第四十話
翌朝。
王立グランセル魔導学園の空は、薄い灰色だった。
雨が降るほどではない。
けれど、晴れとも言えない。
雲は低く、校舎の尖塔に淡い影を落としていた。
中庭の芝は、夜露を含んで重そうに伏せている。
風は弱い。
空気は湿っていて、呼吸をすると、胸の奥に冷たいものがゆっくり入り込んでくるようだった。
噴水の水音だけが、いつもと変わらなかった。
跳ねて。
落ちて。
また跳ねる。
繰り返し。
それは昨日も、一昨日も、特別評価課題の日も、報告書を出した日も、噂が広がった日も、変わらずそこにあった。
レオン・ヴォルツは、寮の部屋で手帳を閉じた。
昨夜書いた言葉が、まだ胸に残っている。
守ると言われるほど、守られる側は息が詰まる。
だから、守りたい相手ほど、選ぶ声を奪ってはいけない。
その言葉を、朝から何度も思い返していた。
昨日は、噂がさらに形を変えた。
レオンは家に逆らう者。
フィーネは巻き込まれる者。
アルトは守られる者。
ユーリスは面白半分でついている者。
エリシアは気の毒な婚約者。
周囲は、複雑なものを単純な名札に変えた。
しかし、第五班はその名札を剥がそうとした。
フィーネは、自分も選んでいると言った。
アルトは、守られているだけではなく支援していると言った。
ユーリスは、誰のことも見ていない噂に怒った。
エリシアは、気の毒な婚約者ではなく、自分も見て、考えて、選ぶと言った。
そしてレオンは、守ることが相手の声を奪う危険もあると知った。
それで終わればよかった。
いや。
終わるはずがなかった。
ヴォルツ家からの正式な返答は、まだ来ていない。
だが、ローゼンベルク家からエリシアへ確認が来た。
家の影は、学園の外から確実に伸びている。
噂は騒がしい。
だが、正式な言葉はもっと静かに来る。
静かだからこそ、避けにくい。
レオンは制服の襟元を整えた。
灰色の制服。
ヴォルツ家の子弟として恥ずかしくない身なり。
学園の生徒として乱れのない姿。
だが、鏡に映る自分は、どこか昨日より疲れて見えた。
剣を振った疲れではない。
待つ疲れ。
噂に耐える疲れ。
誰かを守るつもりで、誰かの声を奪わないようにする疲れ。
そして、まだ届かない返答を胸の奥で待ち続ける疲れ。
レオンは一度だけ深く息を吐いた。
今日も行く。
第五班として。
レオン・ヴォルツとして。
そして、まだ答えの出ていない問いの中へ。
◆
寮の廊下に出ると、朝の声があった。
昨日より少し抑えられている。
噂の熱は、広がりすぎると一度落ち着く。
だが、落ち着いたから消えたわけではない。
むしろ、声が小さくなった分だけ、言葉が奥へ沈んでいるように感じた。
「昨日の役割反転、見た?」
「アルトが指示したんだろ」
「レオンに前に出すぎるなって言ったらしい」
「それで成功したんだから、守られてるだけではないよな」
「でもさ、家の方はどう見るんだろう」
「ローゼンベルク家にも話行ったって聞いた」
「エリシア様、大丈夫なのかな」
「大丈夫かどうか、本人に聞けないだろ」
エリシア。
また、その名が出る。
昨日、彼女は言った。
気の毒な婚約者ではない。
私も見て、考えて、選ぶ。
その言葉は強かった。
だが、彼女が強い言葉を口にしたからといって、負担が消えるわけではない。
ローゼンベルク家から確認が来た。
彼




