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ブラック転生~神からもらった杖の性能が最強でした~  作者: 弓藤千人
第1章 ギルド入会編

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第9話 優良物件だった件について

 少年に「運がいい」と言われて、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 異世界転生2日目。

 本来なら、言葉も通じず、路頭に迷って野垂れ死んでいてもおかしくないタイミングだ。それがどうだ。ボロいとはいえ、一年の家賃を実質踏み倒すような形で、この街ベネフィカに「拠点」を構えることができた。

 だが、これを俺の「運」の一言で片付けられてはたまらない。


 俺は隣を歩く少年の横顔を盗み見た。

 どう見ても、10歳そこらの子供だ。なのに、さっきのあの立ち振る舞いはなんだ?


 店主の違法な商売を見抜く驚くべき知識量。普通の大人が気付きもしないようなチラシの隅の抜け穴を、迷いなく指し示したあの眼力。

 そして何より、あのごつい坊主頭の店主を相手に、微塵も臆さず「ダウト」を突きつけたあの度胸。

 肝座りすぎだろ...。


「少年。お前、本当は何者なんだ?」

「何言ってんのおじさん。どこからどう見ても子どもでしょ?」


 少年はケラケラと笑いながら、当たり前のことを言うように返してきた。

 そうだよな。見かけは確かにただの子供だ。でも、その小さな体の中には俺なんかよりずっと賢い頭脳が詰まっている。

 こいつ、人生5周目くらいなんじゃないか……?


「そういえば、おじさんって名前なんて言うの。世界にはおじさんがいっぱいで困るよ……」


 確かにそうだ。この街を歩けば掃いて捨てるほど「おじさん」はいる。


「自己紹介がまだだった。俺の名前は、タナカ・マサシ。……呼び方は何でもいい。改めてよろしくな」

「じゃあタナマサ、ね。覚えたよ」


「タナマサ」て。

 絶妙に締まらない略称をつけられてしまった。

 前世でも三十年近く「タナカ」や「マサシ」として生きてきたが、その二つをマッシュアップされたのは初めてだ。本人が満足げなので良しとするしかない。


「それで、少年。お前の名前は? さすがにずっと『少年』って呼ぶわけにもいかないだろ」


 俺が問いかけると、彼は少しだけ立ち止まり、満足げに微笑んだ。


「僕は『少年』だよ。気に入ってるんだ、その呼ばれ方」


 ……参ったよ。ほんと。

 名前を教えたくないのか、それとも本当に名前という概念に執着がないのか。

 いずれにせよ、その達観したような微笑みを見る限り、これ以上踏み込むのは無粋だと言われているような気がした。


「……わかったよ、『少年』。これからよろしく頼むわ」

「そんなことより着いた。ここだと思うよ」


 少年の指差す先を見上げて、俺は言葉を失った。

 そこにあったのは、青と黒のコンテナが不規則に、だが絶妙なバランスで積み上げられた二階建てのコンテナハウスだった。

 周囲の木々に溶け込むような無機質なフォルム。一階にはウッドデッキが広がり、屋上からは煙突が突き出している。


「……おい少年。これ、一軒家じゃないのか?」

「まさか。一階には別の住人がいるよ。タナマサ部屋は、その上の青いコンテナの方さ」


 言われて一階の入り口を見ると、そこには生活感のある雑貨が置かれ、誰かが住んでいる気配が漂っていた。一階の住人がどんな奴かは分からないが、とりあえず「ご近所付き合い」という現代社会と同様の悩みが、異世界転生二日目にして早くも発生してしまったわけだ。

 俺は期待と少しの緊張を抱えながら、鉄製の外階段に足をかけた。


 ———カツーン、カツーン……。


 乾いた金属音が静かな森に響く。

 階段を上りきった先、二階のテラス部分は意外と広く、そこからはベネフィカの街並みが木々の隙間から一望できた。


「……最高じゃねぇか」


 目の前には、鮮やかな青いコンテナの壁と、重厚な鉄の扉。

 俺は錆びついた鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと回した。


 ———ギィィ……ッ。


 重い鉄の扉が開き、長年閉じ込められていた空気が外へと流れ出す。


「う、嘘だろ……」

「すげぇ......」


 少年と二人、開いた口が塞がらない。

 重厚な木のテーブル、クッションの厚そうなソファ、そして奥には清潔そうなベッドまで完備されている。それどころか、棚には陶器の食器が並び、生活必需品は一通りそろっている様子だ。


 少年曰く、この世界の住人が引っ越しをしないとのことだが、それにしてもまるで「ちょっと散歩に行ってくる」とでも言いたげなほど、生活感のある部屋だ。

 何にせよ、有難く使わせていただこう。


 家具がそろっているのは良い点だが、この部屋にはもちろん悪い点もある。

 おそらく、ここの住人が引っ越してからかなりの年数が経っているのだろう。

 目を凝らして見れば、さっきまでヴィンテージ風でお洒落に見えていた壁のシミは、黒ずんだカビであることが分かった。


「タナマサ!これ……家具付きだけど、『カビ付き』物件でもあるね!」

「少年、笑い事じゃない。このまま寝たら、明日には俺の肺までカビに侵食されるぞ……。さぁ、掃除の時間だ!」

「え~!僕もやるの?」


 少年は呆れたように肩をすくめながらも、袖をまくってくれた。

 いや、本当に申し訳ない。子供をこき使うなんて、前世の俺が聞いたら「なんて奴だ」と軽蔑するだろう。だが、背に腹は代えられない。大掃除の時間だ......。

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