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上條さんと僕

それから、僕達はゆっくりとゆっくりと時間をかけて過ごしたんだ。


あれから、イチゴはおばぁちゃんだけど、まだ生きていてくれた。 

「そろそろ、お花見行かないか?」


昨日の夜、酔った陸と一緒に眠った。


「嫌だよ」


「もう、15年だよ。イチゴも15歳だよー。」


【ニャー】


「お花見行きたいよな」


【ニャー】


「あそこにまた行くんですか?イチゴを連れて」


「だって、凌平は行かないでしょ?今年も」


陸は、一緒に住んでからイチゴを春になると健斗さんと最後に行った夜桜の場所に連れていく。


「また、宇宙みたいなバックで連れてくんでしょ?」


「そうだよ。明るいうちに帰ってくるから」


「陸」


「いいだろ?あそこの桜は、健斗さんが凌平にプロポーズした大事な場所なんだよ。俺は、健斗さんが、大事にしていた場所も大事にしたいんだよ」


そう言って、冷凍のご飯をレンジでチンしてる。


「いくなら、サンドウィッチがいい」


僕は、後ろから陸を抱き締めていた。


健斗さんと過ごした時間を、陸と過ごした時間が追い越したら、お花見についていこうと決めてたのに…。


僕は、なかなか勇気が出せなかった。


「イチゴが生きてる間に、三人で行きたい。前の会社近くの玉子サンド買って行こう。ねっ?陸」


「うん。行こうか」


8年かけて、キスをした人


「キスしていい?」


「嫌だ」


忘れたくない人がいるから、嫌だってお互いに泣いた事


「一回だけ」


「うん」


キスだって嫌だって泣いて泣いて、やっと出来たんだ。


チュッ…


「頬にしといた」


可愛い顔して笑う人


「ねぇー。来年のGWは、行くんでしょ?円香さんと美鶴さんと。」


「うん。久しぶりに会うなぁー」


「そうだよね」


「凄い楽しみだな。」


「うん、でも、楽しみだな。円香さんと美鶴さん以外に会う事初めてだから」


「そうだな」


時々、少年みたいに笑う。


「カメラ持ってこうか」


「うん」


僕の思い出を大切にしてくれる人


宇宙みたいなバックに、イチゴをいれた。


「イチゴ、行くぞ」


【ニャー】


陸の運転する車に乗った。


僕は、サンドウィッチを買いに行った。


「ここの玉子サンド最高なんだよ」


「へぇー。楽しみだな」


車を停めて並んで歩く。


陸は、手をギュッと握りしめてきた。


ここは、大嫌いだ。


「ついたよ、凌平。よく頑張ったな」


そう言って、陸は髪を撫でてくれた。


「あの、すみません。写真撮ってもらってもいいですか?」


「はい」


陸は、通りすがりのカップルにカメラを渡した。


「はい、凌平」


そう言って、桜の木の下に連れてこられた。


イチゴと三人で写真を撮った。


「ありがとうございます」


陸は、笑ってカメラを受け取っていた。


「はい、これ」


「ありがとう」


手を拭いて、あの日と同じように桜の下で食べる。


違うのは、隣に健斗さんがいない事


「コーヒー、どうぞ」


「この缶コーヒー好きだよね」


「うん、好きだよ。」


ニコニコ嬉しそうだ。 


「なに?」


「嫌、凌平が来てくれたから、やっとやっと言えるよ」


「なにを?」


陸は、一気にサンドウィッチを流し込んだ。


「うっうん。」


咳払いをした。


「凌平のこの先の人生を、俺に下さい。健斗さんを愛してる凌平を愛してます。二人の想い出を大切にしたい。だけど、俺に凌平の残りの人生を下さい。生きるから、絶対に生き抜くから…。凌平を一人ぼっちにはしないから…。約束するから、お願いします。」


陸は、小さな四角い箱をパカッと開いて差し出した。


僕は、その指輪に刻まれた刻印を見て泣いていた。


【KENTO RYOHEI】


って、彫ってあった。


陸のは、結斗さんとの名前だった。


「なんで?別々の名前彫ってるの?」


「凌平は、ずっと健斗さんのだろ?俺は、それを貸してもらってるだけなんだよ。だから、向こうに行ったら返さなくちゃならない。それが、約束だから」


「僕もだね。陸」


「うん、そうだね」


陸は、優しい。


僕と陸は、ただ借りてるだけだ。


向こうに行けば、お互いに愛する人の元に行くのだ。


「イチゴが、可哀想だから帰ろうか」


「つけて、陸」


「わかった」


陸は、僕の指に指輪をはめてくれた。


「つけていい?」


「うん」


僕も、陸の指に指輪をはめた。


「帰ろうか」


「うん」


イチゴを連れて、家に帰った。


「陸、いいよ」


「何が?」


「全身が陸になっても」


「おっと、それはまだ早いだろ?」


前みたいに止められてしまった。


「怖いの?」


「怖いんじゃないよ。まだ、時間をかけたいんだよ。」


「お爺ちゃんになったら、出来ないよ」


「それなら、それで構わないよ。俺は、凌平とゆっくり進みたい。」


「ゆっくり進みすぎなんじゃない?」


「いいじゃん、いいじゃん。イチゴに見られてるの恥ずかしいし」


「なんだよ、それ」


「それは、嘘だよ。凌平は、まだ健斗さんの形でいなさい」


「じゃあ、一つだけ言わせて」


「なに?」


僕は、陸の左手に左手を重ねて、自分の左胸に手を当てる。


「ここは、陸の形だよ」


陸は、笑ってその手を自分の左胸に当てた。


「同じです」


僕は、涙が止められなかった。


愛してるや好きよりも、嬉しくて嬉しくて、堪らなかった。




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