004話 諸悪の根源?
「試験結果、1年2組……か」
夕方、学生寮の自室で通知の鳴ったデバイスを確認すると、順当な結果が表示されていた。
この世界は、トランプカードをモチーフにしている要素が多い。
学園のクラス分けもその一例だ。
ダンジョン学園において、生徒数が特に多い学科は、全部で13のクラスに分けられる。
優秀だった10名がA組という特待生枠を勝ち取り、次に優秀だった生徒たちがK組になる。そしてQ組、J組、10組、9組と数字が下がっていき、試験結果がダメダメだった者が、残念ながら2組となるのだ。
まるでトランプゲームのカードの強さそのまんまじゃないか。
これが「大富豪」とかだったら、2は数字の中で最強なのに、この世界じゃ大富豪は存在しないし、「2」は最底辺扱いだよ。
確か、2組はZ組とか言われることもあるんだっけ。形が似てるからって、そんなアルファベットの最果てみたいな呼び方しなくたっていいのにね。酷い話だよ、全く。
まぁ、俺は前世でも今世でもモブキャラなのに、張り切っちゃってカッコつけようとしたから天誅が下ったのであろう。
そういえば、学園にいるはずのゲームの登場キャラは一人も見かけなかったな。出現するモンスターやダンジョンの仕組みは、俺の知ってる『もてダン』の世界まんまって感じなのに、ヒロインも主人公もいないとか変な感覚だ。
もしかしたら、完全にゲームの世界に転生したってよりは、その元になった世界のパラレルワールドみたいな感じなのかもしれない。ゲームに存在していなかった〈大富豪〉なんて特殊なジョブがあるくらいだしなぁ。
でも、それにしてはゲームに出てくるモブキャラの俺がいるなぁ。何でなんだろ?
考えても分からないことか。
今は原因と思われるユニークジョブ〈大富豪〉の対策を考えるのが先決だろう。
「しかしまぁ、借金抱える俺にとって、不利すぎるデメリットなんだよなぁ」
◇
―――ユニークジョブ〈大富豪〉システムデータ―――
ユニークスキル《セレブの豪遊》
D貨を消費し、さまざまな能力やスロットを永久的に強化・拡張したり、能力の解放を行ったりすることができる権能。
▽【内包特性】 『税収』
ダンジョン外でアイテムや素材を自身のスロットから取り出した時、それらを強制的にD貨へ変換する。
ダンジョンクリア時、ダンジョン内で獲得したチップを強制的に全てD貨へ変換する。
▶【強化】
▶【拡張】
▶【解放】
▶【パッシブスキル】
▶【アクティブスキル】
ユニークスキル《大富豪の余裕》
▶説明
▶【内包特性】 『爪弾き』
▶【強化】
▽【拡張】
1:アイテムスロットの拡張
D貨を支払うことで、装備アイテムスロット以外のアイテムスロットの最大枠を永久的に拡張する。
☆拡張可能アイテムスロット
・ダイヤの3 ← NEW!
コスト 1,000D (1枠→2枠)
2: ―――未開放―――
▶【解放】
▶【パッシブスキル】
▶【アクティブスキル】
▶ユニークスキル《蒐集家の魂》
▶ユニークスキル《◆Error◆》
▶ユニークスキル《◆Error◆》
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◇
相変わらずステータス画面にはバグもあるが、今回の「チャリンチャリン」騒動の原因は突き止めることができた。
そう、この《セレブの豪遊》の中にあった【内包特性】の『税収』が諸悪の根源である。
「アイテムを取り出せないって、実質的にアイテム換金不可ってことじゃないか……」
不思議のダンジョンをクリアして持ち帰ったアイテムや素材を買い取ってもらう。それが冒険者や探索者の主な収入源である。
しかし、この『税収』とかいう酷い仕様により、俺はまっとうに稼ぐことも許されていないらしい。
「大富豪になれるジョブだと思ったら、どんなにダンジョンで頑張っても一銭も収入を得られない。こんなの真逆じゃないか」
どうにかこの呪いのような特性を外したり無効化したりできないかと、画面の『税収』の部分を必死に連打してみたものの、システムはうんともすんとも反応してくれなかった。
うん、最後には「スン」って真顔になってしまったよ。指が痛くなるだけで徒労に終わった。
目の前が真っ暗になりかけたその時、別のユニークスキル《大富豪の余裕》の項目に「NEW!」と書かれたアイコンが、調べて欲しそうにチカチカと明滅しているのが目に入ってきてしまった。
悲しきかな、ゲーマーの性によって指が吸い寄せられるようにタップして確認してしまった。
ほうほう、「アイテムスロット」の拡張?
この『もてダン』の世界では、複数の持ち物を入れられる収納アイテムとして「拡張スロット」という総称のアイテムが存在している。
それと同じ機能、いわば壺みたいな収納枠の拡張が行えるのだろうか?
