白薔薇は今も美しく王座を彩っている。しかし・・」アシュガの手を再度握り
「今の竜皇の狙いはアシュガであろう。特に隠さねばならん。王城と言えど警護のないとこには行かせられん。二人とも行動にはよくよく注意せよ。いつ竜の牙に遭遇するか、誰もわからん」と指示を出された。
そこへ突然部屋のベルが鳴る、騎士が飛び込んできた。
息を整える隙もなく
「王様、失礼いたします。濃紺の髪に、赤目の、魔女です。凄まじい魔力です!こちらに、竜に乗り、ものすごいスピードで向かってきます!マ、マダラ竜なのにです!」と声を発した。
「なんと!」王様も周りも驚いて
「竜皇の魔女か!」とディシュルは臨戦態勢だ。
「それが、魔術拡声で、叫んでおられます。」
周囲が固唾をのむ。
「アシュ!アシュを返せ!と」騎士は息も絶え絶えに言い切ると跪いた。
アシュガの顔色がかわる。
人々が一気に動きだし
「アシュガを隠せ!」
「竜皇の仕業だな!」
「魔堂の魔女を呼べ!」
「騎士団へ行くぞ!」
周りの慌ただしさを遠くに聞きながら、アシュガは叫びに近い声をだした。
「待って!待ってください!」と言って
「濃紺の髪の赤目・・わ、私の姉、きっと姉です!生き別れた姉のマガです!」と言って倒れ込んだ。
「アシュ!」すぐにディシュルに抱きしめられたのは覚えている。
しかし、しかし何故?
アシュガの胸は痛んだ。
お姉ちゃんが竜皇の夜伽の魔女?
竜皇のお慰み者なんて!!




