32話
「その証書を、どこで見つけたのですか」
王妃エレノアは、私の懐を見ていた。
「姿見の裏です」
「……そうですか」
王妃は目を伏せた。
やはり知っている。
「王妃様は、この証書をご存じだったのですか?」
「はい」
迷いのない返事だった。
私は息を止めた。
「では、あの隠し場所も?」
「知っていました」
やっぱり。
けれど、まだ分からない。
なぜ王妃が隠したのか。
なぜ、エドガーがそれを消そうとしているのか。
「文書官長は、この証書を消そうとしています」
「……ええ」
「ご存じだったんですね」
「知っています」
王妃の声は静かだった。
「文書官長は、証書だけを探しているわけではありません」
私は王妃を見る。
「セシリアも探しています」
その名前を口にした瞬間だった。
王妃の表情が変わった。
ほんのわずかだった。
けれど、私は見逃さなかった。
「どうして、その名前を?」
「文書官長が口にしました」
王妃は黙った。
「私は、あの子が王女だと考えています」
王妃は何も言わない。
「村で会いました」
それでも黙っている。
「十五歳です。十五年前に、赤ん坊を連れてきた女性がいました」
王妃の指が、膝の上でわずかに動いた。
「セシリアは、自分が何者なのか知りません」
私は一歩近づいた。
「王妃様」
「……はい」
「セシリアは、生きていますか?」
長い沈黙があった。
王妃は私から目をそらさなかった。
やがて、静かに答えた。
「はい」
その一言で、胸の奥が重くなった。
知っていた。
王妃は、十五年前から。
私はこれまで見つけてきたものを思い出した。
血痕。
あの紙。
十五年前という文字。
消えた侍女。
遠い村。
そして、セシリア。
全部がつながっていく。
「王妃様は……」
声が少し震えた。
「最初から、セシリアが生きていることを知っていたんですね」
「はい」
「では、なぜですか?」
王妃は答えなかった。
「なぜ、王女が死んだことになっているんですか?」
沈黙。
やがて王妃は、ゆっくりと立ち上がった。
「リナ」
「はい」
「あなたには、話さなければなりません」
王妃は窓の外へ目を向けた。
「十五年前のことを」
その声には、今まで聞いたことのない重さがあった。




