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21話

王宮へ戻った私は、まっすぐ記録室へ向かった。


「またローザの記録かい?」


マルタさんが呆れたように言った。


「はい」


「昨日も見ただろう」


「気になるところがあるんです」


私は机の上に古い台帳を置いた。


ローザ・ミラー。


名前は残っている。


けれど、その後が不自然だった。


退職。


それだけ。


理由もない。


故郷もない。


住所もない。


「この記録、本当にこれだけですか?」


「私が見た限りではね」


マルタさんは台帳をめくった。


「でも、ローザは王女様付きの侍女だったんだろう? もっと記録があってもおかしくない」


「そう思います」


私は別の台帳を開いた。


勤務表。


そのさらに横に、当時の外出記録がある。


指で日付を追う。


十五年前。


王女が亡くなった直後。


そこで、手が止まった。


「……これ」


「どうした?」


ローザの名前の横に、小さく記されていた。


――外出。


期間は短い。


一日ではない。


数日。


「行き先は?」


「書いてないね」


マルタさんが眉を寄せる。


「当時の外出記録なら、普通は行き先を書くはずだよ」


「そうなんですか?」


「少なくとも、王宮の仕事で出るならね」


私は別の記録を取り出した。


十五年前の物資記録。


ノルデン村。


赤ん坊用の布。


粉乳。


薬。


時期は、ほぼ同じだった。


胸がざわついた。


偶然だろうか。


私は日付をもう一度確認する。


同じだった。


「マルタさん」


「何だい?」


「ローザが外出した日と、この物資が送られた日は近いです」


「……」


マルタさんも記録を見る。


「確かに」


「ローザは、この村へ行ったんじゃないでしょうか」


「分からないよ」


「はい」


まだ分からない。


でも。


可能性は高くなった。


私はさらに記録をめくった。


すると。


別の日付で、ローザの名前があった。


「……戻ってきています」


「何?」


「王宮へ」


マルタさんが身を乗り出した。


「外出の記録だけじゃない。戻った記録もあります」


ローザは村へ行った。


そして。


帰ってきた。


私はその二つの日付を並べて見る。


王宮。


ノルデン村。


王宮。


その間に、赤ん坊がいる。


セシリア。


私は息を吐いた。


「やっぱり……」


「まだ決めつけちゃいけないよ」


「分かっています」


そう答えた。


でも、私の中ではもう一本の線になっていた。


十五年前。


王女が死んだ。


その直後にローザが王宮を出た。


同じ頃、ノルデン村へ赤ん坊用の物資が送られた。


そしてローザは戻ってきた。


私は戻った日の記録を調べた。


通常の勤務に戻っただけ。


そう見える。


けれど。


一つだけ、気になる記録があった。


「これ……」


ローザが戻った翌日。


王妃付きの侍女名簿に、短い空白がある。


そこには、誰が誰を訪ねたかまでは書かれていない。


ただ。


王妃の私室へ入った者として、ローザの名前が残っていた。


「王妃様の部屋……」


思わず呟く。


マルタさんは何も言わなかった。


私は記録を見つめた。


ローザは村へ行った。


赤ん坊を連れて。


そして王宮へ戻った。


その後。


王妃の部屋へ入っている。


何を話したのだろう。


何を報告したのだろう。


私はそこで手を止めた。


「あの子は、生きている」


あの部屋に残されていた紙。


今まで、その言葉が誰のものなのか分からなかった。


でも。


もしローザが王宮へ戻った理由が、赤ん坊のことを報告するためだったなら。


あの言葉を書いた人間も、同じことを知っていたのかもしれない。


「リナ」


マルタさんが呼んだ。


「はい」


「これ以上調べるなら、気をつけな」


「……はい」


「記録を消した人間がいるなら、知られたくない理由がある」


私は台帳を閉じた。


その通りだと思う。


ローザの名前は消されかけていた。


なのに。


十五年前の足跡だけが、いくつか残っている。


王宮から村へ。


村から王宮へ。


そして、王妃の私室へ。


私はもう一度、日付を確認した。


「ローザは……誰に報告したんだろう」


答えは、まだない。


でも。


次に調べる場所は決まった。


王妃の周辺だ。


私は台帳を抱え直した。


十五年前。


ローザが最後に王妃へ何を伝えたのか。


それを確かめなければならない。


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