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上條陸と言う人

付き合い始めて、2ヶ月が経った。


「手ぐらい繋ぐ?」


「いえ」


「まだ、そんな気にならないよね」


「明日で、健斗さんがいなくなって二年目です。明日越えたら、手を繋ぎます。」


「急がなくていいのに」


上條さんは、本当に優しい。


街を歩いていて、後ろから人がきたらすぐに僕を引き寄せる。


殺されないように、ボディガードみたいに守ってるんだ。


それが、僕には少しおかしかったけれど…。


そもそも、僕達の出会いもおかしかったのか…


「また、あったんだよ。婦女暴行事件。ニュース見た?」


「はい、あれって。昔の事件と同じですよね?」


「うん。まだ、犯人捕まってないよね。落ち着いた頃に現れるって感じでさ。」


「健斗さんが、昔あのニュースに泣いていました。」


「そうだよな。俺も泣いたからわかるよ。」


そう言って、上條さんは目を伏せていた。


「あのさ、浜井さん」


「はい」


「いつか、俺達の付き合いが長くなったら一緒に住まないかな?」


「えっ?」


「危ない」


上條さんは、自分の方に僕を引き寄せた。


チリン、チリン「チッ。邪魔だよ」睨み付けて男は通りすぎた。


「歩道を通る方が、いけないのに」


「大丈夫だった?」


「大丈夫です。そんなボディガードされなくても」


「浜井さん、俺ね。結斗を失くしてからこんな気持ち感じた事なかったんだよ。若い頃と違って、歳を重ねてから同じ事が起きたら、もう二度と立ち直れない。って、浜井さんにヒドイ事言ってごめんね」


僕は、上條さんの言葉に首を横に振った。


わかるよ、僕も。


上條さんと、このまま日々を重ねていって健斗さんと同じことになってしまったら…。


もう、生きてなどいけない。


「昨日ね、事故で運ばれてきた患者さんがいてね」


「はい」


「結婚して、2ヶ月だったんだって」


「はい」 


「出来る限りの事をしたんだけど、亡くなってしまったんだ。」


「はい」


「上條先生、命は限りがあるから愛しいんだよ。って昔、亡くなった患者さんが俺に言ったんだよ」


「はい」


「俺は、その命の限りを延ばしてあげたかった。」


「延命って事ですか?」


「どうだろうね。そうかもしれない。でも、苦しめないでくれって、よく泣かれるんだ。実際に俺は、自分に使ったわけじゃない。だから、苦しいか苦しくないかもわからない。でもね、一秒でも長く愛する人の傍に肉体(かたち)を残してあげたくてね。馬鹿だろ。俺は、エゴイズムの塊だな。」


僕は、上條さんの手を握りしめていた。


五木さんに会った時には、もう冷たかった話を聞いた。


少しでも、上條さんは温もりを感じてもらいたいんだと思った。


「上條さんのお陰で僕は、健斗さんと一秒でも長く傍にいれましたよ。だから、悪い事ばかりじゃないですよ」


「そう言ってくれて嬉しいよ。でもね、結局俺は、助けられない事の方が多いんだよ。だからこそ、命を大切にしてもらいたい。浜井さんにも、そうしてもらいたいんだよ。」


上條さんは、切ない顔をしていた。


生死と隣り合わせの仕事だからこそ、感じている気持ちなんだと思う。


「上條さん、それでもお医者さんでいたいんですよね」


「そうだね。それでも、一人でも助けたいんだろうね。いつか、メスが持てなくなる日がきたら、医者をやめるよ」


上條さんが、いなくなるまで僕は、隣にいたいってこの日強く思ったんだ。


上條陸という人は、どこまでも優しくて、どこまでも真っ直ぐで、どこまでも暖かくて、僕の世界の全てをまるごと包み込んでくれる人だった。


もしかしたら、上條さんのいる病院に搬送されたのは、健斗さんが仕向けたんじゃないのだろうか?


だって僕は、搬送された日に上條さんに会っていたのだから…。


「どうした?」


「いえ」


「手繋いでくれて、嬉しいよ」


「何言ってるんですか、離しますよ」


「待って、待って」


時々、少年みたいな上條さんが、可愛かった。



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