↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/24

013話 依頼探しとジョーカー



 シャッフルホール。


 ここは学園のほぼ中心に位置する巨大な円形ドームで、様々な生徒たちの交流の場となっている。名前の通り、各学部の生徒たちが混ぜ合わ(シャッフル)されたように、学科や学年の垣根を越えてコミュニケーションを取っている姿が散見された。


 今はお昼時ということも相まって、休日のショッピングモールのフードコートのような喧騒に包まれており、実に賑やかである。


「うーまーいーぞー! 今日の日替わり定食は大当たり回だぁぁ! キュインキュイン!」

「そこの猫っぽいお顔立ちの新入生ちゃん! 是非ギルド『猫耳(ねこみみ)癒夢(いむ)』に入らないっ!?」

「頼む、うちのギルドで余ってる『ヌルヌル樹液』と、そっちの『スケスケの布』を交換してくれ!」

「フラッシュなのに負けた!? 私の一万チップががが……じゃ、じゃあ次はババ抜きで勝負だよ!」

「はぁ……週末もダンジョンだし、予定ぜーんぶダンジョンだよぉ。なんかもう、一生ダンジョン攻略終わらない気がする……ケテ……助ケテ……」


 食事をしながら雄叫びを上げる者、猫耳カチューシャを着けて新入生を勧誘する者、変な素材のトレードに必死な者、トランプゲームで負けまくってそうな者、虚ろな目で友人に愚痴をこぼしている者……そして、依頼掲示板の前で吟味する者たちがいる。


「うーん、やっぱり素材収集の納品依頼ばっかりか」


 広間の一角に設置された大型のディスプレイは依頼掲示板となっており、カード状の依頼データが表示されていた。

 お目当ての依頼を見つけた他の生徒たちは、自分の学園のデバイスをかざしたり、コードを読み込んだりして次々と受注していく。


 俺が見ていたのは冒険科や探索科向けの掲示板である。

 他の学科の掲示板は生産系が多く、チラッと眺めた限りではアイテム開発などの発注ばかりだったため、スルーしたところだ。そもそも素材を取り出せない俺では、アイテム開発などできやしないからな。


「はぁ……現実は厳しいか」


 受けられない依頼ばかりで、思わずため息を吐(つ)いてしまう。


「君、どうかしたのかな? 元気がないみたいだけど……」


 不意に、横からひょいと顔を覗き込まれ、華やかな香りがふわっと鼻をくすぐった。

 耳に心地よく響く、鈴を転がすような明るい声だ。


「あれ? 男の子だったんだ!? びっくりだよ。私、男の子に話しかけちゃったの初めてかも!」


「お、おう」


 声をかけてきたのは、人懐っこい笑顔を浮かべた黒髪ツインテールの美少女であった。どこかで見覚えがあるかもと一瞬頭をよぎったが、俺はすぐに彼女の独特な雰囲気に呑まれてしまっていた。


「それで、どうしたの? 何かあったのかな? あ、それとも逆に、何も良い依頼がなかったとか!」


「ハハ、確かにそうだな。受けたい依頼がなかったって感じだよ」


 俺は彼女のノリの良さと明るさに、いつの間にか笑顔になっていた。不思議な魅力のある子だと、そう思わせるような人柄の良さを感じたからだろう。


「そっかそっか。分かるよ~。これだけいっぱい依頼があったら、自分が受けたいやつありそうなのに、なかなか見つからないよね。そうだ! 私も探すのお手伝いするね! どんな依頼をお探しなのかな~?」


 俺は彼女のペースにどんどん吞まれていく。

 いや、そうか、彼女は「手伝おうか?」と聞くのではなく、手伝うのを前提に探す依頼を聞いてきているのだ。まるで自分が手伝ってあげることなど、至極当前かのように話を進めている。


 これが陽キャ……いや、コミュ強というやつなのか。

 前世でも今世でもモブキャラな俺には、到底真似できない芸当だな。


「アイテムや素材の収集系じゃない、特殊な依頼がないか探してるんだ。アイテム開発とかでもなく、素材とかアイテムが必要ない依頼って言ったらいいかな」


「ほうほう、つまりゲーム序盤の『迷い猫探し』みたいな、おつかいクエストをご所望なんだね! いいねいいね、とっても楽しそう!」


 なんだこの彼女の底抜けの明るさは。

 肯定的な言葉で俺を励ましつつ、自分も一緒になって楽しむ様子を見せることで、俺に「時間を取らせちゃって悪いな」と思わせない完璧なムービング。


 こいつ、あまりにも、で(・)き(・)る(・)!


