7話
王女の葬儀記録を、私は何度も読み返した。
やっぱり短い。
日付。
場所。
埋葬。
それだけだった。
「……王女様なのに」
私は記録を閉じた。
普通なら、もっと残っているはずだ。
そう思った私は、別の記録を探した。
十五年前より少し前。
王族の葬儀記録。
一冊見つける。
開いてみる。
「やっぱり違う」
参列者。
儀礼。
警備。
献花。
葬儀を担当した者の名前まである。
王族が亡くなれば、それだけ多くの人が動く。
記録も多くなる。
私はもう一度、王女の記録を見る。
何もない。
「どうして……?」
王女なのに。
赤ん坊だったからだろうか。
それだけで、こんなに簡単になるのだろうか。
私は別の記録を探した。
王族の子どもについて書かれたもの。
やはり、葬儀には一定の手順がある。
私は椅子に座った。
考える。
記録には、王女が亡くなったと書かれている。
そして、埋葬されたとも書かれている。
でも。
「誰が、そこにいたんだろう」
ふと、そんな疑問が浮かんだ。
私は埋葬場所の記録を確認した。
王族の墓所。
そこに埋葬されたことになっている。
場所は分かる。
日付も分かる。
でも、そこに誰が立ち会ったのかは分からない。
「……まただ」
死亡記録と同じだった。
必要なことは書いてある。
でも、確認するための名前がない。
私は記録を見つめた。
そのとき。
「まだ調べていますか」
声がした。
顔を上げる。
エドガーだった。
「はい」
「王女殿下の葬儀記録ですね」
「どうして分かったんですか?」
「その記録を持っていますから」
「そうでしたね」
私は記録を机に置いた。
「聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「王女様の葬儀って、これだけだったんですか?」
エドガーは記録を見る。
「当時は事情がありました」
「どんな事情ですか?」
「王宮内が混乱していた時期です」
「王女様が亡くなったからですか?」
「それもあります」
それだけだった。
「でも、他の王族の記録には、もっといろいろ書いてあります」
「よく調べましたね」
「気になったので」
エドガーは少し黙った。
「赤子の葬儀ですから」
「赤ちゃんだから、簡単だった?」
「そういうこともあります」
「普通なんでしょうか」
「何をもって普通とするかは難しいですね」
また、はっきりしない。
私はエドガーを見る。
「埋葬には、誰が立ち会ったんですか?」
「記録にありませんか?」
「ありません」
「ならば、分かりません」
「エドガーさんも?」
「私は当時、葬儀を担当していません」
「では、誰が担当したんですか?」
エドガーは答えなかった。
しばらくして、記録を閉じる。
「古いことです」
「はい」
「調べても、分からないことのほうが多いでしょう」
「そうかもしれません」
私は記録を受け取った。
エドガーはそのまま去っていった。
私はもう一度、ページを開いた。
最後の欄を見る。
小さな記号がついていた。
「……何だろう」
私は指でなぞった。
記録の端に、小さく書かれている。
別紙を参照するための印らしい。
「別紙?」
私は記録の束をめくった。
前。
後ろ。
何度確認しても、それらしい紙はない。
「ない……」
最初からなかったのか。
誰かが持ち出したのか。
分からない。
でも。
死亡記録にも、葬儀記録にも。
何かが抜けている。
私は記録を閉じた。
「この葬儀には、記録に残っていない何かがある」
そう思った。
そして私は、もう一度だけ記録の端にある小さな印を見た。




