008話 内包特性
後半の第二階層からは、出てくるモンスターがちょっと面白い。
ダンジョン名の「堅実なる回避」で思い出したのだが、二階層は確か矢を打ってくるアーチャーエルフ、お尻から針を飛ばしてくるハニービー、ズッコケた勢いで武器を投げてしまうドジっ娘なコボルトが出現するのだ。
こんな序盤に遠距離攻撃とは、難易度設定が高めだなぁと思う人もいるかもしれない。
しかし、それを堅実に回避する方々が存在するのも、このダンジョンの面白さである。
その答えは簡単。
動けないヤドリギちゃんを、壁役にしちゃえば良いのだ。
「うん、ヤドリギちゃん味方からぼっこぼこで、ちょっと可哀想だな」
各種のモンスターは8段階、初期からは7回進化するって感じなのだが、1~3段階目くらいの行動パターンはかなり優しめである。
間に他のモンスターがいても、プレイヤーが見えてて一直線上の位置にいるなら、間に何か居ようが平然と遠距離攻撃をしてくるのだ。
ちなみに、ハニービーの針攻撃は刺さると体力の回復ができなくなる。その針を抜く方法は一マス移動するだけで良い。プレイヤーは簡単に解除できる状態異常だな。
というわけで、動けないヤドリギに針を刺しちゃえば回復しなくなって倒すのがとっても楽になるぞ。
他にも、その場から動かないモンスターとして、プレデタープラントやマンドラゴラ、アルラウネが二階層に登場している。
うんうん、動かないモンスターといえば植物モンスターだな。
アーチャーエルフは、たまに攻撃が外れて矢を落としてくれるので、序盤の「木の矢」稼ぎもちょっとだけできちゃうぞ。
チュートリアルで失った矢はここで補充しちゃおう!
って、感じのダンジョンである。
「順調過ぎて怖いくらいだ。アイテムも良い感じに集まってきたし……あぁ、ちゃんと売れるなら最高なんだけどなぁ」
そろそろ、拡張スロットとか出ないかなー。
「おぉ、噂をすれば拡スロ発見! 一発で転送ツモれるか!?」
俺は拡張スロットが落ちているマスに移動してアイテムを拾……
「…………え、拾えない?」
アイテムスロットがいっぱいだったか?
いや、流石に52個もアイテム拾った覚えはないし、拾えないなんてことはないはず。
うん。確認してみたけど、スロットはかなり空いている。
というか、どっちかというと、ガラ空きというか、なんかアイテムごっそり減ってね?
拾ったはずのアイテムが消えて無くなっているし、拡張スロットは拾えないし、一体全体、何がどうなってんだ?
何か、嫌な予感がする。
背中に、変な汗が伝う。
俺はポケットから学園デバイスを取り出した。
これはアイテム枠ではなく、ゲームの仕様として持ち込めるものである。
自身のステータスの確認とかもこのデバイスからできるんだが、俺は空中に拡張表示するタイプにしてるので、取り出して操作することはあまりない。
だが、今回ばかりはしっかり調べないわけにもいかないだろう。
「十中八九、悪さしてるのはユニークジョブの〈大富豪〉だよな。バグも多いし、頼むから欠陥ばかりのハズレジョブとかやめてくれよ……」
俺は嫌な予感が杞憂で終わってくれるように願いながら、恐る恐るユニークジョブ〈大富豪〉の詳細を確認した。
◇
―――ユニークジョブ〈大富豪〉システムデータ―――
ユニークスキル《セレブの豪遊》
▶説明
▽【内包特性】『税収』
ダンジョン外でアイテムや素材を自身のスロットから取り出した時、それらを強制的にD貨へ変換する。
ダンジョンクリア時、ダンジョン内で獲得したチップを強制的に全てD貨へ変換する。
ユニークスキル《大富豪の余裕》
▶説明
▽【内包特性】『爪弾き』
「拡張スロット」系のアイテムを、「アイテムスロット」に収納することができない。
ユニークスキル《蒐集家の魂》
▶説明 ―――未開放―――
▽【内包特性】『厳選徴収』
アイテムを初めて入手した時、強制的にその現物を1つ消滅させ、自身の『アイテム図鑑』へ登録する。
▶ユニークスキル《?????》―――未開放―――
▶ユニークスキル《??》―――未開放―――
・
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◇
「な、なんじゃこりゃ」
『爪弾き』は、実質拡張スロットの使用禁止。これが原因で、今俺の足元に落ちている拡張スロットを拾い上げることができないのか。
『厳選徴収』は、初めて拾ったアイテムをシステム側が強制的に1つ消滅させる仕様のようだ。アイテムスロットを確認すると、確かにダブって複数拾っていたアイテムだけが辛うじて残っている。1つしか拾っていなかったアイテムが全部消失したせいで、俺のアイテムスロットはガラ空きになっていたわけだ。
こんな制限まであるとは、〈大富豪〉は完全にハズレの欠陥ジョブなのか?