「じゃあ私は、こっちから右回りで掲示板を見て行くね! 君は左回りでザーッと調べてってよ! それで、ごっつんこしたらお互いどんな依頼を見かけたか報告しよっか! それじゃあ、よーい……ドン!」


「おぉ!?」


 いやはや凄いな。コミュ力だけでなく、行動力もバケモノなのかよ。

 俺は「ドン!」の掛け声にそのまま突き動かされるように、彼女の指示通り左回りで冒険科や探索科以外の掲示板を確認していった。


 だが、こちら側は生産系の学科向けだったのか、やはり開発アイテムの発注ばかりで、俺にできそうなクエストが全く見当たらない。


 もし俺がアイテムや素材を取り出せたなら、どの掲示板でも、4つに1つくらいはやってみたい依頼があるんだよな。感覚的にはトランプの山札から1つのスート、例えば「ハート」のスートをめくるくらいの確率って感じか。


 だけど、俺ができそうな「特殊依頼」を、この巨大なホールにいくつも設置されている掲示板の山から見つけ出すなんて――それこそ、大量にバラまかれた裏向きのトランプの束から、一発で「ジョーカー」を引き当てるくらい無茶な注文なんじゃないだろうか。

 そもそも、その束の中にジョーカーが入っているのかすらも分からない状態だし。


 ちなみに、学園デバイスから全ての依頼をどこでも検索できるような便利システムがないのは、生徒たちをここ「シャッフルホール」に集めて、交流を深めさせようという狙いがあるからなのだろう。不思議なダンジョンという性質上、一人で潜る人がほとんどだから、こういう場を設けて少しでも生徒間の連携を強めさせたいってわけだ。


 確かに、現に俺がこうして見ず知らずの女子生徒に手伝ってもらってる時点で、学園側の狙い通りに交(・)流(・)は発生しているわけだが……。


 だからといって、俺の致命的なデメリットに噛み合う依頼が都合よく見つかるかといえば、それは全くの別問題だ。あまりの無理ゲーっぷりに早くも心が折れかかっている俺は、次の掲示板に移るタイミングで、チラッと反対側に目を向けた。

 黒髪のツインテールをフリフリと揺らしながら、真剣な様子で掲示板を眺めている少女の姿が視界に映る。


 本当に、不思議な子だな。


 強引に手伝い始めておいて、もし俺がやらずにその場を去っていたらどうするつもりだったんだとか、俺がいなくなっても彼女はそのまま一人で一周しちゃうのかとか、くだらない疑問をどうしても考えてしまう。


 善性の塊というか、人を疑うことを知らなさそうな危うさすら感じる。

 悪い人にコロッと騙されてしまいそうな、そんな究極のお人好し。


 見ず知らずの俺のために、あんなに一生懸命になって掲示板にかじりついてくれている女の子がいるんだ。それなのに、当事者の俺が真っ先にギブアップするなんて、ダサすぎるよなぁ。


 最初はただ彼女の凄まじい勢いに乗せられただけだった。だけど、そんな強引さでも、不思議と悪い気分は全くしていない。下心も悪意も一切感じられない彼女の純粋さが、その理由なのだろう。


「よし、もっと気合い入れて探すか!」


 俺がそう決意し、彼女から視線を外してディスプレイに向き直ろうとしたそのときだった。何かを発見したのか、彼女がいきなりピョンと小さくジャンプしたのだ。そしてバッと勢いよくこちらに振り向くと、俺と目が合うなり嬉しそうな表情を浮かべ、ブンブンと元気よく両手を振り始める。


「あったよー! 猫(・)探(・)し(・)!」


「マジで!?」


 いやいや、ゲームじゃないんだから、そんな都合よくピンポイントで猫探しクエストなんかあるわけ……。


「マジだよ! ほらっ!」


 テッテッテッと小走りで駆け寄ってきた彼女は、画面に映っていたはずの依頼カード一枚を、俺にスッと手渡してくれた。

 というか、ホログラムのデータを物理的なカードとして実体化できるのか。凄い技術だな。って、今はそんなことはどうでもいい。

 俺は受け取ったカードの内容に目を通し、これが確かに「猫探し」だという彼女の言葉に、思わず膝を打った。


◇

【学内依頼】カテゴリ:特殊

■依頼名

獣系人外娘のテイム協力依頼

■依頼主

魔素ライフサイエンス学部・魔物生態学科・2年ハート組

禄本(ロクモト)椎羅(シイラ)

