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17話

古い記録を開いたとき、最初に目に入ったのは、自分の署名だった。


十五年前。


王女セシリアの死亡記録。


私はしばらく、その紙から目を離せなかった。


「……まだ残っていたか」


当然のことだ。


王族の死亡記録が簡単に廃棄されるはずはない。


問題は、その中身だった。


私は一枚ずつ書類をめくった。


死亡時刻。


医師の報告。


記録処理の日時。


そして、私の署名。


どれも形式上は問題ない。


けれど。


「……形式上、か」


小さく呟いた。


十五年前も、私はそう思った。


必要な書類が揃っていた。


上から正式な報告が届いた。


だから私は、それを記録にした。


私は記録を処理した。


それだけだった。


ふと、手が止まる。


遺体を見たか。


私は記憶を探った。


王女の部屋。


人の出入り。


慌ただしい侍従たち。


医師から渡された報告書。


そして、私の仕事。


書類を受け取り、確認し、記録を残した。


そこまでは覚えている。


だが。


「……私は、直接見ていない」


声に出してから、部屋が妙に静かに感じられた。


もちろん、当時の私だけではない。


正式な確認が行われたからこそ、死亡記録は作られた。


そう考えていた。


今までは。


私は記録を閉じた。


そのとき、頭に浮かんだのは一人の女だった。


リナ。


王宮の清掃係。


彼女が最初に持ってきたのは、古い紙片だった。


十五年前。


そして、ノルデン村。


彼女はそこまで調べた。


偶然とは思えない。


私は机の横に積んであった別の記録を取った。


ノルデン村に関する古い物資記録。


十五年前のものだ。


ページをめくる。


赤ん坊用の衣類。


布。


薬。


生活用品。


送付先はノルデン村。


当時は、特別に珍しいことだとは思わなかった。


今見ると違う。


私は眉を寄せた。


「なぜ、ここにある」


誰に向けた言葉でもなかった。


記録は嘘をつかない。


ただし。


記録を作る人間は、すべてを記録するとは限らない。


私はさらに別の紙を探した。


村へ向かった人物の記録。


一人の女性。


名前は――。


途中で記録が途切れている。


私は紙を置いた。


頭の中で、いくつもの記憶がつながり始めていた。


だが、まだ足りない。


確かめる必要がある。


---


「文書官長、どちらへ?」


廊下で声をかけられた。


振り返ると、若い記録係が立っていた。


「少し外へ出る」


「どちらへですか?」


「ノルデン村だ」


「ノルデン村……?」


「書類の確認が必要になった」


それ以上は答えなかった。


記録係も、それ以上は聞かなかった。


私は歩きながら考える。


リナは、もう村にいる。


そして昨日。


村で見慣れない男がベル家について尋ねていたという報告が、私のところにも届いていた。


私は足を止めた。


「……早いな」


誰が動いている。


リナだけではない。


それだけは分かる。


だが、まだ断定するには材料が足りない。


だからこそ、自分の目で確かめる。


---


馬車に乗り込む前に、私は一度だけ王宮を振り返った。


十五年前。


ここで何かが起きた。


私はその後、記録だけを残した。


それで終わったと思っていた。


けれど。


終わっていなかったのかもしれない。


私は古い死亡記録を懐に入れた。


馬車が動き出す。


車輪が石畳を越えていく。


王都を離れ、街道へ入る。


窓の外の景色が少しずつ変わっていく。


私は目を閉じた。


十五年前の記憶を、もう一度たどる。


何があった。


誰がいた。


誰が、何を見た。


そして。


誰が、見なかったのか。


「……今度は、確認する」


馬車はノルデン村へ向かって進んでいった。


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