↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/40

8話

 その記号が、どうしても気になった。


 私は朝から、第7話で見つけた葬儀記録を開いていた。


 ページの端にある、小さな印。


 別紙を示しているように見える。


「どこにあるんだろう」


 私は記録室の索引を調べた。


 古い記録は、内容ごとに番号が振られている。


 葬儀。


 埋葬。


 関係者。


 私は一つずつ確認した。


「……これかな」


 記号と同じ番号があった。


 私は棚から薄い記録を取り出した。


 中には、王女が生まれたころの関係者の名前が並んでいた。


 侍女。


 医師。


 乳母。


 使用人。


 その中に、一人の名前があった。


「ローザ・ミラー」


 侍女。


 王女の身の回りを担当していたらしい。


 私は記録を読む。


 王女が生まれた日。


 その翌日。


 数日後。


 ローザの名前が何度も出てくる。


「ずっと側にいたんだ」


 王女を担当する侍女なら、当然なのかもしれない。


 でも、その後だった。


 王女が亡くなったとされる日を境に、記録が急に少なくなる。


 そして。


「……退職?」


 ローザの最後の記録があった。


 王宮を退職。


 帰郷。


 それだけだった。


「どこへ?」


 私は続きの記録を探した。


 帰郷先。


 住所。


 家族。


 何もない。


「変なの」


 帰る場所があるなら、普通は何か書かれている。


 私は別の帳簿を開いた。


 侍女の退職記録。


 他の人のものを確認する。


 名前。


 退職日。


 理由。


 帰郷先。


 だいたい書いてある。


 ローザだけが違った。


「どうして……」


 私はローザの名前をもう一度見た。


 そのとき。


「何を見ているのですか?」


 聞き覚えのある声がした。


 私は顔を上げた。


 エドガーだった。


「ローザ・ミラーという侍女の記録です」


 エドガーは一瞬だけ黙った。


「ローザ……」


「ご存じなんですか?」


「当時の侍女です」


「王女様を担当していたみたいです」


「そうですね」


 返事が早かった。


 私は少し気になった。


「王女様が亡くなったあと、退職したんですよね?」


「記録上は、そうなっています」


「帰郷した場所が書いてありません」


「古い記録ですから」


「でも、他の人にはあります」


 エドガーは記録を見る。


「そういうこともあります」


「ローザさんは、どこへ帰ったんでしょう」


「私には分かりません」


「本当に?」


 口にしてから、少し強く聞きすぎたと思った。


 エドガーは怒らなかった。


「リナさん」


「はい」


「昔の使用人のことを調べても、分からないことはあります」


「そうですね」


「記録が残っていないのなら、なおさらです」


「……はい」


 エドガーは記録を閉じた。


「もう十分でしょう」


「どうしてですか?」


「王女殿下が亡くなったのは、十五年前です」


「分かっています」


「当時の人間の多くは、もう王宮にはいません」


 そう言って、エドガーは記録を戻した。


 私は黙って見ていた。


 ローザ。


 王女のすぐ側にいた侍女。


 王女が亡くなったあと、退職。


 帰郷。


 でも、帰った場所は分からない。


「……気になる」


 私は小さく呟いた。


 その日の午後。


 私はもう一度、ローザの記録を探した。


 今度は別の記録だ。


 給与。


 勤務。


 退職。


 人事。


 何冊も確認する。


 やはり、最後は同じだった。


 王女の死から、そう遠くない日。


 ローザは王宮を離れた。


 そして、その後の記録がない。


「帰郷したなら、どこかに続きがあるはず」


 私は記録を見つめた。


 でも、ない。


 名前だけが途中で消えている。


 私は思った。


 これは、退職したというより。


「……記録から消えたみたい」


 もちろん、それだけで何かがあったとは言えない。


 十五年前のことだ。


 記録が失われることだってある。


 それでも。


 私はローザの名前を紙に書き写した。


 明日、もう少し調べよう。


 王女様が亡くなったあと。


 ローザ・ミラーに、何があったのか。


 それを知りたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。