黒猫
「どうすれば良いんだろうな」
「お、終わりや…魔界の皆達者でなー」
アデュー、と何かに向かって手を振る魔王の頭をぶん殴る。
「ハッ、ウチは何を…」
「ホントにお前が怖い」
「おい、さっき何か声が聞こえなかったか?」
騎士の声が聞こえる。
マズい、バレた!?騎士達がこっちに向かってくる。
「どどどどうすればええねん…」
「とりあえず隠れないと…」
ダメだ、ここは行き止まりだ!
まさしく絶体絶命、ロベリア達はアワアワするしかなかった。
チリン‥‥———
「にゃ~お」
突如後ろから表れた。
黒い毛並みに金色の目…?珍しいな。
「何だ、猫か」
「どうせまた紛れ込んだんだろ」
騎士たちは興味を失ったらしく、すぐに調査に戻っていった。どうやら調査の時に猫が紛れ込むのは珍しくないらしい。
「なぁ~ん」
「この猫が助けてくれたんか!?」
「‥‥‥ほぉ」
感激する魔王とは裏腹に、ロベリアの態度は冷たかった。
「何や、自分猫が嫌いなんか?」
「いやぁねぇ‥‥随分優しい猫もいたもんだと」
黒猫の耳がピクッと反応する。
「どういうことや?」
「さぁ?こいつは一体どこから出て来たんだろうね」
「だからどういう———」
チリン‥‥———
鈴の音と共に、猫の姿がフッと消えた。
「な、何なんやあの猫は‥‥」
「さあな、けど‥‥悪い子ではないみたいだ」
ロベリアの見る方向には、消えたはずの通路があった。
■
「わわわわわ~」
大きい竜巻の中‥‥そこにイリスはいた。今はグルグルと回り、態勢を保つので精いっぱいだ。
「えぷっ、ぎもぢわるい」
回ってる影響で見事に酔ってしまった。
あぁ、吐きそう。でもここで吐いたらとんでもないことになる。吐しゃ物と共に回り続けるのはさすがの私でもごめんだ。
「‥‥ッ」
突如イリスの右腕に激痛が襲いかかった。ぷらん‥‥と腕に力が入らなくなる。‥‥折れた!やばい、この状況で左手だけで杖を持つのは困難だぞ。よく見ると、イリスの周りに太い木の棒や、がれきなどが浮いていた。なるほど、この障害物で私を攻撃して‥‥
さすがにフルボッコすぎるでしょ、どうすれば———そうだっ
『乱風』
どこからか吹いた風で、竜巻が吹き飛んだ。イリス自身も吹き飛ばされたが、急いで態勢を整える。
「風には風が、一番だね!」
「‥‥‥」
イリスは折れた右腕をカバーしながらも、きれいに着地を決めた。
しかし、フーッフーッと息も荒く、額には汗もにじんでいる。
「ちょっと休憩‥‥あーあ、こんな事ならもっと魔術覚えとくんだった。治癒魔術なんて『治癒力活性化』ぐらいしか分かんないし」
ドサッとイリスは座り込む。アヴニールの判断だろうか、それとも気まぐれか‥‥どっちにしろ、イリスを攻撃しては来なかった。
「おしゃべりしようよ~、こう見えて私は友達もいないんだよ?」
「‥‥‥」
「あ‥‥悲しくなってきた‥‥」
喋ってよ~、と駄々をこねるも、アヴニールからは一向に返答が来ない。
フゥー、イリスは息を吐いた。‥‥あいつは、どこを見てるんだ?さっきから私を見てない。どこか‥‥もっともっと遠く、遠ーいところ。それも、悲しそうな目で。
「あー、疲れた。ロベリアがいなかったら私はとっくに諦めてたのに‥‥」
しょうがないなぁ、弟を持つ姉は大変だ。
「だから私は頑張るよ。大丈夫、私にはもう分かるから」




