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014話 ろくでもないな


「それで、君は噂(・)の(・)冒険科1年の最底辺男子、馬場(ばば)君かな?」


「あ、はい。依頼を受けてきた馬場野生(ワイルド)です……」


 掃きスロに名指しで呼び出された件、やっぱり噂にはなってたのか。それも、学年も学部も違う彼女が知っているくらいに。


 薄暗い部屋の奥から姿を現したのは、ボサボサに乱れた青みがかった長髪に、研究用ゴーグルを頭に乗せている女子生徒だった。

 着崩した制服の上に大きめの白衣を羽織(はお)っており、身だしなみを気にしていなさそうなだらしなさが彼女からは漂ってきていた。

 しかし、整った目鼻立ちや透明感のある肌からは、やはり彼女の本来のスペックの高さがうかがえ、それだけにヤバそうなオーラとのギャップが際立ってしまっている。


「フフフ、学園も容赦のないことだ。君の受けた仕打ち、気の毒には思っているよ。まぁ、私の崇高な依頼には関係ないことだがね」


 ジリッ、と彼女が一歩躙(にじ)り寄ってくる。

 俺は思わず一歩、後ずさってしまった。


「えっと……その、依頼について聞きたいんですが、依頼主の方で合ってますよね?」


「あぁ、そうだとも。私こそが、クールでクレイジーなお姉さん系研究者、禄本(ろくもと)椎羅(しいら)なのさ。フッ」


 依頼書の名前と同じだから信じたくはないが、どうやらこの変人オーラが全開の人が、今回の依頼主で間違いないようだ。


「そういうの普通自分から言わないと思いますよ」


 この人あれだ、ネットでサイコパス診断とかやって、サイコパス判定出たら喜んじゃうタイプの人かもしれない。自分で「私サイコパスなんだよね」って言ってる奴が本当にそうだった試しなんて、ほとんどないよな。クレイジーとか言っちゃってるけど、逆にあんまり警戒しなくていいんじゃないかと思えてきた。


「そうか。では、さっそく人外娘のテイムについて話そう。今回の依頼は始まりに過ぎない。この依頼で君の才能を見極め、果たして次なるステップへ至れるのか、実験をしたいのだよ、助手君」


「あ、俺、助手じゃないです」


「……コホン。さて助手君。まずは君に、獣系人外娘を仲魔にしてきて欲しい」


 一瞬、彼女の顔がキョトンとした後、俺のツッコミを華麗にスルーして話を進めやがった。この人、自分のペースを崩さない気だな。


「獣系の人外娘の一部が、毛の素材を落とすことがあると知っているかな? 毛の素材がどんな開発アイテムに応用できるかの研究は進んでいるが、実際に人外娘に生えている毛が一般的な動物たちとどのような違いがあるのか……その生態的な研究は未開拓でね、今回私はそれに目を付けたのだよ」


「なるほど?」


 オタク特有の早口というか、一気に捲(まく)し立てられてよく理解できなかったが、要は「毛の生えているモン娘の研究がしたい」って感じかな。


「そこで、君には獣人系の人外娘で毛の素材を落とす種をテイムしてきて欲しい。種類は問わないが、目に見えてモフモフしていそうな人外娘であれば分かりやすいだろうね」


「あー、例えば、ワーキャットとかどうですかね?」


 猫系のモン娘ってテイム方法が割と簡単だから、それで大丈夫なら俺も楽だな。

 当初の期待通り、「猫探し」ならテンションも上がるってものだ。


「ふむ、図鑑ID01-02-02-02-2か。助手君、素晴らしいな! クラブ三段に出現する人外娘であり、素材もしっかり毛を落とす。知識面は問題なさそうだが、ワーキャットのテイム方法は分かるかね?」


