006話 SSS
「最後に、ここがスロット倉庫街『スロット・スタック・ストリート』だ。なんて呼ぶかは勝手だが、大抵のやつはSSSとかスリーエスとかだな。アイテムの預け場所、スロット倉庫が連なる区域になってるから、お前らが一番足を運ぶ場所と言っても過言じゃない」
おぉ、なんか近未来感があってオシャレな通りだよな。倉庫と言っても、データバンクのようなものだし。
「各生徒は無料で50個まで預け入れが可能だ。今日はその登録も兼ねている。各自、学園デバイス持って受付に並んでこい」
キョウカ先生に言われるままに受付に列を作る生徒たち。
そういえば、初期の倉庫枠は50個までだったっけか。
「だが、早めに個人用ストレージサーバーを契約しておけよ。他の科と違って、冒険科はアイテムを駆使して攻略する。1年でも300個クラスの倉庫を契約しておいた方がいいぞ」
くぅ、そうだよな。キョウカ先生のおっしゃる通り、倉庫の容量は多ければ多いほど攻略が楽になる。
痛い出費になるが、無料分だけで我慢せず、容量を増やす契約をすべきだろう。
と思ったが、俺の場合は倉庫に入れて取り出せるかも分からないんだった。ジョブの制限がどこまでかかるのか試してからの方が良さそうか。
ちなみにゲーム時代は、クエストの報酬で倉庫の預け入れが増えるとかがあったが、お金で購入することも可能っていう設定だった。現実世界になった今だと、定期契約のスタイルなんだな。
「登録が終わり次第、今日の授業は解散とする。このまま追加で倉庫を契約するも良し。金を貯めてから契約を考えても良し。まぁ、各々好きに頑張れ。何か相談があれば遠慮なく言ってこい。相手してやる」
怖い見た目から誤解されそうな先生だが、やっぱり優しくて頼りになるよな、キョウカ先生。
「それと柴倉、お前はちょっと来い。理由は分かるな?」
「ひぃっ!」
やっぱり怖いので逆らっちゃいけないな、キョウカ先生。
柴倉は首根っこを掴まれながらキョウカ先生に連行されていった。何をやらかしたのか知らないので助けてあげられないが、骨くらいは拾ってあげよう。
さて、登録が終われば自由時間か。
今日はダンジョンに行ってアイテムを持ち帰り、取り出そうとせずに倉庫に転送できるかを確認してみたい。
うまくいけば、倉庫経由で取り出したアイテムを金に変えることができるかもしれないからな。
「次の方ー。おっ、男の子! いやぁ、眼福眼福。本日は無料登録ですねー。私の説明に従って、学園デバイスを操作してくださーい」
「分かりました」
言われた通りに操作していって終わりかと思ったが、受付のお姉さんの動きがピクリと止まる。
「ありゃ、既に別の倉庫の定期契約をなさってますね。しかも一番上のプランですか。いやぁ、凄いですね」
「えっ? いやいやいや、俺ここに来るの今日が初めてですよ。契約した覚えないんですけど」
本当に身に覚えがないぞ。
いや、まさかな……。
「契約者様は一色瑛薇様になってますね。お知り合いじゃありませんか?」
一色……瑛薇、だと?
