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29話

証書を持ったまま、私は王妃の私室を出た。


廊下を歩きながら、頭の中で何度も同じことを考えていた。


あの証書に書かれていた名前。


そして、古い紋章。


私は記録室へ向かった。


「古い王家の記録を見たいんですが」


記録係の男が顔を上げる。


「どの時代ですか?」


「今のアルヴェイン家より前です」


男の表情が少し変わった。


「ローゼンフェルト家ですか?」


「……その名前です」


記録係は棚から古い記録を取り出した。


「扱いには気をつけてください。古いものですから」


「分かりました」


私は机に記録を広げた。


ローゼンフェルト。


その名前を見た瞬間、証書の文字とつながった。


やはり同じだ。


証書に書かれていた旧王家の名前は、ローゼンフェルト家だった。


私は現在の王家について書かれた記録も開いた。


そこには、こうある。


ローゼンフェルト家は反逆を起こし、王位を失った。


その後、アルヴェイン家が国をまとめ、王位を継いだ。


私は眉を寄せた。


「……反逆」


証書には、そんなことは書かれていない。


むしろ逆だった。


旧王家の王太子は、正統な後継者として認められていた。


複数の貴族が署名している。


王家の印もある。


なら。


「どうして、歴史が違うの?」


私は別の記録を探した。


古いものほど、紙が傷んでいる。


文字も読みにくい。


それでも、いくつかの記録を並べていくと、少しずつ見えてきた。


ローゼンフェルト家の王太子がいた。


その人物が正式な後継者として認められていた。


そして、その後にアルヴェイン家が王位についた。


その間に何があったのか。


そこだけが、妙に薄かった。


「ここだけ……ない」


重要な時期の記録が、ほとんど残っていない。


削られたようにも見える。


私は証書を思い出した。


正統な後継者を示す証書。


それが表に出れば、今の王家の歴史と食い違う。


だから隠されたのだろうか。


けれど。


「誰が?」


答えは出ない。


私はさらに古い系譜を開いた。


王家だけではなく、有力貴族の家系まで記されたものだ。


ページをめくっていく。


そして、一つの名前で手が止まった。


エレノア。


現在の王妃。


その母方の家系をたどる。


さらに、その前へ。


ローゼンフェルト家につながる名前があった。


「……王妃様も?」


私は息を止めた。


王妃エレノアは、旧王家の血を引いている。


それなら。


なぜ、王妃はあの証書を隠していたのだろう。


旧王家の正統性を証明するものを。


現在の王家の歴史を揺るがしかねないものを。


私は証書を見つめた。


ふと、十五年前のことが頭をよぎる。


死んだはずの王女。


ローザ。


ノルデン村。


そして、王妃の私室に隠されていた証書。


「……全部、別々じゃない」


まだ、理由は分からない。


けれど。


十五年前に王女が死んだこと。


ローザが赤ん坊を連れて村へ行ったこと。


そして、王妃が旧王家の血を引いていること。


これらを偶然だと思うほうが難しくなっていた。


そのとき。


「その証書を、どこで見つけましたか?」


背後から声がした。


私は振り返った。


そこに、エドガーが立っていた。


「……文書官長」


エドガーは私の手元を見る。


証書を見ている。


その表情から、いつもの穏やかさが消えていた。


「リナさん」


静かな声だった。


「それを、どこで見つけたのですか?」


私は答えなかった。


エドガーも、しばらく何も言わなかった。


ただ。


その視線だけが、証書から離れなかった。

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