≪20≫ すれ違いの果てに
辺りは暗く静まりかえる。
夜の女神のゆったりとした外套に包まれたかのようだ。
アシュガはベッドの上で膝を抱えていた。
お渡りの時間はとっくに過ぎていた。
体は鉛のように重たい。
まだディシュルの部屋に行くか迷っていた。
いや嘘だ、きっと自分は最終的に行くだろう。
ディシュル無しで長い夜に耐えられる自信はない。
いつからそんな風になってしまったのだろう?
ディシュルがいないと不安で仕方がない。
だけど、だけど本当に体は不安で動かない。
それに、こんなに遅れて行ってもディシュルは部屋に入れてくれるだろうか?
アシュガは膝を抱えて悶々としていた。
その時、勢いよく扉が開く音がした。
騒がしい物音と一緒に人が駆けてくる。
真っ直ぐにアシュガのベッドへ向かい乱暴に天蓋の幕が上がった。
「ディシュル!」アシュガは驚いて声をあげた。
そこには艶々な唇を歪ませ歯をくいしばり、息を切らせて、乱れた金色の髪と、涙で濡れた青い瞳、白い綺麗な肌は震えている、全裸のディシュルがいた。
「アシュ、酷いね」麗人は無理に笑顔になって
「今夜、来てくれたら、40日なのに」震えながらゆっくりアシュガに近づいてくる。
「そんなに、僕のこと、嫌いになった?僕は、たくさんの娘達を、侍らせて、き、汚ないかな?」とアシュガに手を伸ばそうとした時
「ディシュル!」アシュガは麗人の胸に飛び込んでいた。
「ディシュルのことを嫌いなる?どうしてそんなことを簡単に考えられるの?」アシュガは強く麗人を抱きしめる。
「嫌いになんて一生なれない。なれないから、こんなに苦しんでいるんだよ。気がついてよ!」アシュガの目には涙が溢れていた。
「ディシュルが汚ない?バカにしてるの?私はディシュルほど美しい人をみたことがない」と言ってディシュルの顔を両手で挟み優しく撫でる。
「娘達だって竜皇だって、ディシュルを汚せる人間なんていない、みんな、みんな」
アシュガは震え声を押さえながら
「美しい薔薇を独り占めしたいんだよ」と自分の手に包まれた愛しい人の唇にキスをした。
青い瞳は驚きを隠せない、言葉を失っていた。
「ディシュ、私もあなたを独り占めしたい、だから、鎖で繋いでよ。今朝言っていたように」アシュガは甘えるように麗人の胸に顔を擦り付け
「ディシュルに繋いで欲しい、絶対に切れない鎖で、ディシュルに繋いで欲しい」と言って麗人におねだりしながら、甘い口づけを繰り返した。
「あ、アシュガ」為されるがままのディシュルの体は震えが止まらない。
「もうダメかと思ってた。アシュガに愛想を尽かされさって。でも、もうどうすればアシュガなしで朝を迎えればよいかわからなくなったんだ。」ディシュルはアシュガを強く抱きしめなおした。
「アシュ、もう本当にだめ。自分は狂ってしまったと思う。君なしじゃ、生きていけない」今度は紫根の瞳が驚きを隠せない、言葉を失っている。
「愛しているんだ」
ディシュルは甘い口づけをした。唇は小さく震えていた。
「ふふ、どうして驚くの?前から言ってる、僕の全てをあげるって」と青い瞳はキラキラと輝く。
「過去は変えられないけど、僕の未来は全て君ひとりのものだよ。僕の心と体と一緒に全て捧げる」ディシュルはそう言ってアシュガの手を自分の心臓に充てた。
「君がつけた薔薇の鎖はもう心臓に絡まってとれそうにない」
2人はしばらく熱く見つめあった。
どちらともなく笑いあって甘い口づけを繰り返す。
するとディシュルがアシュガに凭れかかった。
「ああ、力が抜けちゃった」と言う麗人をアシュガは優しく抱きしめ背中を擦る。
ディシュルはすごく気持ちが良さそうだ。
「アシュ、愛してる」
ディシュルはそのままアシュガを押し倒した。
昨日まで見ていた世界と、全く別の世界に来たみたいだ。
朝陽が降り注いで鳥がいつものように鳴いている、白く綺麗な腕に抱きしめられて、全てが心地よい。
アシュガは金色の髪を優しく撫で、ディシュルの綺麗な長い睫毛を愛しむ。ディシュルの寝顔を見たのはモンテローザにいた時くらいだろう。
しかし、こんな幸せそうな寝顔は初めてみた。
顔にかかる金色の髪をあげ、アシュガは麗人の寝顔を見続ける。
きっと1日中みても見飽きることはないだろう。
たまにディシュルの腕に優しくキスをしながら、アシュガはそのなかなか見れない美しい寝顔を堪能していた。
「アシュ、もうそろそろ目を開けていい?」とディシュルが言うからビックリしてしまう。
ゆっくりと開いた青い瞳は照れながら
「そんなに見つめられたら、目を閉じていてもわかるよ」
赤くなったアシュガをさらに引き寄せて
「おはよう、アシュ」と甘いキスをした。
アシュガはこれ以上ないくらいの幸せを感じていた。
サンタローザ様にお願いしたくらいだ。
時を止めてくださいと。
「嫌だよ!ナイトガウンだけ貸して!」
ディシュルは言うことをきかない。
「ナイトガウンだけなんて、胸があきすぎるよ!廊下は以外に長いんだから!少しぐらい我慢して私のネグリジェ着なさいよ!」
アシュガは手にしているネグリジェを無理やり着させようとする
「やめて!本当に嫌だ!女ものなんて着たくない!」
ディシュルはすぐに彼女を振りほどく
「ディシュルが裸で来ちゃうからでしょ!子供じゃないんだし!言うこときいて!」
アシュガは怒りだしたが
「昨夜、アシュがお渡りしないのがいけない!」と言って、麗人はそそくさとナイトガウンを羽織り扉までスタスタ歩き出した。
「あ、ディシュ!」アシュガも追いかけて
「今夜は必ず行くから」と振り向いたディシュルにキスをした。
ディシュルは青い瞳をパチクリさせて、そのまま止まっていたが
「うん。必ずきて。照明が消えたらすぐに。」と言ってアシュガに熱いキスを何度もする。
「すぐに行く」とキスに酔いながらアシュガは返事をする。
ガバッと腕を伸ばしていきなり身をはがした麗人は、顔を赤くしながら
「待ってる。いや、そんなに待てないかも。早く来てくれないと、今度こそ死んでしまうから」
ディシュルの吸い込まれるような青い瞳に見つめられて
「ああ」と体が痺れて、アシュガは床に座り込みそうになる。
ディシュルは少し震えて、悪戯な視線を送り部屋を出て行った。