■依頼内容

生態研究のため、獣系の人外娘を仲魔にしてきて欲しい。

テイムする種類やその後の管理、預り所の手続き等については、予め打ち合わせをしておきたい。興味がある者は、下記の場所にいつでも来てくれ。

■報酬

報酬のチップ・必要経費諸々要相談

■連絡先

魔素ライフサイエンス学部棟・ハートラボ606号室


◇


「なるほど、テイム依頼か。しかも獣系って、マジで『猫探し』かもしれないぞ」


「でしょでしょ! すっごく面白そうだよね! どうかなどうかな?」


 俺の手元を覗き込みながら、彼女は目をキラキラと輝かせて聞いてくる。


 モンスターのテイムか。

 たしか、『もてダン』のゲーム初期には実装されておらず、「敵の可愛い人外娘を仲間にして育てたい!」という数多くのプレイヤーからの要望で、アプデかDLCかで追加された要素だったはずだ。


 ただ、この育成コンテンツは、「クリア後のやり込み要素」といった様相が強く、序盤で手を出すには罠が多いものだった。

 この世界は毎回ダンジョンから出るたびにレベルがリセットされる分、ジョブを育成してスキルを解放していくのが攻略の要である。しかし、人外娘を仲魔にすると、ジョブの経験値をモン娘側にガッツリと吸われてしまう。おまけに、仲魔を待機させる施設も購入費や、餌代などの維持費がかかっていた。

 そう、金欠気味の序盤に手を出すようなコンテンツでは決してない。


 だが、ゲーム世界が現実(リアル)になった今なら、話は別だ。依頼主が研究目的で費用や施設を負担してくれるなら、金銭的な面が解決する。

 さらに俺の場合はユニークジョブであるため、既存のジョブ成長を阻害されるというデメリットも影響しない可能性まである。


 稼ぐ手段のみならず、モン娘を活用する新たな攻略ルートにもなり得る。

 これは、見つけてしまったかもしれない。最大の悩み、アイテム換金不可という絶望的なバグを解決してくれる、まさに俺にとっての「ジョーカー」のようなオールマイティーさを感じさせる依頼カードを。


 いや、見つけても(・)ら(・)っ(・)た(・)と言った方が正しいよな。


 目の前で、「えへへ」と人の良さそうな笑みを浮かべる彼女がいなければ、膨大な依頼の中からこんな神クエストをピンポイントで発見することは難しかっただろう。


「おぉ、完璧だよ。探すの手伝ってくれて、本当に助かった! ありがとな!」


「やったね! 困ったときはお互い様だよ~。また何かあったら遠慮なく言ってねー! じゃ、バイバーイ!」


 俺が何かお礼をしようと考えていた矢先、彼女はパァッと花が咲いたような笑顔を見せ、くるりと踵(きびす)を返してしまった。


「いや、えっ、せめて名前とか……って、去るのも早いな!」


 ツインテールの毛先を蝶のようにヒラヒラと揺らしながら、そのままスキップ交じりの小走りで、人混みへとあっという間に消えていく。


 嵐のような子だったな。困ったときはお互い様と言っておいて、見返りなど一切求めようとしない究極のお人好し、か。

 次に会ったときはちゃんと名前を聞いて、何かお礼をしないとな。


 そのためにも……。


「まずはこのテイム依頼で、しっかり稼ぐとしよう!」


 俺は依頼カードをピッと学園デバイスにかざして受注処理を済ませると、初の依頼主が待つ「魔素ライフサイエンス学部棟」へと、少しだけスキップを交えながら向かって行った。

 が、すぐに周りの女子生徒からの生暖かい視線に晒され、恥ずかしさで普通の歩行に戻すのだった。



◇



「やぁ、来ると分かっていたよ。私は禄本(ろくもと)椎羅(しいら)。共に人外娘の生態を隅から隅まで調べ尽くそうじゃないか……フフフ」


 薄暗い部屋の奥から、学生服の上に白衣を着た、ボサボサ髪の怪しげな依頼主が不気味な笑みを浮かべながら姿を現す。


 ……あれ?


 最高の「ジョーカー」だと思って喜んでた依頼は、もしかしてとんでもない「ババ」だったのか?


 やる依頼(ゲーム)、間違えてたかもしれねぇ……。


トランプのジョーカーって、ババ抜きの「ババ」みたいなお邪魔カードになることもあれば、最強のオールマイティーな「ワイルド」カードになることもありますよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。