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ブラック転生~神からもらった杖の性能が最強でした~  作者: 弓藤千人
第2章 バクラ洞窟編

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第16話 ハイツ村のライエルさん

 五十年前のハイツ村。

 活気に満ちたその地に、一人の来訪者が現れた。


 赤褐色の髪。尖った耳。しかし、誰もが足を止めたのはその瞳だった。

 男の目には、白目がない。

 虚無そのもののような黒い瞳に、村人は恐怖し、距離を置いた。

 ――だが、その中で一人。ある村の青年だけが、男の目の前に向かった。


「その怪我、何にやられた」

「……すまない。まずは水を」


 青年は男の肩を支え、奥へと招き入れた。

 冒険者だと名乗った男は、死臭を纏っていた。

 道中、魔獣の群れに蹂躙されたという。


 その男の名は、ゼル。

 青年と意気投合した彼は、そのまましばらく村に居着いた。


 彼は優秀な魔導士だった。

 火を操り、村人の困りごと次々に解決した。

 何の対価も求めず、助けてもらったお礼にと村の仕事を懸命に手伝った。

 最初は異形の冒険者を気味悪がっていた村人たちも、彼の献身にほだされ、いつしか彼は村の「恩人」になっていた。


 ――事件はそれから数ヶ月後の夜に起きた。

 村には年に二度の祭礼がある。春の豊作を願う『陽光祭ようこうさい』と、秋の収穫を祝う『実りみのりさい』だ。

 その日は陽光祭。大勢の村人たちが森の奥地へ集った。



 ◇◇◇◇◇



 祭りを終え、村人たちが村へ戻った時。そこはすでに地獄と化していた。

 畑は荒野と化し、家々は骨組みまで焦げている。 

 決定的なのは、村の命綱たる井戸と水路が根こそぎ破壊されていたことだ。消火活動すら許さぬ業火。そして、村の片隅では、焼死した村人たちが積み上げられていた。


 そしてそこに、ゼルの姿はなかった。

 後に判明する真実だが、彼は人間ではなかった。

 この村を滅ぼしたのは、かつて人間を蹂躙した存在――魔人の仕業だったのだ。




 ◇◇◇◇◇



「これが、この村がよそ者を固く拒絶する理由さ。……君たちは何も悪くない。ただ、巡り合わせが悪かっただけだ」


 老人の言葉が、重くのしかかる。

 すべてが腑に落ちた。

 村人たちの、あの底冷えするような敵意。

 そもそも、この村にとって『よそ者』とは、五十年前の惨劇を想起させる忌まわしい存在そのものだったのだ。


 それなのに、何も知らない俺たちはあろうことか、喉の渇きを癒やすために「水をくださ~い」なんて言って村へ踏み込んでしまった。

 ……村人からしたら最悪のデジャヴだ。

 これでは、忌まわしき魔人と同じではないか......やらかした。


「魔人によって一度滅んだのですか......」


 老人は虚ろな瞳で頷いた。


「ああ。だが話はそこで終わらん。我らは血眼で奴を探した。だが、影も形も見つからなかった。……村を焼かれた怒り、家族を失った憎しみ。その行き場を失った全ては、魔人ゼルを招きいれた青年のライエルが引き受けたのだ」


「......え?」


 ライエル?

 その名が、記憶の断片と結びついた。

 俺はすぐさま、リーゼに預けていた依頼書を求めた。

 そう言えば、鞄に入れていたか?

 すまないリーゼ。女子の鞄を漁るなんて許されないことはわかっているんだ。

 だが、これは緊急事態だ。


 俺はすやすやと眠るリーゼに手を合わせて鞄をガサゴソと漁り、くしゃくしゃになった紙切れを引っ張り出し確認する。


 ――依頼主:ハイツ村のライエル


 確信した。村を追放された青年こそが、俺たちを雇った依頼主だ。


「どうしたんだい?そんなに慌てて......」


「お爺さん。俺たちそのライエルって人に会いに来たんだ!」


 老人が驚いた表情をしているが、俺は構わず畳みかけた。


「彼に会いたい。居場所を教えてください!」

「……ああ。知っているとも」


 まじか。

 神に放り出された異世界生活だが、どうやら俺の『引き』は相変わらず最高らしい。

 この世界に来てからというもの、本当に運だけで生きている気がする。


「では、早速案内を!」

「案内? ……それはできないな。というより、する必要がない」


 思考が停止した。さっきまで饒舌に歴史を語っていた老人が、急に支離滅裂なことを口走る。


「何を言ってるんですか。案内してくれないと困るんですよ!」

「……私が、そのライエルですよ」


「はぁぁぁぁっ!?」


 目の前の老人が、依頼主――ライエルだった。

 あまりの衝撃に俺が叫んだせいか、眠っていたリーゼが不機嫌そうにまぶたを開く。


「……うるさいわね。何よ」

「やったぞリーゼ!ライエルさんだ!」


 興奮してリーゼの肩を揺さぶり、勢い余って抱きつこうとした瞬間。


 ――ゴツッ。


 強烈な右ストレートが俺の顎を捉えた。


「……落ち着きなさいよ。何があったのかしっかり説明して」


 ヒリヒリとした痛みをこらえ、俺は深呼吸をして高揚を抑える。

 このままでは、ただの変態だ。俺は顔を上げ、リーゼに向かって手短に要点を告げた。


 一つ、俺たちがボロボロで倒れていたところを、この老人が救ってくれたこと。

 二つ、この老人こそが、依頼主であるライエル本人であること。


 リーゼの反応は、拍子抜けするほど淡白だった。

「あら、ほんと?よかったわ......」といった感じで、冷めてやがる。

 なんか俺だけテンション高くて恥ずかしくなってきたわ。


「まずは、命を救っていただき感謝します」

「いいさ。そんなことより、何の用で私を訪ねてきた?」


 老人は淡々と問い返す。俺はすぐさま、懐からあのくしゃくしゃになった依頼書を突き出した。


「これです」


 老人はそれをひと目見て、悪戯っぽく笑った。


「ああ、懐かしい。間違いなく、この依頼主は私だよ」

「……本当ですか! よかった!」


 依頼主さえ特定できれば、あとは消化試合だ。

 洞窟へ入り、鉱石を回収し、速やかに帰還する。単純作業だ。

 何ならここまでの道中の方がきついんじゃないかな。

 帰りは転移魔方陣とかないかな。


 ひとまず俺たちは、ライエルさんに依頼の詳細を聞いてみることにした。



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