≪21≫ 竜の総統
2人は一緒に朝食を済ませると、ディシュルの誘いで蒼光竜騎士団の訓練所へ向かう。
「訓練所?」とアシュガが尋ねると
「そう。リヴァイに乗せてあげる」と麗人はアシュガの頬にキスをした。今朝からずっと気分が高い。
「すごい!蒼光竜に乗せてくれるの!」アシュガもずっと高揚している。
「竜はね乗り手を選ぶけど、ファルコに乗れたなら、きっと大丈夫だと思う。」ディシュルはアシュガの手をしっかり握っていた。
「お待ちしておりました、ディシュル王子、アシュガさま」
訓練所に着くと、すぐに案内が用意されていて、ドラゴンの巣がある庭まで連れていってくれる。
庭といっても山々が見える壮大な土地だ。
2人の周りには一気に人が増えた。
今回、一緒に空を飛ぶ御付きの騎士達、2人のサークラを見ようと蒼光の騎士達やドラゴンの飼育係、騎士団宿屋の関係者、またまた噂を聞いた野次馬まで集まってきた。
「こんなに人を呼んだ覚えはないが」とディシュルは従者に訴えたが
「申し訳ありません。ディシュルさまは今やこの国の英雄でございます。また今回はアシュガ様が初めて竜にお乗りになりますので、どの竜に乗り手として選ばれるのか、人々の興味をそそるのでしょう」と、周りの熱気をおさめる事ができない様子だ。
ディシュルは諦めたようで、アシュガを見て優雅に笑う。
「アシュ、遠くの竜を呼ぶ時はねこの笛を吹くんだ」と言って、ディシュルは慣れた手つきで笛を鳴らした。片手でアシュガの手を握りしめたまま。
ディシュルの笛の音を聴きながら、アシュガは麗人の手の温もりに酔う、彼の血が体中駆け巡るのを感じて、心地よかった。
舞踏会で竜に乗せてもらった時も、こんな心地よさだった。
「おお」と周囲にどよめきがおこる。
ディシュルも驚いて笛を吹くのをやめた。
「信じられない」と麗人が囁くのを聞く。
見ると、蒼竜、緑竜、斑竜と、たくさんの竜が2人の前に降りたった。
「これは、すごい」
「ディシュル王子の笛の音で・・」
周りはさらに熱気が増している。
すると一番前にいる蒼い竜が2人に向かい、頭を下げて地にひれ伏した。
「おお!」
「なんと!蒼光竜じゃないか!」
「あれは、リヴァイ様が!」
「竜の群れの中で一番に!」
周りにいた騎士達も一斉にひれ伏した。
つられて周りの人達もひれ伏す。
「アシュ、リヴァイは君を認めた。リヴァイだけではなく、他の竜も・・」
ディシュルは青い目を丸くしたまま、信じられない光景をみている。
「リヴァイの背に乗ろう」と言ってアシュガを前へ押し出す。
「アシュはリヴァイの顔に体を預けて」とディシュルはリヴァイの顔を撫でながら教えてくれた。
「リヴァイ、来てくれてありがとう」とアシュガはその大きな顔に体を預ける。
リヴァイはフグフグと鳴き、すうっと息を吸ったかと思うと、優しく上下にアシュガを揺らし、空高くポーンと跳ね上げた。
「きゃー」2回目でもやはり恐い。
「ははは」とディシュルが笑い、リヴァイに飛び乗ると、一気にアシュガ目掛けて空へ飛び立った。
地にいた竜は一斉に顔を空に突き上げて鳴いた。
割れんばかりの大歓声だ!
あとから人々も興奮して口々に歓声を上げる!
