6話
朝一番。
私は記録室へ向かった。
昨日見つけたものが、頭から離れなかった。
ノルデン村。
十五年前。
乳児用の品。
王宮から向かった女性。
そして、王女の死亡記録。
「もう一度、見てみよう」
私は昨日と同じ記録を出してもらった。
王女の名前。
生年月日。
両親の名前。
死亡日。
そこまでは変わらない。
私は死亡日の欄を指でなぞった。
「……時間」
昨日は気にしていなかった。
死亡した時刻が書かれている。
その下には、記録を処理した日付もある。
私は二つの日付を見比べた。
「おかしい」
死亡した日の記録と、正式に処理された記録。
時間が近すぎる。
私は係の人に尋ねた。
「この記録は、亡くなったあとすぐに作られたんですか?」
「さあ……古いものですから」
「作った人は分かりますか?」
「最後に署名がありますね」
私は記録の最後を見た。
そこには名前があった。
エドガー・ヴァレン。
「……エドガーさん」
昨日も会った。
あの人が、この記録を処理した。
私は記録を閉じかけて、手を止めた。
「すみません」
「はい?」
「この記録を作ったとき、王女様の状態を確認した人の名前はありますか?」
係の人は記録を見た。
「……ありませんね」
「やっぱり」
死亡したことは書かれている。
でも。
誰が確認したのかは書かれていない。
私は昨日も、そこが気になった。
今日は、もっと気になった。
「エドガーさんに聞いてみます」
「今ですか?」
「はい」
私は記録を持ったまま、記録室の奥へ向かった。
しばらくして、エドガーが現れた。
「リナさん」
「少し聞きたいことがあります」
「何でしょう」
私は記録を机に置いた。
「この記録ですが」
「はい」
「エドガーさんが処理したんですよね?」
「そうです」
答えは早かった。
「王女様が亡くなったことを、エドガーさん自身が確認したんですか?」
エドガーは黙った。
ほんの少し。
それだけだった。
「当時は、多くの者が動いていました」
「はい」
「私は記録の処理を担当しました」
「確認は?」
「……必要な報告を受けています」
答えになっているようで、なっていない。
私は記録を見る。
「この記録には、確認した人の名前がありません」
「古い記録ですから」
「でも、死亡したことは書いてあります」
「はい」
「誰が確認したか分からないのに?」
エドガーは私を見た。
「リナさん」
「はい」
「記録は、すべてを書き残すものではありません」
「そうなんですか?」
「必要なことだけを残します」
「では、確認した人の名前は必要なかった?」
「当時は、そう判断されたのでしょう」
穏やかな口調だった。
でも。
私は納得できなかった。
「分かりました」
私は記録を閉じた。
エドガーが手を伸ばす。
「こちらで預かります」
「はい」
記録を渡す。
エドガーはそれを閉じた。
私はその手元を見ていた。
十五年前の記録。
王女の死。
ノルデン村。
乳児用の品。
全部が、同じ年にある。
偶然なのだろうか。
「リナさん」
「はい?」
「ノルデン村のことは、もう調べないほうがいい」
私は顔を上げた。
「どうしてですか?」
「理由はありません」
「理由がないのに?」
「古い記録です」
「でも、昨日もそう言いましたよね」
エドガーは少しだけ笑った。
「そうでしたね」
それ以上は何も言わなかった。
私は記録室を出た。
廊下を歩きながら考える。
やっぱり、変だ。
王女が亡くなった。
それなら、誰かが確認したはずだ。
なのに、その名前がない。
そして、記録を処理した人は、そのことをはっきり説明しない。
「……もっと調べよう」
私は足を止めた。
ノルデン村へ行くのは、そのあとでいい。
まず、十五年前に何があったのか。
もう少しだけ確認したい。
私は別の棚を探した。
王女の葬儀に関する記録。
しばらく探して、古い帳簿を見つけた。
「これかな」
ページを開く。
王女の名前があった。
私は読み進める。
葬儀の日。
場所。
参列者。
そして――
「……これだけ?」
記録は、驚くほど簡素だった。
王女が亡くなった。
葬儀が行われた。
それだけ。
私はページをめくった。
何もない。
もう一度、最初から読む。
やっぱり同じだった。
王女様が亡くなったなら。
どうして、こんなに簡素なんだろう。
私は帳簿を閉じた。
十五年前の記録には、まだ何か隠れている気がした。