いや、まぁ、知り合いというか何というか。
エイラは俺がお金を借りている、幼馴染の元婚約者の名前だ。
彼女はまるで悪役令嬢かのような風貌なのだが、見た目に反して性格が悪いわけではなく、俺に対してかなり甘いやつである。
今思うと甘いという言葉で済ませて良いのか疑問だが、恐らく俺が欲しい物を口にしたら、それが何であれポンとプレゼントとして用意してしまうくらいではある。
今回の倉庫のプレゼントも、きっとエイラの100%の善意なのだろう。
「あ、まずいな。また借金が増えてしまう」
恐らく、今回もエイラは俺に対して無償で倉庫を用意してくれたのだろう。実は入学金や生活費だって彼女の厚意による申し出だったのだ。
エイラはいつだって、見返りを求めることはない。俺のためを想い、俺に尽くすために私財を投じる。
そんな彼女の献身で、前世の記憶を取り戻す前の俺は良心の呵責に苛まれるようになった。
その結果、俺はエイラの従者に頼み、エイラから貰った物やお金は、そのほとんどを借金という形にして、後から返すと約束を交わした。
善意なら貰っとけよ、とか、じゃあ返さなくても良い借金じゃん、と思われても仕方がないのは分かっているのだが、これは俺が通したい筋というやつなのだ。
「この倉庫の件、あの腹黒執事が絡んでるよな。分かってて借金増やしやがって。次に会ったらガツンと言ってやるか」
それでも、瑛薇に罪や悪気があるわけではないので、ありがたく倉庫は使わせてもらうことにしよう。
◇
「お嬢様、そろそろお休みになられては如何でしょう? あまり根を詰め過ぎませんように」
「あら、奏汰。そうね、材料も尽きてきたことだし、ちょっと休もうかしら」
「お紅茶をお淹れ致しますよ」
「ええ、ありがとう」
魔道具開発科の才媛にして、一色財閥の令嬢、一色瑛薇お嬢様。
彼女の幸福こそ、私めの幸せである。
そして、お嬢様の想い人である馬場野生様。
彼の幸福こそ、お嬢様の幸せである。
「今、お創りになられているアイテムも、ワイルド様のための発明でしょうか」
「そうね。彼にとって何かの役に立つと良いのだけれど」
役に立たなくとも良いと、そう言いたげな慈愛に満ちた顔のお嬢様を見て、私めの顔もわずかばかり綻んでしまう。
お嬢様の彼への愛情は常軌を逸しているとしか言いようがない。
だが、入れ込む気持ちも分からなくはない。
あの方は幼い頃より変わったお方だった。
世界の常識に囚われず、どこか異なる価値観をお持ちなのだ。
子どもながらにして大人びた言動が多かった彼は、お嬢様のことをよく諫めてくださったものだ。
彼と出会っていなかったら、きっとお嬢様は高慢で暴走しがちのいけ好かない存在になり果てていたことだろう。
まぁ、出会ってしまったことでワイルド様命とばかりに、入れ込み過ぎている感は否めませんが。
「そのワイルド様なら倉庫の利用登録をなさったようですよ。お嬢様が用意された倉庫にも気が付き、大変お喜びのご様子でした」
「あら、入学祝いのスロット倉庫の件ね。良かったわ。ワイルドが喜んでくれて」
お嬢様は知らない。知らなくて良い。彼と私めの間に結ばれた貸借契約のことを。
学園卒業までの3年間で借金を返せなかった場合、彼はお嬢様と強制的に結婚することとなる。
……ええ、それこそが瑛薇お嬢様の幸せであり、私の究極の目的。
お嬢様が断ることはあり得ない。
ワイルド様は決して約束を違えるようなお方ではない。
全ては私めの計画通り。いやそれ以上に事が運んでいると言っても良い。
原因は不明だが、ワイルド様はアイテムを取り出すこと、売却して稼ぐことが一切できないようである。
冒険者にとっての一番の収入源は、アイテムや素材の売却。
思うように稼げないとなれば、このままなし崩し的にお嬢様とワイルド様がくっつくのは必然。
というか、さっさとくっついて頂きたい。
お互い満更でもないでしょうに。なんとももどかしいのですよ、まったく。
「そうそう、遊戯連盟の件はどうなっているのかしら? 順調?」
「制度方面は既に根回しが完了しております。開発の方は、やはり制作者本人のお話を伺いたいと先方から」
「そうね、どうしようかしらね。ワイルドは覚えているのかしら。本当に世界の常識を崩してしまうほどのことなのに、彼は飄々としているのだから……カッコいいったらないわね」
お嬢様、流石にそれは痘痕も靨かと存じます。
ワイルド様の幼い頃の発言で、今も多くの権力者らが動くことになっていることなど、彼は知る由もないのでしょう。
そういえば、彼はあの遊戯を『大富豪』と呼んでいましたね。
学園からの情報によると、彼が就いたジョブの名前も〈大富豪〉だとか。
偶然の一致にしては、なかなか興味深いものです。
いえ、あるいは…………必然、でしょうか?