「ディシュル王子万歳!万歳!」
「竜の王となる方だ!」
「みたか、竜がみんなひれ伏した」
「初めてみた!思わずワシもお辞儀をしたさ!」
「すごい!竜の大歓声なんて初めて聞いた!」
「濃紺のサークラ様も万歳!」
地上は熱気に包まれ遠くに見えるリヴァイに向かって止みそうにない。
後々まで語り継がれることになる、ディシュル王子の竜の初総統である。
「すごい、すごい!もう人が見えなくなった」アシュガは興奮していた。
ファルコに乗せてもらった時よりも、リヴァイの方が血に合うらしい。
リヴァイもぐんぐんスピードを上げ、気持ち良さそうだ。
「アシュ、君はすごい」とディシュルはまだ目を丸くしている。
「きちんと訓練を受けたら騎士長になれるよ」とその目には尊敬の眼差しが混じる。
「私は騎士になれないよ」とアシュガは笑う。
「じぁさ、アシュ。騎士長の妻はどうだい?」ディシュルはアシュガの手を取った。
「え?」アシュガは濃紺の髪を揺らしながら、麗人を見る。
「それと王妃になるのはどうだろう?」
気がつけば、青い瞳が近くで微笑みかけていた。
「愛しているよ、アシュ。結婚して欲しい」ディシュルはアシュガに甘い口づけをした。
「返事を聞かせて」青い瞳が光っている。
「ディシュ、すごく嬉しい」アシュガの紫根の目から涙が伝い
「ディシュ、愛している。生涯あなただけ。」アシュガの涙は空へと流れた。
どちらともなく固く抱き合い、お互いの鼓動を感じる。
2人はお互いに夢中で全く気がつかなかったが、リヴァイは血が沸き立つと空に大きな円を描いていた。
「僕はね、プロポーズは竜の上でするって決めていたんだ。リヴァイに乗れるとは嬉しい誤算だったが。」
麗人の顔は上気していてにこやかだ。
「そして、これ」とアシュガに小さな箱を渡す。
「これは・・」アシュガの顔も上気していた。箱の中身は金色のペアリングだ。
「昨日言っていた、プレゼント。本当に山の用な書類にサインをしたよ。でも今日渡せた方が良かったね」ふふ、と麗人は笑って
「少し特殊な指輪なんだ。アシュガから僕にはめてくれる?」と聞いてきた。
アシュガは少し照れながら指輪をディシュルにはめた。
すると金色の指輪から黒い光がバチバチと光だした。
「くっ」とディシュルの顔が痛みに歪む
「で、ディシュ!!」アシュガは驚いて指輪を外そうとしたら
「ダメだよ、アシュ」と止められた。
さらにディシュルの白い指に黒い光は竜の形を模し、付根から指先までバチバチと渡っていく。
「んん」と痛みでディシュルが唸る
最後は指の血管が跳ね上がったと思うように膨れて竜が指を咥えて噛みきるようだ。
「ディシュ!」アシュガはディシュルに抱きついていた。
痛みで息が荒くなっていた麗人は、呼吸を整えて
「この竜の指輪は、僕の大祖父様が戦いで手柄を立てた時に、当時の竜皇様からいただいたものなのさ。」ディシュルの左手薬指には黒い竜が巻き付いたかのような模様ができていた。
「指輪は血に入り模様だけが残る、誰も奪えない」
ディシュルは嬉しそうにその模様を眺めて
「これはね契りの誓いの印し。指輪をはめたもの以外と性行為をすれば、相手もろとも竜に食いちぎられてしまう代物さ」
ケロりと言いきった。
アシュガはガバッと顔を上げ、驚いてディシュルを見上げる。
ディシュルはアシュガにも指の模様を見せながら、
「アシュはこの指輪をしなくてもいいんだ。僕の気持ちを君に見せたかっただけ」とにこやかに言う。
アシュガは顔が赤くなった。
自分が悪魔とも契約してもよいと思う程、焦がれていた事が現実になるなんて!
すぐさまアシュガも麗人に左手を差し出した。
「アシュ?」驚くディシュル
「私もディシュだけの妻にして欲しい」
アシュガはこれ以上ないくらい、耳まで赤くしながら言った。
ディシュルは思わずアシュガを強く抱きしめて
「本当に?本当に、していいの?」と聞いてきた。
「今すぐして欲しい」アシュガは即答する
「結構ね、痛いよ」と麗人は心配そうだ。
「全然構わない!お願い!私も欲しい!」とアシュガは左手をディシュルの胸にあてる。
青い瞳は期待に満ちた眼差しで、アシュガの手を取ると指輪をはめた。
そして強くきつく抱きしめてアシュガに熱い口づけする。
アシュガは指の痛さに体を捩っても、ディシュルの熱い口づけと包容に酔っていて、全く恐くなかった。
リヴァイは更にもう一度、大きな円を描いてみせた。
空はどこまでも続き果てしない。
2人は寄り添いながら指に飾られた竜の模様を重ね合わせ、幸せそうに眺めている。
リヴァイのあまりのスピードに御付きの竜騎士達がやっと追い付いた。
地上ではリヴァイが大きな円を描く度に大きな歓声が起きていた。




