003話 チャリンチャリン!
「ホッ、良かったぁ。ワイルド君、クラブの初段ダンジョン、攻略おめでとうございます」
「帰還された方はこちらにいらしてくださーい。試験結果を確認するため、アイテムの提出をお願い致しまーす。確認を終えましたらアイテムは返却致しますので、ご安心下さーい」
ダンジョンから帰還すると、試験官の先生がホッとした表情で俺の攻略を祝ってくれた。
近くには上級生と思われる生徒が案内を手伝っていた。冒険科の生徒の数はかなり多いからな。みんな忙しなく動いている。大変そうだ。
お手をわずらわせないためにも、一番空いているところに行くとしよう。
「ほう、男か。珍しい。ここで持ち帰ったアイテムをスロットから出すんだ。使った杖の回数も確認する。一旦こちらに全部渡せ」
うん、とんでもない威圧感だ。
先生なんだろうけど、軍人とか言われた方がしっくりくるタイプの、吊り目でカッコいい女性が担当してくれた。
ふっふっふっ、こういう女性が驚く顔とか見てみたいよな。
さぁ、最高評価を見せつけて、クールで威圧感のあるご尊顔をキョトンとした顔に崩してみせようじゃないか!
「じゃあ、取り出しますね」
最初はみんな使わずに持ち帰るであろう、「明かりの巻物」「回復の花」あたりから取り出してっと。
チャリンチャリン!
ん?
ちゃりん?
「あれ? 出てこない?」
「ダンジョン外でのアイテムスロットからの出し方が分からないか? 念じれば出てくる。こうだ」
先生は手元にカードを顕現させ、そこから何かの巻物を取り出す、というお手本を見せてくれた。
怖そうな見た目して結構優しそうだなぁ、この人。
いやいや、そんなことを気にしている場合じゃない。
俺は確かにアイテムを取り出したはずだ。いや、まだこの世界の感覚が掴めてなくて、間違ったやり方で取り出そうとしていたのか?
もう一回試してみよう。
次は、本来3階の複数モンスターとの戦闘で消費する人も多いであろう「乱れ斬りの巻物」を念じて……引き抜く!
チャリンチャリン!
「おい、どうした。顔が蒼褪めてるぞ。初めてのダンジョンは魔素に身体が慣れず、体調を崩す者も一定数いる。小休止してからにするか?」
あら、やっぱりお優しい、この先生。
って、ときめいている場合じゃない。
まずい、嫌な予感がする。
こうなったら、複数個を同時に取り出せる「石ころ×5」と「吹き飛ばしの矢×3」を、こう両手でガッと取り出すとかして……おらっ!
チャリンチャリン!
いや、何でだよ!?
くっ、取り出したはずのアイテムはスロットから消えている。一体どこに消えたんだ?
「おい、大丈夫か? 問題があるなら正直に話してみろ」
さらにこちらを射抜くような鋭い眼光を向けられ、冷や汗がドッと噴き出す。
やばい、怖い、早く取り出さないと!
チャリンチャリン!
目をつぶって「場所替えの杖[5]」を取り出そうとするも、案の定失敗。
ハッ、そうだ!
装備なら、手に持っている判定になるだろうから、スロットから取り出す感じじゃないし、そっと置けるはず!
よし、そっとだ。机にそっと置くように「こん棒」と「木の盾」を……。
チャリンチャリン!
「どうしてだよ!?」
そっとがダメなら、今度は勢いよく引き抜く感じで腕輪を外せば!
チャリンチャリン!
無情にも、気味の悪いくらいに明るいコインのサウンドエフェクトが頭の中で鳴り響く。
「お、終わった……」
「終わったってお前、まさか何のアイテムも持ち帰れなかったのか? いや、そんなはずは……」
ハッ!?
そうだ、まだ希望がある。拾ったチップがあるじゃないか!
残高、そうだ残高を確認すれば!
【所持チップ:0チップ】
何故だ!?
手に入れたチップはまだチャリンチャリンしていないはずなのに?!
「なぁ、察するに、何故かは知らんがアイテムが取り出せないって感じだろ? それなら、アイテム倉庫に入れられるかだけでも確認してみるのはどうだ? 他人のアイテムスロットの中身はこっち側で覗き見れんが、倉庫にしまえるなら、リストを確認して試験結果もそれに応じて付けられるやもしれん」
「も、もう、無いんです」
「無い? お、おい」
「もう、全部、無くなってしまいましたぁぁぁ」
俺は膝から崩れ落ちた。
先生の優しさが沁みた。
これが転生して知識チート無双しようと調子に乗ったものの末路であった。