試しに、何故か唯一選べた「ダイヤの3」のスロットの拡張ボタンを押してみると、1000D貨が減って「ダイヤの3」のアイテムスロットの数が2枠へと変化した。
「お、おぉ~。やっぱりアイテムスロットそのもの、収納枠が増えた感じなのか?」
この「D貨」という数値は、元のゲーム時代ではただの「累積クリアスコア」でしかなく、いくら溜まってもプレイヤーのやり込み度合いが誇れる程度で、ほとんど役に立たないただの数字だった。直接換金してゲーム内通貨、お金にするような機能も当然なかった。
そんな実用性のない不要な数値を消費して、アイテムスロットというバックパックの枠を永久的に拡張できるというのは、破格の能力なのかもしれない。
それにしても、デバイスのログには、現在の所持D貨だけでなく、これまでのスコア実績である「総獲得D貨」という数値まで一緒に1000減少していた。
「うーん、本来減るとかいう概念が無い、やり込み向けのランキングスコアまで下がってるってどうなってるんだ?」
正直、お金じゃなくてD貨がいくら減ろうと、現実の生活にはこれっぽっちも影響がないので気にする必要はないが、直感的でない謎の挙動には困惑してしまう。
やっぱりこのユニークジョブ、ゲームシステム的に色々と致命的なバグを抱えたまま、リアルになったこの世界に無理やり出力されているとかなんだろう。
「でも、いくら強くてもお金を稼げないんじゃなぁ……」
換金不可という絶望を突き付けられた俺は、疲労感からこれ以上の確認はせず、そっとデバイスを閉じることにした。
もう情報でお腹いっぱいだし、これ以上変なバグ要素がどんどん出てきたら消化しきれる自信がないからな。
それに、何か検証するにしても、D貨はチュートリアルをクリアした程度のものしかなく、手元には何のアイテムもない。本当に複数のアイテムが収納できるのか気になるが、確認しようがないのだ。
うぅ、アイテム枠がすっからかんで寂しい。ひもじい。
永久拡張というのは可能性を感じるところだが、現金を稼ぐ手段を丸ごと奪われる制約が、今の俺にとってあまりにも厳しすぎる。
〈大富豪〉なんて大層な名前のジョブになれたのに、その実態は借金しまくりで大貧民まっしぐらな有り様だ。
「どうにか、アイテムの売却以外で稼ぐ手段を探さなきゃいけないな……」
制約が重くて実にもどかしい気持ちだが、ジョブそのものは使い方次第で強力なものになりそうなポテンシャルを秘めており、期待と希望は十分持てる内容だ。
俺には前世のゲーム知識という最大の強みがあるのだし、システム上の隙を突き、苦難を突破するアイデアが浮かんできたっておかしくない。
そう、せっかく第二の人生として好きなゲーム世界に転生できたのだし、くよくよせず、明日からの学園生活も含めて楽しむことにしよう!
◇
「まずいのじゃ。まずいのじゃ」
ぴょこんとしたピンク髪アホ毛が、慌ただしく揺れ動く。
「ダイヤの3だけ、どこにもないのじゃ……」
社長椅子の上で頭を抱えて悩む少女の様子を、一つクワァッと欠伸をした猫が冷ややかな目で眺めている。
「あのときは確か袖に入れて、忘れたまま散歩に行ってしまったか……どっかに落としてしまったのかのう」
彼女は動画配信などを参考にし、暇潰しとして手品の練習をしていた。
そして、袖口に隠しておいたダイヤの3のトランプカードをどこかで失くしてしまったようだ。
少女は思い出す。このトランプを貰ったときのあの日の記憶を…………
『耶千琉、これは社長の就任祝い。この1デッキ、全てのトランプカードがダンジョンでしか手に入らない素材アイテムよ。高級品だから大事になさい』
『おぉぉ、それはすっごいのじゃ。ママありがとうなのじゃ』
『それで遊んでも良いけど、あまり汚さないようになさいね。今度一色家のご令嬢がアプリの件でお越しになるわ』
『ふむぅ、アプリの開発はあまり進んでないのじゃ。細かいルールをどう対応したらいいか分からないと、開発班から報告があったのじゃ』
『実際にプレイしないと気づけない問題も出てくるでしょう。ご令嬢も参加なさって一緒に問題点を探ってくださるようだから、貴女がしっかりお相手するのよ』
『任せて欲しいのじゃ。結局ゲーム発案者の方とは都合がつかなかったのかの?』
『……そうね、この件は貴女に引き継ぐのだし、話しておきましょう。実はそのゲームの発案者、男性なのよ。こっちまで来ていただくことは難しいとのことよ』
『ななっ、なんと!?』
『それに本人の許諾もまだみたいなの。くれぐれも、この事は内密になさい』
『もろちんなのじゃ』
『母親相手になんてこと言ってるのよ。はぁ、本当に不安ね。貴女に社長が務まるのかしら。継がせない方が良かった気もするわ』
『でも働かなくてもママは怒るのじゃ。仕方ないのじゃ』
『貴女の幼い見た目じゃ大人に見られないものね。先方は理解を示してくださっているから、くれぐれも失礼のないようになさい』
『もろち『言わせないわよ』……なかなかやるのじゃ』
『実際にプレイすることになったら、そのトランプを使いなさい。お世話になっている一色財閥のご令嬢に安物のトランプを使わせるわけにはいかないわ』
『分かったのじゃ。ママからのプレゼントでもあるし、ちゃんとこのトランプは大事にするのじゃ』
『ええ、本当に頼むわよ。このプロジェクトは国家も関わっているのだから、社員の運命は貴女にかかっているわ』
…………少女の顔がどんどん血の気が引いて蒼褪めていく。
「も、もしかしたら散歩ルートに落っこちてるかもしれないのじゃ。探してくるのじゃー!」
少女は知らない。
既にそのトランプカードは拾われてしまい、どこかの誰かさんのジョブの強化素材として取り込まれてしまったことを。
果たして、彼女はこの困難を乗り切ることはできるのだろうか。




