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ブラック転生~神からもらった杖の性能が最強でした~  作者: 弓藤千人
第1章 ギルド入会編

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第8話 悪徳商人を成敗!

 コンコン、と頼りない音を立てる扉を叩き、中へ踏み込む。


「失礼しま~す」

「なんだチビ助。ここはお前のようなガキが来る場所じゃねぇぞ」


 煙の充満した室内。カウンターの奥にいたのは、岩のようにいかつい坊主頭の男だった。

 咥えた葉巻を揺らし、鋭い眼光でこちらを睨みつけてくる。この【家貸屋】の店主だろう。


「いえ……用があるのは僕じゃなくて、このおじさんです。家を探しているみたいで、連れてきました」

「ほう……そうかい。まぁいい、そこに座んな」


 店主は葉巻を咥えながら、棚から年季の入った分厚い台帳を取り出し、俺の向かいにドカリと腰を下ろした。


「で、どんな家を探してんだい?」

「手持ちが、10,000リースしかなくて、欲を言えば、5,000リースでお借りしたいです」


 ――静寂。

 次の瞬間、店主の坊主頭が小刻みに震え、爆発したような笑い声が室内に響いた。


「ハッ! 5,000リースだと? ギャハハハ! お前、どこの田舎から出てきたんだ? その額じゃあ、貴族の家の犬小屋だって借りられねえぞ」


 葉巻の煙を顔に吹きかけられ、露骨に馬鹿にされる。

 正直、ここで魔獣を消滅するほどの魔法を出してやろうと思ったが、やめておこう。

 店主の機嫌を損ねれば、今夜は寒い路上で寝る羽目になるからだ。


「そうですよねぇ……。アハハ……」

「まともな家に住みたければ、月15,000リースは払ってもらわねぇとな」


 15,000リースか。……無理だ。

 そもそも次の仕事が貰えるかも怪しい俺にとって、最大限まで背伸びをしても、出せるのは6、7000が限界だ。

 それ以上出せば、次は「家はあるが食うものがない」という本末転倒な事態に陥る。

 ――甘かった。

 やはり、路上で生活しながら金を貯めるしかないな...。


「冷やかしてすみませんでした...。少年、帰ろうか...」


 情けない声を漏らし、俺は店を後にしようと背を向けた。

 だが――。


「ダウト...」

「え?少年...」


 その口から発せられた言葉と重苦しい雰囲気は、到底、この小さな子供から放たれたものとは思えなかった。


「お前、ガキ……今、なんて言った?」

「店主さん、嘘ついてるよね?」


 少年が怖いくらいに店主を問い詰め始めた。

 これでは、店主の逆鱗に触れてもおかしくない。

 あまりにも危険すぎる。


「少年。やめようか...」

「やめないよ。おじさん。あそこの貼り紙見てごらん?」

「貼り紙?」


 俺はその内容を読み取ろうと、目を凝らした。


 ――――――――――――――――――――


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 ※前払金物件あり


 ――――――――――――――――――――


 といった内容の貼り紙だった。

 店主のガラの悪さが書かれていないこと以外は特に違和感を感じないが...。


「どこが嘘なの少年」

「そうだ。言いがかりはやめておきなクソガキ」


 少年はにやりと不敵な笑みを浮かべて、話始めた。


「前払金物件の説明を受けてないな~」

「...!?」


 前払金物件?俺には意味が分からない。直感だが、金を先に払うってことだろ?金の持ち合わせのない俺にとっては一番都合の悪い物件じゃないか?後払金物件がいいんだけど...。


「少年さ。恥ずかしい話、俺には先に払える余裕なんてないぞ」

「そうだ。お前が金がないっていうから、親切心で省いてやったんだ!」


 店主がここぞとばかりに声を荒らげ、正論っぽく畳みかけてくる。

 確かにそうだ。さっきの俺のセリフを聞いていれば「前払い」が必要な物件なんて、はなから選択肢に入るわけがない。


 だが、少年の不敵な笑みは消えない。

 それどころか、憐れむような目で店主を見つめている。


「おじさん。前払いが必要なのは、おじさんじゃない。『前の住人』だよ」

「……は?」


 前の住人が金を払う?意味がわからない。

 そんなの、俺の家賃に関係あるのか?



「おじさん、このチラシのここ。隅っこの方に、ありみたいな文字で書いてあるでしょ?」


 少年の指先が、店主が太い指で必死に隠そうとしていたチラシの最下部を指した。

 そこには、掠れたインクでこう記されていた。


【※ 本物件は前住人による全額供託済み(前払金物件)につき、新規契約者は事務手数料のみで可】


「……事務、手数料?」

「そう。この物件はね、前の住人が何らかの事情で——夜逃げか、あるいは死んじゃったかして、一年分以上の家賃を既に納入済みなんだ。でも、一度納められた家賃は『組合の掟(ギルド・ルール)』によると返還されない。つまり、大家である店主さんは、もう一銭も損をしない状態でその部屋を抱えてるってこと」


 少年の言葉は、ナイフのように鋭利だった。


「本来なら、新しく入る人は事務手続きの『4,800リース』を払うだけで、一年間タダ同然で住めるはずなんだ。……なのに、店主さんはおじさんに『月15,000リース』を吹っかけた。この賃料が妥当な家だと仮定して、前の住人から一年分の賃料180,000リース、おじさんからも月15,000リース。……ねぇ、二重取りって、ベネフィカの商法にも商業組合の掟上も重罪じゃなかったっけ?」


 少年の追い打ちに、店主はついに言葉を失い、金魚のように口をパクパクとさせた。

 俺が味方につけたのはとんでもない少年だったらしい。

 少年の理詰めに触発されて、俺も少しばかり気が大きくなってしまった。

 ゆっくりと立ち上がり、店主の前の契約書をトントンと叩いた。


「……店主さん。4800リースだ。端数は……まぁ、お近づきの印に5000リース払ってやってもいいぜ。今すぐ、その条件で書き直してくれ。……それとも、今から商組に『違法商売の相談』でもしに行こうか?」

「あぁ。わかった。もう勘弁してくれ......」


 さっきまで葉巻をくゆらせていた不遜な態度はどこへやら。彼は震える手でインク瓶にペンを浸し、ガリガリと音を立てて契約書を書き直し始めた。


「……事務手数料、4,800リース。初年の家賃は前借主分にて充当……。これで、いいんだな」


 店主は絞り出すような声で確認し、俺の前に新しい紙を差し出した。


「いいよ。おじさん、物分かりが良くて助かるよ」


 俺は懐から、初報酬の入った麻袋を取り出し、事務手数料5,000リースをカウンターに置く。


「釣りは要らねぇよ。……その代わり、鍵は今すぐ寄越せ」


「……ああ。……ほらよ」


 店主は忌々しそうに、カウンターの奥から錆びついた鍵を放り投げた。


「行こうぜ、少年......」

「おじさん、運がいいね」


 少年が横でクスクスと笑う。

 そして俺たちは、契約書に書かれた場所を目指して歩き出した。

少年の賢さを表現したいあまりにいつもより分量が多くなってしまいました。

いつもお読みいただきありがとうございます!

ぜひ、次回もお楽しみに!


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