 いや、図鑑IDを諳(そら)んじるとは、マニアックすぎるだろ。かなりの『もてダン』ファンでも、そこまで覚えてない要素だぞ。

 というか、ワーキャットってそんな2が多かったのか。語呂合わせとかいけるか……「か01(わいい)-02(にゃん)-02(にゃん)-02(にゃん)-2(にゃん)」……うん、やめとこう。覚えても特に意味ないし。


「たしか、プレゼントテイムですよね。モン娘用の……あ、開発アイテムか。学園で手に入るかなぁ……」


 モンスターのテイムは色々種類があるものの、中でも割と簡単なのが特定のアイテムをプレゼントするテイムだ。

 猫系なら「マタタビ酒」という開発アイテムが必要で、隣接してアイテムを手渡すだけで良いのだが、問題はそのマタタビ酒をどうやって手に入れるか、だな。


「嘆かわしいことに、現状の冒険者たちからの人外娘の仲魔需要は皆無と言わざるを得ない。しかし、この学び舎には変人も多い。人外娘用プレゼントのアイテム開発に勤(いそ)しんでいるマニアックな者もいるのではなかろうか」


 目の前の変わり者な人が言うと、妙な説得力があるように聞こえるな。

 いや、彼女は変人ぶっている厨二病という方が正しそうな気もするが。


「とりあえず、探してみますね。あー、でも俺すごい金欠でして。テイムにかかるコスト面とか報酬ってどうなりますかね?」


「そこで相談だ。人外娘ちゃんの待機施設の維持費はバカにならないが、全て私が出そう。お世話も私がモフろ……雇おうじゃないか。君への報酬としては、アイテム購入費込みで1回の依頼で10000チップ。どうかな?」


「お、おおお。そんないただけちゃうんですか?」


 さっき今回の依頼は始まりだと言っていた通り、うまくいったら次から専属の依頼にしてくれるってことなんだろう。

 アイテム購入費込みとはいえ、10000チップは前の世界換算でだいたい十万円くらい。ダンジョンでモン娘テイムするだけでこれだけ貰えるなら、かなり割りの良いアルバイトだ。


「フッ、費用に関しては問題ないとも。私の家は一応上流の華族でね、研究費と称して結構な額を援助してもらっているのだよ!」


「……そ、そうですか」


 いや、堂々と無い胸を張って言うことじゃない気がする。要するに親の金で趣味を満喫しているだけじゃないか。

 ろくでもないな、禄本椎羅(ろくもとしいら)。


「テイムまでの期間は来週まででもいけそうかな? 開発アイテムが見つからなそうならば、私の方でも入手できないか探してみよう。何もワーキャットにこだわる必要はないからね。モフれ……毛のある人外娘なら大歓迎なのだから」


「なんか欲望が滲(にじ)み出てますけど、依頼については分かりました。任せてください」


 俺の返答に、うむ、と一つ頷(うなず)くと、彼女は前金として2000チップをそっと手渡してきた。残りの8000チップは成功報酬ということらしい。


「では、任せたよ助手君!」


「助手じゃないですが、行ってきます!」


 俺はそそくさと退室し、バタンと研究室のドアを閉めた。


『うおぉぉぉ! 待っててね人外娘ちゃんたちぃぃぃ! いっぱい可愛いがってあげるからねぇぇぇ!』


 分厚い扉の向こうから、何やらヤバそうな歓喜の声が漏れ聞こえてきた。

 学術的な研究をしたいというより、重度のモン娘好きの変態ってだけだったな。


 確か『もてダン』でこういう人外娘を愛してやまないプレイヤーのことを「人外スキー」と呼んでいたが、彼女には心の中でその称号を贈っておこう。


 一抹の不安は残るものの、依頼条件は悪くないし、シイラ先輩のことは「金払いの良い変わり者のパトロン」として割り切ることにしよう。


 俺はチップをデバイスに入金し、表示された「所持金:2000チップ」の数字をチラッと見て口元を僅(わず)かにニヤつかせながら、足取りも軽く学園商店街へと向かっていった。


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