早乙女加奈枝、宮瀬歩
「歩君が、好きです。」
「よっしゃー。俺の勝ち。じゃ、ごめんね」
私が出会った時から、宮瀬歩は、こんな事を繰り返していた。
「慎吾、ジュースおごりな」
「はいはい、了解」
「関口、アイスな」
「はいよ」
仲良し三人組で、小学校の頃からずっと同じ事を繰り返していた。
彼が、何故こんな事をしてるか私は知ってる。
私は、彼と同じマンションに住んでいるから知っていた。
「おう、早乙女。お前も、俺が好きか?」
「好きだよ」
「はい、冗談。そういう哀れみいらないから。それと、俺キスとかセックスとか大嫌いなわけ。わかるよな?」
「うん」
「じゃあな」
どうせ、今、家に入ったって秒で出てくるくせに…
ほら、言わんこっちゃない。
「早乙女、お前んちで勉強させて」
「うん」
私の家は、共働きで夜の9時以降にしか帰宅しない。
そして、歩君は9時までいるのだ。
これを知ってる人は、誰もいない。
「早乙女の両親忙しいよなー」
「そうだね」
「姉ちゃん、寮だよな」
「うん」
お姉ちゃんは、4つ年上で、寮つきの高校に通っていた。
「歩君は、人をおちょくって楽しいの?」
「楽しいよ。人が、恋に堕ちてく姿は、滑稽だよ。」
「最低だね」
「かもな」
私は、立ち上がってキッチンに行った。
こんな最低な人に、初恋をした私って馬鹿だ。
チョコチップクッキーをお皿に入れて、りんごジュースをいれて、部屋に持っていく。
「はい」
「いつも、ありがとな」
「ううん」
「学校で、話さないようにしてくれてありがとな」
「ううん」
今、この瞬間だけは歩君は、私のものだから…。
「ゴミ箱持ちながら、食べる?」
「ああ、悪い」
チョコチップクッキーは、歩君の大好物だ。
小学校一年の夏休み、私があげた。
「ほら、見て。ポケット叩いたら二つになった。あげる」
昔の懐かしい歌を真似て、ポケットに忍ばせておいたチョコチップクッキーを渡した。
「美味しい、早乙女。ありがとな」
あの笑った顔から、私は歩君にずっと恋をしている。
「うまいわー。やっぱり、これ」
「好きな味?」
「そうだな」
「よかったね」
「今日、晩御飯は?」
「レトルトカレー、食べてく?」
「うん」
私の晩御飯は、全部レトルトだった。
「なあー。あれ、歌って」
「えぇ、また?」
「まただよ」
5年生の夏、眠った歩君の隣で、ANRIの歌を口ずさんだ私
実は、起きていたようで、度々歌えと要求された。
「♪長い恋の終わりは♪HAPPYENDにはならない♪そんな事を誰かが話していたんだよ♪君の寝顔見てると♪そんな事どうでもよくて♪愛さなくていいから♪ただ、傍にいさせて欲しい♪………」
パチパチパチパチ
「好きなの?この歌」
「違う。早乙女の声が気に入ってる。歌手になれば?」
「無理に決まってるじゃん」
「あー。じゃあ、あれだ。佐々木先生みたいになればいいじゃん。なっ?」
単純な思考回路で、この日私は音楽の教師になる夢を持った。
「ちょっと、寝ていい?」
「うん」
歩君は、私の肩に頭をのせていつも眠る。
家では、いつも睡眠不足なのだ。
私は、イヤホンをいれてANRIの曲を聞いていた。
ANRIの曲は、恋する私にピッタリな曲ばかりだった。
「嘘ばかりつく君♪本当は、寂しいくせに♪わかってないの?♪わからないフリ?♪続ける意味はあるの?」
あっ!!!
私は、歩君と目が合ってしまった。
「あれ、寝てたんじゃなかったの?」
イヤホンを抜いて話した。
「うん、さっき起きた。」
「そっか」
「早乙女、キスしてやろうか?」
「馬鹿な事、言わないでよ」
「何で、俺が好きならいいじゃん」
「私は、私を好きになってくれる人としかしないから」
「あっそ!めんどくさいやつだな。」
そう言って、歩君は笑った。
また、チョコチップクッキーを食べている。
彼にとって、私の存在など、どうでもいいものなのだ。