あまりの不条理さに、しばらく拡張スロットのあるマスの上で呆然と立ち尽くしてしまう。しかし、行動しなけばいくら時間が経ってもターンは消費しない。
同じ部屋にいたモンスターのアルラウネちゃんが、こちらをじっと見つめてくる。ただ単に敵である俺を視認しているだけのはずなのだが、今の俺の境遇があまりに悲惨すぎるせいか、その瞳は深い憐みを含んでいるようにさえ感じられた。
やめて、そんな「あっ……(察し)」みたいな目で俺を見ないでくれ(※アルラウネはゲーム通りの通常グラフィックです)。
だが、アルラウネちゃんに優しく見守ってもらったお陰で、少しずつ冷静さを取り戻してきた。
よくよく考えれば、『爪弾き』によって拡張スロットを拾えず弾かれちゃう制限は、アイテムスロット自体を直接拡張できる俺とっては、そこまで致命的な痛手じゃない。
これ、不思議なダンジョンにおける「壺の中に壺は入れられない」という普遍的なシステムルールに近い感覚だな。俺のアイテムスロットそのものが、既にシステム上では拡張スロットと同等の収納枠として扱われているのだろう。
そして『厳選徴収』にしても、前世の俺の「とりあえず1つはアイテムを手元に残したい」というコレクター精神が、反映されちゃった結果なのかもしれない。
これも序盤こそアイテム不足で困るかもしれないが、だんだん拾ったアイテムで図鑑が埋まっていきさえすれば、そのうち無視できるデメリットになっていくはずだ。
……あれ? そう考えると、思ったよりも焦る必要はないな。
実質換金不可で俺の稼ぎをすべて強制徴収しやがる、あの 『税収』とかいう極悪特性に較べたら、この二つなんてまだ可愛いもんじゃないか。
逆に言えば、〈大富豪〉というジョブは、これくらいの足枷をハメられていないと、チートすぎてゲームバランスが崩壊してしまうから、世界側で調整されているのかもしれない。
そう前向きに捉えれば、なんだか悪くない気分になってきたな。ただし、『税収』テメーはダメだ。
「そうだ、拡張スロットは別に床に落ちている状態でもアイテムの出し入れはできたはず。なら、こういう使い方はできるんだろうか?」
ふと思いついたのは、アイテムスロットに収納できないだけで、そのまま拡張スロットの機能自体は利用できるのではないか、という仕様の穴だった。
「試してみるか。というか、下にあるのって結局何の拡張スロットなんだろ……って、これ、転送じゃん!」
俺はメニューから「足元」を開いて詳細を確認したところ、なんとお目当ての「転送の拡張スロット[4]」であった。
足元コマンドから「拾う」を選んでも相変わらずシステムエラーで弾かれたが、試しに「入れる」を選択してみると、手持ちのアイテム一覧がポップアップした。
「よし、これならいけそうか?」
早速、複数拾っていたおかげで『厳選徴収』を免れて1つだけ残っていた「睡眠の花」を選択し、足元のスロットに突っ込んでみる。
すると、しゅん、と光の粒子となって、アイテムはしっかり拡張スロットへ収納されていった。
あのチャリンチャリンという耳障りな音も聞こえてこなかったぞ。
「これは成功か?! 入れた睡眠の花は、契約している俺の個人倉庫へと直接転送されたはず!」
転送の拡スロの残りの使用回数が[4]から[3]へと目減りしている。読み通り、床置き状態のままでも機能は正常に作動してくれたのだろう。
ならば、このフロアを降りる前に、手持ちのアイテムを入れられるだけ入れて使い切っておこう。
そうだな、「強化の杖[5]」と、「木の矢×37」、ついでに「武器強化の巻物」も倉庫へ転送しちゃおう。
次々とコマンドを操作してアイテムを放り込んでいき、ついに「転送の拡張スロット[0]」へと変わる。これで回数をすべて使い切ったな。
「あとは学園に戻ってから、あの倉庫から無事に取り出すことさえできれば、アイテムを売って現金を稼げる。拡張スロットを拾えなかった時は焦ったが、完全に使用禁止じゃなさそうで本当に助かったな」
不幸中の幸い……いや、(大)富豪中の幸いってやつか?
