25話
記録室を出たあとも、エドガーの言葉が頭から離れなかった。
『ノルデン村についても、です』
なぜ、知っている。
私は誰にも、村へ行ったことを話していない。
マルタには話した。
けれど、文書官長がそれを知っている理由までは分からない。
私は足を止めた。
「……調べてみよう」
向かったのは、古い記録を保管している棚だった。
十五年前の記録。
ノルデン村。
村そのものに関する資料は多くない。
人口。
税。
農地。
王宮からの物資。
私は一冊ずつ確認していった。
しばらくして、妙なものを見つけた。
「……これ」
最近、閲覧された記録だった。
貸し出しの札が挟まっている。
閲覧者の欄には、名前があった。
エドガー・ヴァレン。
私は札を見つめた。
「やっぱり……」
偶然ではない。
エドガーもノルデン村を調べている。
私は別の棚を探した。
今度は、王宮から地方へ送られる照会文書の控え。
その中にも、ノルデン村の名前があった。
日付は最近。
内容は簡単なものだった。
人口と戸籍の確認。
ただ、それだけ。
「何を確認したいの……?」
私は紙を戻した。
けれど、そこで終わらなかった。
もう一枚。
ノルデン村の家々を記した古い名簿の写し。
その一部だけが、棚から抜かれている。
「……ない」
必要な部分だけがない。
誰かが持ち出したのだろう。
私はしばらく、その空いた場所を見つめた。
頭の中に、村で見たものが浮かぶ。
ベル家。
セシリア。
あの少女を見ていた男。
王都から来たらしい馬車。
そして、エドガー。
「まさか……」
エドガーは、村を調べている。
でも。
村そのものを知りたいだけなら、戸籍や家の名簿まで必要だろうか。
私は考え直した。
違う。
探している。
誰かを。
その考えにたどり着いた瞬間、背中が冷たくなった。
セシリア。
私は無意識に、彼女の名前を口にしていた。
「……セシリア」
明るく笑う顔。
何も知らずに暮らしている少女。
王宮とは無関係だと思っている。
私が真実を伝えるべきか迷っている間にも、別の誰かが彼女を探している。
私は唇を噛んだ。
今までの私は、何が起きたのかを知りたかった。
十五年前に何があったのか。
なぜ王女は死んだことになったのか。
なぜローザの名前は消されたのか。
その答えを追ってきた。
けれど。
もし、その答えを追うことでセシリアが危険になるなら。
話は変わる。
「……先に守らないと」
真実を伝えるのは、そのあとでもいい。
私は記録を閉じた。
エドガーがどこまで知っているのか。
何を探しているのか。
それを確認しなければならない。
そして、できるだけ早くノルデン村へ戻る。
私は棚の前を離れた。
そのときだった。
廊下の向こうから、足音が聞こえた。
私は反射的に振り返った。
誰もいない。
けれど。
記録室の扉は、さっきまで閉まっていたはずなのに。
ほんの少しだけ、開いていた。
私は扉を見つめた。
そして、思った。
エドガーさんは、私が調べていることを知っている。
なら。
私が何を知ったのかも、探しているのかもしれない。
その中にはきっと――セシリアのことも含まれている。