そんなくだらないジョークを考えられる心の余裕ができたことで、俺の足取りは随分と軽くなる。
初入手のアイテムを拾っては消え、拾っては消え、ダブったら残り、ついでにアーチャーエルフで矢を稼ぐ。
そんな風にアイテムが補充できたりできなかったりする一喜一憂を楽しみながら、俺は第二階層の最後の階段へ、足をかけた。
こうして、俺は記念すべき初のランダム生成ダンジョン、クラブの二段を無事に制覇するのだった。
◇
【実績】『クラブの二段』クリア
【報酬】攻略証明カード[クラブ二段]
◇
「皆様、今日の成果はどうでしょうか? アイテム・素材買取屋はこちらで〜す!」
「忙しい方向け、アイテム預かり所はこちらですよ。皆様の契約されている倉庫まで、しっかりお運びいたします」
「未識別アイテムの鑑定はいかがっすか〜? お安くしときまっせ〜!」
「ただいま〜! さぁ、ソニアちゃんはエウリュディケちゃんを仲魔にできたでしょうか〜? 今からソニアちゃんのモンムスーハウスで、答え合わせの時間だよ〜! お楽しみにね〜っ!」
「あ、男子だ。えっ、男子!? クラブ二段から出てきたけど、男の子ってダンジョン入って大丈夫なの!? というかクリアしたの!?」
少し矢稼ぎをし過ぎて長くダンジョンにいたせいか、ゲートをくぐって外に出てきたときには、すでに陽が傾きかけた夕暮れ時になっていた。
ダンジョンから帰還してきた多くの冒険者や探索者たちで、クラブゲートウェイ周辺はあちこち賑わっている。
お昼を食べ損ねた反動か、強烈な空腹感がどっと波のように押し寄せてくる。腹の虫がぐぅぐぅと情けない悲鳴を上げ始めた。
ダンジョン内では魔素飽和度というゲーム独自のシステムで管理されているため、現実の肉体の空腹感は一時的に麻痺して反映されていなかったらしい。
周囲の露店からは、じゅうじゅうと肉が焼ける香ばしい匂いや、焼きそばのたまらない香りが漂ってきて、俺の鼻腔と胃袋を容赦なく刺激しにきている。
くぅ、今すぐあの焼き立ての串を貪り食いたい!
焼きそばをズルズルと勢いよく口一杯に頬張りたい!
だがダメだ。今の俺は借金を背負った極限の金欠状態。大人しく学生寮まで帰れば、タダで栄養満点の夕飯が提供されるのだ。こんな誘惑まみれの出店で、貴重なお金を浪費するわけにはいかない。
鋼の意志で誘惑に抗うのだ!
決して空腹には屈しないぞ!
俺は一歩一歩、自分を律するように力強く地面を踏み締めながら、ダンジョン内で転送したアイテムの検証を行うため、目的地であるスロット倉庫街『スロット・スタック・ストリート』へと向かった。
……その左右の手に、焼き串と焼きそばを携えながら。




